終わり
私は本から顔を上げた。
長い旅から帰ってきたような気分だった。あたりを見回すと、私は図書館の机の上に座って、本を読んでいたようだ。前足で本を閉じて、そばにいる司書に向き直る。
「おかげで友人の猫を見つけることが出来ました」
「それはよかった」
司書は静かにうなずく。
いくつもの本の間を遊歩してようやくここへ戻ってこれたようだ。
私は机へから降りて、図書館の床に降り立った。するとほかの猫たちが寄ってくる。
「ありがとうございます! あなたが逃げ回ってたおかげで、アレは無限に続く作中作の奈落の穴に捕まえることが出来ました! 猫の王が待っていますので、お祝いしましょう!」
「これで革命の邪魔が一つ減ったぞー!」
「宴だ! パーティーだ!」
「食べよう! 遊ぼう!」
私は少し考えて首を否定の形に振った。
「残念ながら、私も猫としての道を歩むための準備がいいます」
私はそう言ったが、他の猫たちはしつこく誘ってくる。しかし、ようやく諦めたのか、少し残念そうに去っていった。しばらくすると、遠くからどんちゃん騒ぎの音が聞こえた。
「出口までお送りしますよ」
司書が帰ろうとする私に横に並んで言った。どうやら普通に外へ出してもらえるようだった。では革命とはいったい何だったのだろうかと聞くと、猫たちの遊びのようなもののそうで、別にこの館に監禁しているわけではないらしい。ただ今更野生に帰るのは難しいようだった。だから何度も脱出しては戻ってくるのだという。
これはある意味自由という名の牢獄に囚われているのかもしれない。
それっぽいことを思いながら私は頷いた後、そのまま出口へ向かう。
「ところで、この図書館へ来た私の物語の主である老婆はどうなったんです?」
私は何となく疑問を口にした。
「残念ながら猫を見つけることが出来ずに、去られました。一応夫婦仲は悪くないと聞いていますが」
そうですか、と私は呟いた。
帰りの図書館の道は特に不思議なことのない、普通の図書館に見えた。あまり派手なことをして、帰りづらくならないように館も気を使っているのかもしれない。本が光ったりはしないし、雨も降らない。まるで魔法が溶けたようだった。外に出ると、夕暮れが近づきつつあった。
しばらく黄昏ていると、突如地響きが響いた。
まず一匹の猫が図書館から出てきて、私を追い越して走っていた。
また一匹、一匹とどんどんと館から出てくる。さらには大群となり、川の流れを思い起こす規模となった。どん、という音と共に球体上の猫星が扉や壁を壊しながら、出てきて突風と共に雲が放出された。雲は空に向かって伸びやがて猫の形をとった。やがて最後に子猫が遅れたように出て、叫びながら私を追い越した。
「ははははは、司書を出し抜いてやったぜー!」
そういえばここは物語の中だろうかという疑問が残っていたのを思い出したが、そもそもの話私自身が物語なのだから何の意味もないことに気が付いた。
私は物語でありながら、欺瞞ではあるが一時的に人の物語から解放されている。だから老婆の物語の続きを紡ぐ義務はない。友人との関係に何かしらの終止符をつける必要はない。しかし権利はある。どちらを選ぼうか。老婆に会いに行くか、それとも自由に歩くか。
私はため息をついて、どうにでもなれと道を進み始めた。
プルソンの図書館 五三六P・二四三・渡 @doubutugawa
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