血統史
魔術死団は後衛から兵士たちの支援を行っていた。兵が集まっている村から少し離れた場所の、誰もいない森の中で天幕を張り儀式を行っている。
転移魔方陣を開いてプルソンの図書館へと繋ぐ。そして手ごろな使い魔の猫を召喚する。
魔術的に強力なな猫の生成自体は禁止されていない。しかし『猫を傷つけてはならない』というのは意図的に他者に傷つけさせてもならないという意味でもある。猫を縛り付けた盾を使った場合、その盾に攻撃した者、使った者、作戦を考案した者すべてに呪いが降りかかることになる。どういった因果で呪いが降りかかるかよく『流れ』を管理しておかなければならない。
魔方陣から数匹の猫が出てきた。白に黒いまだらの模様を浮かべているのは『地球王の物語』稲穂のような毛を携えているのは『硝子機関』泥に汚れた獅子ほどの大きさの灰色の猫が『ルギハスクの紺壁』だった。
「『地球王の物語』は幸運を呼び寄せるので、軍と一緒に向かうように。『硝子機関』は子が強力な魔法人となるので、最初だけ見て役に立たないと思わないで。ルギハスクの紺壁は単純に戦闘力が高いので。ただやはり傷つかないように注意して」
魔術師たちにそう言われて兵士は戸惑いながらも、教えにしたがった。
魔術師たちは猫を置いてその場からすぐに去った。いくら使い魔であるとはいえ、こんなちっぽけな存在に命を預けるのかとと嘆く声がたびたび上がった。それでもほかに道はなく、人々は進むしかなかった。
結果から見るとこの軍は敵国に勝利をおさめ、猫の功績は大きかったとされる。多くの市民を救ったとされる猫たちは偶像化され、その血統は価値のあるものとなった。ただその猫でがいなければもっと死人を減らせた説や、実はあまり役に立っていなかった説、最初から存在していなかった説も浮上し良くも悪くも後に注目される猫達となったのであった。
おそらく一時的にではあるが国で最も知名度のある猫と言えるだろう。その猫のことを想像して描いた本がまた猫となり、猫のたどった道を聖地巡礼として辿った紀行文が本となり猫となった。
血統が価値のあるものとされたために、子が力をなす『硝子機関』の辿った道のりは多くの研究家の興味対象だった。
硝子機関はそもそもの話、子に力があるとされているので、相手を見つけなければならない。
しかし戦時下でそうそう見つかるものではなく、あまり役に立たないにもかかわらず、飯はたらふく食うと、大人たちには疎まれていた。子供たちは心置きなく愛でられるので人気は高く、猫もまたよく懐いていた。
積極的に契りを結ぼうとしない硝子機関に苛立ちを覚えた一部の人間は、彼のつがいを探す分隊を作ることとなった。
猫を恋人とするか、本を恋人とするかはその時々で決めることとなった。ただどの場合でも共通していたのは、『猫を傷つけてはならない』という原則は守られることとなっている点だ。あまり無理やりすると人に呪いが降りかかる。あくまで自然に相手を見つけてやらねばならなかった。
兵士たちが顔に引っ掻き傷をつけながらも、苦労して集めた相手をここに紹介しよう。
まず一匹目は『宿屋の台帳』だった。はぐれた兵士が一時的に利用した宿に合ったものだが、物は試しと複写してみて、一旦図書館に送った後りまた猫として返してもらった所、意外にも気に入る運びとなった。硝子機関はそれなりに売れた大衆小説の初版をコラージュして作られた存在なので、そこそこの価値のある本だった。なので宿の台帳などは『身分の違い』のようなものが存在して気に入らないのではないかという懸念が最初はあったようだ。逆にそれが本の――物語の擬獣化として相性が良かったのかもしれない。その子たちは霞と一体化する性質を持ち、陰で軍を支える存在となった。
次は『老人がこれまでにもらった恋文』だった。それを書いた老人は泥棒であった。
立ち寄った村で泥棒が多発しており、兵たちが捕まえることとなったのだが、老いた犯人の家を捜索したところ、大量の文書が出てきた。なんでもその泥棒が今までに異性からもらったすべての恋文を保管しているのだ。しかし実際のところすべての筆跡が泥棒の文字と一致していたことから、自分で書いて自分で保存していたことが後に分かった。窃盗の罰として徴収し、猫化したところ20匹の子猫を産むこととなる運びとなった。
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