恋よりも恋に近しい

長月瓦礫

恋よりも恋に近しい


恋とはなんだろうか。

マンガや小説なんかでよく取り上げられているもの、クラスメイトの話のタネ、いつ落ちるか分からないもの、定義というかこれといった説明文がない。


例えば、同じ部活の先輩をつい目で追いかけてしまうのも恋に含まれるのだろうか。

イヤホンで聞いている音楽とか、いつも読んでいるマンガとかが気になってしまう。

小説を読んでいるところは見たことがない。

自分も読まないから、話題に上がることはなさそうだ。


電子書籍は拡大表示され、文字が大きくなり見やすい。文字が大きくなる分、ページが増えてしまうのが欠点だ。


それに、ページをめくっている感覚がないから、本を読んでいる気にならない。

書かれている情報を読んでいるというか、どこか味気ない。


先輩はそんなことを言いながら、紙の本を読んでいたのを思い出した。

だから、自分も真似して読んでみたいと思った。


何でもいいから、いろんなことを話したい。

特に、今はそう簡単に連絡が取れるわけじゃない。

少しの時間でも大切にしたい。


姉がアイドルに対して抱く感情とはまた違う。

もっと本能的な何かに近いと思う。これを恋と呼ぶのだろうか。

ベガは一人、そう考察していた。


「こういうものでよかったかな。

あまり詳しいわけではないから、かなり迷ったんだ」


「十分ですよ、ありがとうございます」


ブラディノフは大量のマンガ本を床に置いた。

何冊も積み上がり、塔みたいになっている。


「それにしても、急にどうしたんだ。地球のマンガ作品を読んでみたいだなんて。

こういってはなんだが、海賊版がいくつも流れ込んでいるんだろう?

それを読めばいいんじゃないのか?」


この星をはじめ、業者を名乗る人たちが地球の作品を大量に無断転載し、海賊版を発行している。それが当たり前だったから、何の疑問も抱かなかった。

この話を聞いた時、あまりの無秩序さにブラディノフは絶句していた。


水上に建物を作るだけの技術がありながら、文化を守ることはできなかった。

それほどまでにこの星は崩壊し、衰退している。


すべてが水に沈んでしまったから、最低限の法律しか機能していないのだろう。

環境問題に取り組んでいる間に、この手の問題はうやむやになってしまったらしい。

文字通り水に流され、今では議論する人もいない。


「本当にすみません。できれば、正規品で読みたかったんです」


地球の場合、国によって著作物の扱いが違うらしいから、こんな話を持ち込んだら大論争になりそうだ。かといって、世界規模で言論統制なんてできるはずもない。

終わりが見えないからか、ブラディノフは何も言わないでいてくれた。


「ブラッドさんはいつもどんな本を読んでいるんですか?」


「小説や新聞ばかりで、マンガはあまり読まないんだ。

だから、ここにある本が少し気になっているんだ……」


彼は塔の上から適当に本を手に取った。

その場に座り込んでしまい、読み始めてしまった。


まさか、全部読むつもりだろうか。

微動だにしない彼の姿を見て、ベガは笑みがこぼれた。

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