第4話
それはちょうど今から一年前のこと。彼ことルミナス・フレイアがこの世界に生まれた頃の物語。
彼は、草原に流れる小川を覗き込んでいた。清水に映るのは、彼にとって見覚えしかない少女の顔だった。
いわゆるゴスロリの黒ドレス。真紅の瞳と、可愛らしい童顔。黒髪をハーフツインテに結び、ローファーをはいたその少女こそ、彼が生前愛してやまなかったソシャゲの推しキャラ、ルミナス・フレイアであった。
「これ、ルミナスだよな。俺が愛する、ルミナス・フレイアだよな。いや、絶対そうだ。この赤い目と黒髪のハーフツインテ。何よりこのフリル盛りだくさんのゴスロリ。間違いない、ルミナスだ。でも、どうして?」
鏡と違ってはっきりと映っているわけではないためぼんやりとではあったが、彼は今の自分の容姿を確認した。そして、それが自分の推しキャラであることを悟ったのだ。
そして、清水を覗き込んで映った顔がルミナスの者であるということはつまり
「俺、ルミナスに転生したのか?」
ということになる。
「えっ!? マジで……やばい。めっちゃ嬉しい。え? マジでルミナス? 冥界からの使者ルミナス? 時空を司る邪神教最高司祭ルミナス? あのソシャゲにおいてどんな環境であろうとtierSSでい続けた、あのルミナスか!? え、マジでめっちゃ嬉しい……」
彼は、純粋に感動していた。
「でも……いちち、やっぱり頭いてぇ。何なら腹もいてぇ……転生前と何も変わってないのか?」
今の彼は猛烈な頭の痛みとお腹の痛みに襲われていた。
「いや、確かにこの体でも異世界なら、とか言ったけど。そこら辺はもっと親切設計でいようぜ? ほら、せっかく転生したんだからもっと強力な肉体にね? 何も貧弱体質を受け継ぐ必要はなくてだね?」
喜びの感情が一転、悲しみの感情になり彼の口から溢れ出る。
「くそっ、ルミナスには病弱設定はなかった。やっぱりこれは俺のせいなのか? ……いや、ちょっと待て。本気で吐き気が……うぷっ!? げえええぇっ」
吐いた。それはもう、満足いくまで吐いた。綺麗な小川に彼は心行くまで吐きだした。そのおかげが、顔色はほんの少し改善した。
「いや、まあ吐けば多少は楽になるけど、この顔で吐きたくなかった……」
なにやら悲しそうな表情をしながら、彼は口元と手を小川の水で洗った。それはもう、念入りに。
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