猫が星となり

「と、いうわけです」

 そういって司書はうやうやしく語りを終えた。窓の外ではいまだに吹雪いており、大きな風の音が館内に響いていた。

 先ほどまで熱々だったスープもすっかり冷めてしまっていた。

「少しわからないのですが」と老婆はおずおずと切り出す。「それはつまり猫を本として保存するんですよね」

「そうですね」

「でも先ほどは元々本だった物が猫になっていますよね」

「確かにこの場所は最初は猫を本とする図書館でした。しかし次第に普通の本も置かれるようになり、いろいろと本が混ざっていき、いつの間にか本もまた猫となるようになったので」

「そういうこともあるのですね」

 老婆は納得したようだった。

「それでですね。猫を探しているといわれても、やはり特徴を教えていただかないと」

「すみませんわたしもあまりよくわかっていなくて……昔友人が飼っていた猫がこの場所にいるのかもしれないと聞いていたものですから……」

「もしかしたら館内を見ているとわかるかもしれません。案内しましょう」


 老婆は本格的に館内を案内してもらえることとなった。まずは猫を管理している部屋へと向かう。部屋の扉には星形の印が彫られていた。

「まずご注意してほしいのが」

 司書は一旦ドアノブに手をかけて言った。

「この部屋は本じゃない状態の星の猫たちが集まっています。簡単に言うと飛んでいるのでお気を付けください」

「飛ぶのですか」

「そうですね。飛んでいると言っても、鳥のような飛び方ではなく、浮いていると言った方が正確ですが」

「なるほど」

「では開けますよ」

 司書は勢いよく扉を開ける。

  老婆は猫たちが思い思いに飛んでいる姿を想像していた。しかし実際はある規則をもって動いているようだった。

 部屋に入って感じたのは夜空だった。猫たちがほのかに光り、星のように瞬いている。中は空間が圧縮されているのか、図書館の外見よりより広いようだった。壁は紺色に塗られており、壁の上で寝ている猫もまたいた。

 一番目立っているのは象のように大きな猫だ。太りすぎた猫といった外見であり、気持ちよさそうに浮いて丸まっている。そのまわりを中ぐらいの猫が回っていて、そしてその中ぐらいの猫の周りを、小型の猫が回っていた。

「この子はなんでしょう?」

老婆は疑問を口にする。

「この子達は『星猫』ですね。この図書館で飼育している猫です。基本的にこの子たちは部屋を回っています。主に宇宙に関係する本が元になっています」

 宇宙に関係すると星のような猫になるのなら、海に関係する本であれば魚のような猫になるのかと老婆は疑問に思ったことを聞いた。

「必ずしもそういうわけでもありません。中身の印象通りの容易な姿になる場合と、そうじゃない場合があります」

「複雑なんですね……」

「まあ説明はこれぐらいにしておきましょう。それよりも」

「はい?」

「この子があなたの探している猫ではないのですか」

 司書が指差したのは、大きな猫のそばを回っている、小さな猫だった。猫はじっとこちらを見ており、惑星に当たる猫を踏み台にしてゆっくりとこちらへ向かってきた。

 老婆の胸に飛び込み、喉を鳴らしてじゃれついてくる。

「かわいい猫ですね……でもごめんなさい。私が探していた猫ではありません」

「おやそうですか? でもここの猫が理由なく懐くことはありません。おそらくあなたに関係ある猫なのかも」

「関係がある猫……」

「あるいは」司書は手を叩いた。すると老婆が持っていた猫は本に変わった。思わず落としそうになるがし、っかりとつかむ。「関係のある本か」

 老婆はじっとその本の表紙を眺めた。本というには薄く装飾もない、申し訳程度の絵が表紙代わりに書かれており、書類をとじただけのようにも見える。

 彼女はゆっくりとその本を開けた。

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