猫のいる図書館

 その王国の図書館は針葉樹林を越えた山の中腹部にある。かつてはにぎわっていたが、前の王の崩御をきっかけに利用者が途絶えていて、老朽化が著しい。

 この吹きすさぶ吹雪を耐えられるとはとても思えない古びた木造建築だ。そう言われながらも何度も冬を超えているのは、管理が丁寧故なのだろう。

 本を借りに来るのは、かつて賑わっていたころのによく利用していた老いた人々が多い。しかし建物へ行く道は険しく流石にこの季節に訪れるのは酷だった。なので人が来るのも月に一人程度だ。

 そんな吹雪の中、図書館の入り口がノックされる。

 それは風の音と聞き間違うほど弱弱しく、司書がいつものようにうたた寝をしていれば、間違いなく気づかなかっただろう。入り口には黒いローブを着た老婆がいた。  彼女は寒さに身を震わせながら、震える手で杖を握りしめている。

「お入りください」

 司書は暖かい笑顔を作って声をかけた。

「あぁ……ありがとうございます」

 老人が感謝の言葉を述べると、館内に視線を移した。

「今日は何をお探しですか?」

「猫を……猫を探しているんです」

 老婆は呟くように言った。司書は頷き、老婆を奥に案内する。

「沢山いますよ。どういった猫ですか? もしかして登録をしていらっしゃる?」

「登録……?」

「失礼、ご存じなかったですか」

 司書は図書館の本棚に老人を案内した。その部屋は三階ほどの高さまで吹き抜けになっており、金字塔のように本を収めた棚が並んでいる。空中に浮遊する夜光虫めいた発行体が、あたりを照らしていた。

「例えば、ですね」

 司書が指を鳴らした。すると本棚の一角から黒猫が現れた。否、本棚間違いなく猫が入れるスペースはなかったが、それでもどこからともなく黒猫は現れたのだった。男の胸に飛び込んでくる。

「この子は……『アンベルヘンの大冒険』ですね。3世紀ほど前に書かれた冒険詩……。星になった女神に恋い焦がれた少年が、夜空に一番近い山を目指して冒険する物語です」

「すみません、言っている意味がよくわからないのですが」

「本当に……重ね重ね失礼しました。それではこの図書館の成り立ちを説明しましょう。夜は長い。夕食の残りのスープもご馳走しましょう」

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