第2話
それは一年くらい前のこと。彼は普通の高校生として高校に登校している最中であった。
彼は生まれつき体が弱く、喘息片頭痛過敏性腸症候群歯周病アレルギーetcなどと言った様々な症状を抱えており、日々の生活がままならないほどであった。だが、社会的に見れば入院するほどでもなく、病院に通ったところで薬を処方されて終わる。
一つ一つの症状が軽いため、特に対策を講じてもらえることもなく一般人扱いをされている。最近では片頭痛になった時に起きた小さな眩暈が原因で右手の肘を打撲した。他にも、杉の花粉が舞っていて鼻詰まりが酷く、蓄膿症と診断され、それが原因で口呼吸になり、扁桃腺の炎症も確認された。
今朝も頭痛と喉の痛み、鼻詰まりと過敏性腸炎症候群による腹痛に耐えながらの登校であった。
彼が高校に入学したのはつい一か月ほど前。しかし、入学当時から季節の変わり目ということや杉の花粉が酷かったことが相まって連日学校を休むことになっていた。それでもうすでに、出席日数がやばいことになっていた。
そういうわけで彼にはもう学校を休んで休養をとるという選択肢はなく、渋々学校に通い始めて三日。彼はもう限界だった。
積もり積もった課題、全く追いつけない授業、すでにグループ分けが終わったことによる過酷な人間関係。それらの環境が彼を一瞬にして絶望へと追い込んだのである。だがしかし、それでも彼に学校を休むなどという選択肢はない。
中学三年生当時遅刻や早退の常習犯だった彼は基本的に家を出ることは難しく、親が高いお金を払って家庭教師を雇っていた。そうして何とか底辺高校に入学し通うことになったが、それにかかった費用は人の数倍以上だ。頭痛や腹痛の痛み止めの薬代、アレルギーが酷いため栄養が偏っては困ると用意された大量のサプリメント代、筋力低下を防ぐための筋トレ器具とプロテイン代、アレルギーで小麦が食べれないため少し割高となるがグルテンフリー料理代など、色々な場面で両親に迷惑をかけたと思っている彼には、ここで学校をやめるなどと言い出せるほどの度胸はなかった。
「はぁ……この体でも、学校がない世界線だったらもう少し楽に生きられたのだろうか……何なら、ファンタジー世界でもいい。魔法が使えるならこの貧弱な体でも強くなれるかもしれない。最近はまってるソシャゲのキャラになれたら、どれだけ楽しいことか……」
頭痛による眩暈と腹痛で足取りが重い彼は、他の学生よりもかなり早く登校していた。そして今日は運悪く曇天だ。
彼の片頭痛は気候の変動によって酷くなるため、今日は月に数度のかなり酷い部類の頭痛だった。だからこそ、気付けなった。曇天で薄暗い道に走る、一台のトラックに。そしてトラック側もまた正面から進行しているというのに彼に気づかなかった。彼が腹を抑えながら低い姿勢をとっている、というのもあるが夜勤帰りで運転手が注意を怠っていたからだ。
その結果――
ブオオオォン
ドンッ
――そんな鈍い音とともに、彼の命は奪われたのだった。
そんな彼を見て神は哀れに思ったのか、それともただの気まぐれか。彼を異世界に転生させたのだった。
それがちょうど今から一年前。考えてみれば運がいいのか悪いのかはわからないが、それでも彼にとっては人生がよい流れに変わったきっかけだったのだろう。だって今がこんなにも幸せなのだから、と彼は心の中でそう言った。
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