第7話『今日もお見舞いへ』
今日も一日学校生活を送っていく。
小学1年のときに愛実が転校してきてからずっと同じクラスで、これまでに愛実が学校を欠席したことは何度もあった。ただ、愛実と恋人になったし、2学期初日に席替えして隣同士の席になったから、今までで一番寂しい気持ちが強い。授業中、いつもは黒板を見るときに自然と視界の端に愛実の姿が入るから喪失感があって。友達だけど、昨日あおいが休んだことで隣の席に座る海老名さんが感じた気持ちはこんな感じだったのかも。
早く放課後になってほしい。お見舞いに行って、早く愛実に会いたい。
ただ、そう思っている日に限って、普段よりも時間の進みが遅くて。昨日以上に遅く感じられた。
「これで終礼を終わります。委員長、号令を」
「起立、礼」
『さようなら』
終礼が終わって、今日も放課後になった。待望の放課後だ。
あおいも俺も掃除当番ではないので、これであおいと一緒に愛実のお見舞いに行くことができる。
「さあ、涼我君! 愛実ちゃんのお見舞いに行きましょう!」
あおいは普段よりも大きな声でそう言うと、椅子から勢い良く立ち上がり、スクールバッグと体操着袋を持つ。そんなあおいは意気込んだ様子になっていて。きっと、愛実のお見舞いに行きたい気持ちが強いのだろう。昨日は愛実がお見舞いに来て、汗拭きやお着替えなどをしてくれたのもあるかもしれない。
「そうだな。愛実のお見舞いに行くか」
「はいっ!」
あおいはとても元気良く返事する。昨日は体調を崩して欠席したのが信じられないくらいに元気だな。そのくらいにまで体調が快復して良かったよ。
俺は席から立ち上がり、スクールバッグと体操着入れを持つ。
「涼我君、愛実ちゃん。これからお見舞いに行くんだね」
気付けば、佐藤先生が俺達のところに来ていた。
「昨日と同じで、愛実ちゃんにメッセージは送ったけど、2人からもお大事にって伝えてくれるかな」
「分かりました」
「私達から伝えておきます」
「ありがとう。じゃあ、また明日ね」
「はいっ、また明日です!」
「さようなら」
佐藤先生に挨拶して、俺はあおいと一緒に教室を後にする。
昨日と同じく、これから陸上部の活動がある道本達と一緒に、昇降口のある1階まで向かった。昨日の放課後に階段を降りているときは、翌日に愛実が風邪を引いてしまうとは思ってもいなかったな。
「じゃあ、俺達はここで」
「部活が終わったら香川のお見舞いに行くぜ!」
「そのときにまた会いましょう」
「ああ。また後で。みんな部活頑張って。怪我とかには本当に気をつけて。無理するなよ」
「頑張ってくださいね!」
道本達とそういったやり取りをして、彼らとは一旦お別れ。怪我や熱中症などには気をつけて練習してほしいな。昨日はあおい、今日は愛実が体調を崩したから、その気持ちは昨日以上に強い。
道本達と別れた後、俺達は昇降口に行き、上履きからローファーに履き替える。
あおいと一緒に学校を後にする。まさか、2日連続で別々の幼馴染のお見舞いに行くことになるとは。
「ようやく放課後ですよ。愛実ちゃんと会いたかったですから、待望の放課後です」
「あおいもか。俺も待望の放課後だよ。早く愛実に会いたい」
「ふふっ、そうですか」
もうすぐ愛実と会えるからか、あおいはとても楽しそうな様子で歩いている。あおいにも俺がそんな風に見えているのだろうか。愛実ともうすぐ会えると思うと嬉しいし、頬が緩んでいるし、足取りが軽いし。
「愛実ちゃん、体調が良くなってきているといいですね」
「そうだな。まあ、病院に行ったし、玉子粥や麻美さん特製のりんごのすり下ろしを食べられたそうだから、ある程度は良くなってきているんじゃないかな」
昨日と同じく、午前中に母さんからその旨の内容のメッセージをもらった。母親達3人で、愛実に玉子粥とりんごのすり下ろしを食べさせたらしい。
「お母さんの作るすり下ろしは甘くて美味しいですからね! 昨日はあれを食べて元気になれましたから」
「俺も風邪を引いたときに食べさせてもらったけど、あれは美味かったなぁ。愛実はりんごも好きだし効果ありそう」
「そうだといいですね」
昨日のあおいのように、愛実がある程度元気になっていたらいいな。
その後は今日の学校のことを中心に話しながら、愛実の家に向かって歩いていく。
途中、昨日も行ったコンビニでゼリーを買うことに。愛実からリクエストされたいちごゼリー、それと桃のゼリーも購入した。あおいが、
「昨日は私に2種類ゼリーを買ってきてくれたので、愛実ちゃんにも2種類買っていきませんか?」
と提案してくれ、俺も賛成したからだ。愛実は桃も結構好きなので桃のゼリーにしたのだ。代金は2人で割り勘する形にした。
コンビニを出て、俺達は愛実の家の前まで向かう。
昨日のお見舞いの反省もあり、家の前に到着したとき、俺達はマスクを付けた。
あおいがインターホンを押すと、
『はい。……あっ、涼我君にあおいちゃん。ちょっと待っててね』
真衣さんがそう応対してくれた。
それから程なくして、玄関の扉が開き、中からは真衣さんが姿を現す。俺達がお見舞いに来たからか、真衣さんは嬉しそうな笑顔を見せる。
「涼我君、あおいちゃん、こんにちは」
「こんにちは、真衣さん」
「こんにちは! 学校が終わったので、愛実ちゃんのお見舞いに来ました!」
「ありがとう、2人とも。来てくれて嬉しいわ」
「いえいえ。俺達も愛実に会いたいですから。……愛実の具合はどんな感じですか?」
「病院の薬を飲んだ後はぐっすり寝ているから……良くなってきているんじゃないかしら。何度か様子を見に行ったら、スヤスヤ寝ていたし。こういうときは体調が良くなってきていることが多いわ」
「そうですか」
そういえば、お見舞いに行ったときに愛実の体調が良くなっていると……愛実は「よく眠れた」と言っていたっけ。
「さあ、中に入って」
「はい。お邪魔します」
「お邪魔します!」
俺とあおいは愛実の家に上がり、2階にある愛実の部屋の前まで向かう。
あおいが部屋の扉をノックし、
「あおいです。お見舞いに来ました!」
「涼我です。お見舞いに来たよ。いちごゼリーと桃のゼリーも買ってきたよ」
と、部屋の中にいる愛実に声を掛ける。するとすぐに、
『はい、どうぞ』
部屋の中から愛実の返事が聞こえた。インターホンの音や真衣さんとの話し声が聞こえて目が覚めていたのかもしれない。声は普段と変わりない感じなので、体調が良くなっている可能性が高そうだ。
あおいが部屋の扉を開けて、俺達は愛実の部屋の中に入る。今朝と同じく、部屋の電気は消えており、エアコンのおかげで涼しくなっていた。
ベッドの方を見ると……ベッドで横になり、こちらを見ている愛実がいた。愛実もマスクを付けている。マスクを付けていても笑顔なのが分かる。
「リョウ君、あおいちゃん、いらっしゃい。荷物は適当に置いておいて。あと、申し訳ないけど、電気を点けてくれるかな?」
「ああ、分かった」
ローテーブルの近くに荷物を置いて、俺がスイッチを入れる。すると、部屋の照明が点き、部屋の中が明るくなった。
再び愛実の方を見ると……愛実の顔色が普段と変わりない感じになっているのが分かる。そんなことを思いながら、あおいと一緒にベッドの側まで向かう。
「愛実ちゃん、具合はどうですか?」
「顔色を見る限りでは結構良くなっている感じがするけど」
「処方してもらった薬が効いたのか、結構良くなったよ。今朝あった熱っぽさやだるさはなくなってる」
ほら、と愛実はすっと上体を起こす。
「喉や鼻の調子も良くなってきているよ」
「それは良かったです!」
「良かった」
今回も病院から処方された薬を飲んだおかげで、その日のうちにだいぶ良くなっていたか。安心した。
また、あおいは愛実の体調が良くなってきたのが嬉しいのか、あおいは愛実のことを抱きしめた。愛実を細めて両手をあおいの背中に回している。いい光景だな。
「薬はもちろんだけど、麻美さんがりんごのすり下ろしを作ってくれたり、智子さんもお粥を食べさせたりしてくれたおかげでもあるよ。どっちも美味しかったし」
「お母さんの作ったすり下ろしは元気になりますからね!」
「そうだな」
「ふふっ。あとは……リョウ君が朝にしてくれたおまじないのキスのおかげもあるよ」
愛実はそう言うと、頬をほんのりと赤くしながら俺を見つめる。その姿が可愛いのと、今朝のキスを思い出したのもあってドキッとする。
「……そうか。なら良かったよ」
「良かったですね、涼我君」
「ありがとう。……リョウ君、体温計を取ってくれる? ついさっきまで寝ていて、体温を全然測っていなかったから」
「分かった」
ローテーブルにある体温計を手に取り、愛実に渡した。
愛実は体温計で現在の体温を測ることに。熱っぽさはなくなったと言っていたし、結構下がっているといいな。
――ピピッ。
体温計が鳴り、愛実は体温計を手に取る。
「36度5分まで下がったよ」
そう言い、愛実は俺達に体温計を見せてくる。体温計の液晶画面には『36.5℃』と表示されていた。
「結構下がりましたね!」
「ああ。確か、今朝は37度8分まであったもんな」
「平熱近くまで下がったよ」
「そうか。栄養を摂って、薬を飲んで、ゆっくり寝たからだろうな。このまま薬を飲んでゆっくりしていれば、明日からまた一緒に学校に行けそうだな」
「うんっ。……ところで、今日の学校はどうだった?」
「あおいが元気になったことに喜んでいたけど、愛実が休んだことを寂しがっていた生徒が何人もいたな。もちろん海老名さん達も」
「そうでしたね。あと、私は樹理先生から抱きしめられました」
「そうだったんだ。やっぱり、樹理先生は抱きしめたか。先生は体調不良で休んだ女の子がまた学校に来ると抱きしめるからね。明日学校に行ったら、私も抱きしめられるんだろうな」
ふふっ、と愛実は楽しそうに笑っている。もしかしたら、佐藤先生に学校で抱きしめられるのを楽しみにしているのかもしれない。
「樹理先生からお大事にとのことでした。あと、理沙ちゃん達は昨日のように、部活が終わったらお見舞いに来てくれるそうです」
「そっか。嬉しいな」
「……愛実。俺達にしてほしいことはあるか?」
「遠慮なく言ってください! 昨日のお礼もしたいですし!」
あおい、凄くやる気になっているな。昨日はお見舞いのときに愛実に汗拭きやお着替えをしてもらったり、ノートを借りたり、課題を教えてもらったりしたからな。愛実に恩返しをしたいのだろう。
「そうだね……まずは昨日みたいに汗拭きとお着替えをしたいな。私も熱が出て、ずっと寝ていたから汗掻いちゃって」
「そうですか。昨日は愛実ちゃんに汗拭きとお着替えをしてもらったらスッキリしましたし、愛実ちゃんもスッキリしましょう!」
「うんっ。それで……汗拭きはリョウ君にお願いしたいな。これまで、風邪を引いても汗拭きはあまりやってもらったことがないから」
「そうだな。じゃあ、汗拭きは俺が担当するよ」
「お願いします。バスタオルはローテーブルにあるから、それで拭いてください。それで、あおいちゃんは新しい下着と寝間着をタンスから出してくれるかな。着替えるのを手伝ってほしいな」
「分かりました!」
自分にも役目を与えてもらえたからか、あおいはとても嬉しそうだ。
俺とあおいで、愛実の汗拭きとお着替えをするのが始まった。これまでは何回か背中を拭いたくらいなので、ちょっと緊張してきたけど……頑張ろう。
俺は愛実の桃色の寝間着と緑色の下着を脱がせていく。下着は夏休み中に俺が愛実に頼まれて選んだものだ。
汗を掻いたと言っただけあって、愛実の体からも、寝間着や下着からも汗混じりの甘い匂いが香ってくる。それがいい匂いでドキドキするけど、あまり嗅いでしまわないように気をつけよう。
「わぁっ、可愛い下着がいっぱいです。あと、凄く……おっきいです……」
そんな声が聞こえたので、あおいの方を見てみると……あおいはタンスからブラジャーを取り出して眺めている。……まあ、愛実の胸はあおいよりも結構大きいからな。大きなカップに見入ってしまうのだろう。
それからすぐに、愛実の寝間着と下着を全て脱がせた。そのため、愛実は裸の状態に。看病での汗拭きのために脱がせたけど、ベッドの上で全裸になっているからかなりそそられる。愛実の甘い匂いも香ってくるし、ドキドキする。愛実も同じ気持ちなのか、頬がほんのりと赤くなっていた。それが可愛らしい。
俺はローテーブルに置いてあるバスタオルを手に取る。
「それじゃ、体を拭き始めるよ。どこから拭いてほしい?」
「そうだね……胸とかお腹とか、体の前面からお願いします」
「了解」
バスタオルを使って、愛実の胸元のあたりから拭き始める。丁寧な手つきで。
「どうだ、愛実」
「気持ちいいよ。タオルが柔らかいし、優しく拭いてくれるし」
「良かった。じゃあ、こんな感じで拭いていくよ」
「うんっ」
愛実は嬉しそうに返事をした。俺が拭くことでこの笑顔を見せられたと思うと嬉しい気持ちになる。あと、裸で「気持ちいい」って言われるとドキドキする。
「愛実ちゃんの体、とても素敵です。胸がとても大きくて羨ましいです……」
気付けば、あおいが俺の近くまで来ていて、愛実の体をじっと見つめていた。
あおいは新しい下着と寝間着を選び終わったのかな。そう思って周りを見ると、クッションの上に淡いベージュの寝間着と、桃色の下着が置かれていた。この下着も俺が夏休み中に選んだものだ。
「ありがとう、あおいちゃん。あおいちゃん直伝のストレッチのおかげで太り気味にならなくなってきているよ」
「それは良かったです。あと……涼我君のいる前で愛実ちゃんが全裸になっていますから、何だかえっちな雰囲気がしてきますね。愛実ちゃんはベッドの上にいますし……」
あおいは頬を中心に顔を赤くして、恍惚とした様子で俺達のことを見てくる。まるで、その赤みがうつったかのように、愛実の頬の赤みが顔全体に広がっていく。タオル越しに伝わってくる愛実の熱が強くなった気がする。俺も頬が熱いから、きっと赤くなっているんだろうな。
俺が恋人だからこそ、愛実は裸になれたんだ。それに、あおいは俺達が最後までしたことを知っている。だから、えっちな感じがすると思うのも無理はない。
あと、佐藤先生も今のあおいのようなことを言いそうだな。まあ、先生の場合は興奮して過激なことを言いそうだけど。
「もう、あおいちゃんったら。2人の前で裸になったからドキドキしているのに、そう言われるともっとドキドキしちゃうよ」
「ご、ごめんなさい。思ったことがつい口に出てしまいました。もちろん、悪い意味で言ったわけではありませんよ」
「……うん、それは分かってる。だから、怒っていないよ」
「そうですか。良かったです」
あおいはほっと胸を撫で下ろした。
それからも俺はあおいに見守られながら、愛実の体を拭いていく。愛実はとても気持ち良さそうにしていたのであった。
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