砂漠の子と星の子

佐々木 煤

三題噺 「星」「オアシス」「役に立たない子ども時代」

 砂漠の王国の下級平民に生まれた私は、国境にある塀の砂を掃く仕事を幼い頃からやらされていた。砂漠なので、砂は掃いても掃いても出てくる。掃いて捨てる程いる下級平民にやらせるにはうってつけの仕事だった。終わりのない作業、目の光のない平民達、砂まみれで汚い私。何にも役に立たない子供時代を送っていた。

 唯一の楽しみは星を眺めることだ。家は小さく窓も小さい。おまけにいろんな家が密集していて落ち着かない。なので外で邪魔されずにゆっくりと過ごせる大事な時間なのだ。星は誰にも平等だ。卑しい私でも、王族でも見ることができる。自分の身分を感じさせない時間でもあった。

 ある星を見ている夜、声を掛けられた。

 「やあ、一緒に見てもいいかい?」

 見ると、私と同じようなぼろを纏った小柄な男の子がいた。

 「見るのは良いけど、私に話しかけないでね」

 「うん、ありがと」

男の子は隣に座ってきた。星が燦燦と煌めいている。風が砂をなでる音だけ聞こえる。世界を構成するものは星と風と私しかない。

 「ねえ、君はいつからここにいるの?」

私の世界に男の子が入って来た。

 「話しかけないでって言ったじゃない」

今日はもう帰ろう。立ち上がると手を引かれた。

 「ちょっとだけ、君が気になるんだ」

彼の顔を見る。星のようにきらきらとした目をしていた。

 「すこしだけなら」

座り直して、手を拭いた。なんだか彼に触れてはいけないような気がした。

 「君はいつからここにいるの?年はいくつ?」

 「生まれた時から、年はたぶん12とか」

 「たぶんって、誕生日は祝わないの?」

 「生まれた日を祝うの?なんで?」

彼は悲しげな表情をして、しばらく考え込んでいた。

 「そうか、そうなんだね…」

 「ちょっとだけだから、もう行っていいかな?」

そろそろ帰らなければ明日の仕事にひびいてしまう。

 「話をしてくれてありがとう、明日は仕事に行かなくても大丈夫だよ。むしろ、外に出ない方がいい。」

仕事にいかなくてもいい?そんな訳ないだろう。不思議に思いながら家に入る。母と父はもう寝ていた。私ももう寝よう。

 翌朝、目覚めると母も父も家にいた。いつもなら私が起きた時間には仕事に行っているはずなのに。コップに水を入れてテーブルに座る。

 「おはよう、なにかあったの?」

二人は顔を見合わせた。難しい顔をしていたが、父が口を開いた。

 「革命が起きたんだ。隣のオアシスの国から王子が来て、国王を殺した。今日から何が起きるかわからない。しばらく家にいるぞ。」

 それから、家に輝くような水色の衣を着た男達が来た。もう身分はなくなった、砂を掃く仕事もやらなくてもいい、別のもっとためになるような仕事を与える、全てはこの王子のおかげですと言い、一枚の紙を父に渡してさっさと次の家に行ってしまった。紙の文字は読めなかったが、描かれている王子が昨日の彼だとわかった。

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砂漠の子と星の子 佐々木 煤 @sususasa15

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