第3話

 自分が転生するきっかけを思い出して、彼は少し俯いた。どういう経緯であれ、自分は一度死んだ。それを改めて自覚するとどうしても負の感情が湧き出てくる。今更だが親に心配させたかだとか、やり残したことはなかったのかなどと自問してしまい、不注意で死んだことを後悔していしまいそうだった。

 それでも今は自分に尽くしてくれるティナたちがいるし、やりたいことが見つかっている。この屋敷にいる者たちと一緒に暮らす日々は本当に楽しいし、この世界で不意に命を落としたときの方がよっぽど後悔しそうだ。

 それほどまでに、今までの一年間は濃厚で大切な思い出だ。振り返ってみれば、大変なこともあったが楽しいことばかりだった。自分がここまで成長できたのもここに来たおかげだし、体調不良と戦いながらも苦しいと思わないのはティナたちが必死に面倒を見てくれているから。そう考えたら、彼は自然と笑みを取り戻していた。


 激しい下痢との激闘の末、三十分ほどかけて用を足した彼は備え付けられた手洗い場で手を丁寧に洗い、お手洗いの扉を開けた。


「あら? ルミナス様、もうお加減はよろしいのですか?」


 そこにはやはりティナがいて、柔らかい笑みで彼を出迎えた。

 彼がこの世界にとどまる理由。いつまでも守りたちと思える宝物。何よりも大切と言っても差し支えないほどには信頼しているし大好きだ。

 それはもう死ぬならティナと一緒にと思うほどに。まあ、彼はまだしばらくはティナたちとの楽しい日々を過ごしたいと考えているので一緒に死ぬより身を犠牲にしてでも一緒に生きるつもりでいるようだ。


 彼はティナに向けて、彼も小さく笑みを浮かべて言った。


「頭いてぇ」

「さようでございますか。お薬の準備をしますね」


 頭に手を添えた彼に向けて、ティナは少しの困り顔を向けた後主の要望に応えるべくてきぱきと行動を開始した。

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