猫が本となり

 王によって命じられた『人を本として保存する計画』は、紙に人の人生のすべてを記すには余白が少なすぎるという当初から上がっていた問題を解決できなかったために当然のごとく頓挫することとなった。禁忌の黒魔術を使ううというかなり冒涜的な手順が必要だったのだが、それを抜きにしてもまずは紙をいかに薄く保存するかの努力がなされた。当然ながら薄ければ脆いものとなり、長く保存ができなかったのでいかに薄く強い紙を作るかに力を注がれた。文字を小さく記入できるかの技術も発展し、重ねて文字を書いて識別する技術もまた進化を辿り、一文字により多くの意味を込められるかの研究もなされた。しかしながら当初の千倍ほど字を圧縮することに成功したが、それでも人を保存するにはその一万倍足らないという事で、その当たり前のことに気が付くまで数多くの時間と金と血を無駄にした。

「無駄ではない。この人を本として保存する計画は失敗したが、多くの副産物を得た」

 王に計画の頓挫を告げる役目を追いながらもよく回る舌によって繰り出された数時間に及ぶ演説により死刑を免れた技術主任は後にそう言った。

 確かに文字を圧縮する手法は魔法陣の情報圧縮に一役買った。より高度な魔法を放つことが出来て、豊かな生活にもつながった。王は容赦なく首を切る人間だったが、それを回避出来たのは、王が人よりも猫のことが好きだったことだろう。これは数々の謀反を経験した故のことだった。

 そして代案として王に次なる名を受けたのだった。すなわちこれがかの有名な

 猫を本として保存する施設「プルソンの図書館」が建てられることになった経緯であった。

人間より猫のほうが容量は少なく、発達した製本技術を使えばかなり容易に猫を本として保存することが出来た。あとは実行するだけとなりあらゆる国の魔術師、祈祷師、修道士、吟遊詩人が呼ばれ、猫を本としていった。ただ問題としてはかの国では人より猫のほうが重い命とされるので猫を傷つけることは許されなかった。人であれば解剖しての情報を本に書き込むことが出来たが、猫であればそうはいかない。なので人から見た猫の姿を情報化して、本とする必要があった。

 猫は本として保存される。猫の死後、飼い主たちは図書館を訪れて、かつての家族と再会し心を癒したのだった。

 この施設は王の死後、政権が変わっても取り壊されることはなかった。学者はこれが人を本として保存する施設であればこうはならなかったという考えを述べていた。人と死後出会うのを一般化するのは倫理的に危ういところがある。しかし猫であれば許されるのではないかという考えが多くの人の心にあり、結果的に残ることになったのではないかと。

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