第2話


「騎士アルタージェの所属は第三隊だ。騎士隊本部と隊舎に案内するから付いて来てくれ」

 ハウダート・バルサスと名乗った先輩騎士に先導されて、僕は王宮を後にした。

 先輩騎士の年齢は、見たところ二十代の半ば辺り。

 所作に隙が殆どなく、騎士に相応しい実力の持ち主である事が見て取れる。

 確かバルサス家は、六家の一つ、貫きのローザントの流れを汲む武家だ。


 しかしそれよりも重要なのは、僕の配属が第三隊であるという事。

 予想通りの配属に、僕は内心で安堵する。

 僕にとって第一隊はあまりにアウェーで、第二隊の配属になれば身内贔屓が過ぎるから、第三隊への配置は実に無難なものだった。

 何故なのかと言えば、少し政治的でややこしい話になるのだけれど、簡単に言えば騎士団に三つある隊のうち、辺境守護と他国との戦いを担う第二隊の長が僕の祖父であるドゥヴェルガ・アルタージェなのだ。


 僕の祖父……、爺様は身内に甘かったり贔屓したりする人間では決してないし、寧ろ身内だからこそ厳しく、地獄のような訓練を施されているのだが、その周囲は決してそうではない。

 爺様に敬意を抱いたり、中には心酔してる人すらいる第二隊の騎士達は、どうしても僕を特別扱いしてしまうだろう。

 そうでなくとも爺様が時折だけれど家に連れ帰って来る騎士達とは、僕が幼い頃からの顔馴染みなのだし……。


 ちなみに第一隊が僕にとってアウェーな理由は、祖父と第一隊が不仲であるから……、等ではなく、祖父の血を引くアルタージェ家を取り込む為に、政治的な工作や誘惑を僕に仕掛けて来るだろうから。

 そう、これが僕が若干14歳にして騎士に任じられた理由の一つでもあるのだろうけれど、僕の祖父、ドゥヴェルガ・アルタージェはこのアウェルッシュ王国にとって、少し特別な騎士だった。



 けれども祖父の話をする前に、この国の騎士団の説明をしたいと思う。

 多分きっと、その方が最終的にはわかり易い筈だ。


 騎士団の頂点は、騎士団長。

 アウェルッシュ王国における騎士団長の地位は非常に高く、格としては大臣とほぼ同等に扱われるらしい。

 その次に第一隊、第二隊、第三隊の隊長である特級騎士が三人。

 第一隊は王城及び王都周辺の守備を担う。

 任地が王城や王都周辺である為、どうしてもその任務は政治色が強い。

 第二隊は先程説明した通り、辺境の守護及び他国との戦争を担当している。

 別名として、第一隊は近衛隊、第二隊は遠征隊とも呼ばれる事もあるそうだ。

 そして僕が配属される第三隊は特定の地域には拘らず、第一隊や第二隊と共同したり、或いは第一隊や第二隊の穴を埋めるような役割を果たす。


 特級騎士の三人に次ぐのは、アウェルッシュ王国の武の象徴である上級騎士が十五人。

 第一隊に三人と、第二隊に四人、第三隊にも三人所属していて、残る五名は王の直属。

 アウェルッシュ王国の上級騎士は一騎当千と他国に恐れられている。

 僕は流石にそれは少しだけ大袈裟なんじゃないかと思うけれども、知人の、第二隊の上級騎士は、百人斬りくらいは簡単にこなすかもしれない。

 あと爺様は、本当に一人で千や万の兵に相当しても、ちっとも不思議じゃない程の化け物だ。


 また上級騎士の中には特別な乗騎、貴重な空飛ぶ魔物であるグリフォンを駆る者がおり、それを特に区別して天騎士と呼ばれていた。

 アウェルッシュ王国に天騎士は五人居て、第一、第二、第三の各隊に一人ずつと、王の直属に二人。


 最後に僕がなったばかりの正騎士、要するに普通の騎士がそれぞれの隊に十~二十名程居て、騎士団の総数は隊長や団長までを含めても七十名に満たない。

 しかしそのたった七十名を、万を超える軍勢を抱える周辺国家は激しく恐れ、警戒している。

 またその七十名は殆どが六家と呼ばれる武家に所縁の者達だった。



 アウェルッシュ王国の頂点に君臨するのは当然ながら王家だが、特権階級は他に三種類存在する。

 一つは司祭等神に仕える者達で、これに関しては特権は所持していても国家に従う存在ではないので語らない。

 二つ目は貴族で、彼等は領地を栄えさせ、国を富ませる役割を担っている。

 独自に兵力を抱えるが、貴族に仕える騎士は居ない。

 三つ目は武家で、彼等は騎士を排出する為に血を保ち、技を受け継ぎ練り続ける事が存在意義だった。

 そう、闘気法を扱う為の特別な才能は、ある程度だが遺伝するのだ。


 気を高めて病を遠ざける健康法的な物はともかく、どうにか戦闘に役立つレベルの闘気法を扱う才を持つ人間は、およそ百人から千人に一人と言われている。

 百と千では大分と話が違って来るけれども、そこは実際に戦闘に耐えうると判断される水準が違うのだから仕方ないだろう。

 まぁ何にせよ、闘気法を扱える人間は貴重である事だけは間違いがない。


 そして闘気法を扱える者や、血縁者が闘気法を扱えた者同士を婚姻させ、より高いレベルで闘気法を扱える子供を生み出す事に腐心しているのが武家、または六家という存在だ。

 六家は武家の祖であり、また流派でもある。

 元々は六つしかなかった武家の祖は道場を開き、集まった訓練生の中から闘気法の才ある者を選び出しては血を取り込み、闘気法を扱える者を増やして行った。

 健康法としての気の扱いは民間にも広まっているが、闘気法の扱いに目覚める為には、基本的には先達の導きが必要だ。

 余程の才覚に恵まれれば独覚、自ら気の扱いに目覚める事もあり得るが、大体は己の気を制御できず、暴走の末に死か廃人の道を辿る。


 故に六家は導きを対価に才ある者を取り込み、闘気法を扱える騎士を排出し続けた。

 全てはアウェルッシュ王国の武威の為に。

 今現在、アウェルッシュ王国の武家と呼ばれる特権階級は、全て六家と縁のある分家で占められている。

 あぁ、違う。

 ただ一家だけ例外があって、それがアルタージェ家。

 独覚として闘気法に目覚め、ただの兵士から騎士へと成り上がった爺様、ドゥヴェルガ・アルタージェの興した家だけが、今のところはその例外だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る