第8話『いちごゼリー』
「これで終わりですね」
「うん。ありがとう、あおいちゃん」
俺がバスタオルで愛実の汗を拭いた後、あおいが愛実の着替えを手伝った。それもあってか、愛実の顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。また、あおいも楽しそうな様子で愛実の着替えを手伝っていた。
「いえいえ。あと、そのベージュの寝間着も似合いますね!」
「そうだな、あおい」
「ありがとう」
えへへっ、と愛実は可愛らしく笑う。
今のベージュの半袖の寝間着姿はもちろんのこと、桃色の下着を付けた姿もよく似合っていた。夏休み中にオープンキャンパスに行った帰りに、ランジェリーショップで試着したときのことを思い出した。
「愛実。俺に汗を拭いてもらって、あおいに着替えを手伝ってもらって気分はどうだ?」
「スッキリしたよ。快適な気分になってる」
「それは良かった」
「良かったです! きっと、これでより早く治りそうですね。昨日、私もお二人に汗拭きと着替えをしてもらった後から、より気分が良くなりましたから」
「ふふっ、そっか」
愛実とあおいは笑い合っている。いい光景だ。
スッキリしたと言うだけあって、愛実の笑顔には爽やかさが感じられる。あおいの言う通り、より早く体調が良くなるんじゃないだろうか。
「愛実。今まで着ていた服とタオルを置いてくるよ」
「ありがとう。1階の洗面所にあるピンクの洗濯カゴに入れてくれるかな」
「了解。じゃあ、行ってくる」
俺は愛実が今まで着ていた服と、汗拭きに使ったバスタオルを持って愛実の部屋を後にする。
1階に降りて、洗面所に行くと……ピンクの洗濯カゴをすぐに見つけられた。カゴに服とタオルを入れた。
「これでOKだな」
「あら、涼我君。どうかした? こんなところにいて」
気付けば、洗面所の入口近くに真衣さんが立っていた。俺がここにいる理由が分からないようで、不思議そうな表情をしている。きっと、俺の足音が聞こえてここにやってきたのだろう。
「俺が愛実の汗拭きをして、あおいが着替えを手伝ったので、これまで愛実が着ていた服と汗拭きに使ったバスタオルを洗濯カゴに入れに来たんです」
「そうだったのね。ちなみに、汗拭きって全身を?」
「はい」
「そうなのね。恋人ならではね。私も主人と付き合って、色々とするような仲になってからは、お見舞いに来てもらったときに全身の汗を拭いてもらったわぁ……」
そのときのことを思い出しているのだろうか。真衣さんはうっとりとした様子になっている。あぁ……と甘い声を漏らして。その姿がとても可愛らしい。高校生の娘がいるとは思えないくらいに若々しいな。
「そう……だったんですね」
「ええ。きっと、愛実も私のように、学生時代の思い出の一つになるんじゃないかしら」
「そうなると嬉しいです」
それで、いつかは今の真衣さんのように、愛実が俺達の子供の恋人に、今日の出来事を楽しく話す日が来るといいな。
「涼我君。今の愛実の体調はどう?」
「真衣さんの予想通り、だいぶ良くなってきました。熱も36度5分まで下がっていました」
「そうなのね。良かったわ……」
ほっと胸を撫で下ろす真衣さん。今朝の愛実は熱が出ていて、ちょっと苦しそうにしていたからな。親として愛実の体調が良くなる傾向が分かっていても、不安な気持ちがあったのだろう。
あと、昨日のお見舞い中、愛実があおいの母親の麻美さんに体調が良くなったと伝えたときもこんな様子だったのかもしれない。
「薬がよく効いたのね」
「あの病院で処方される薬はよく効きますもんね。あと、玉子粥とりんごのすり下ろしが美味しかったからとも言っていました」
「そうなんだ。智子さんと麻美さんに改めてお礼のメッセージを送ってきましょう」
「喜ぶかと思います。じゃあ、俺は愛実の部屋に戻りますね」
「うん。涼我君もありがとう。お見舞いに来て、愛実の汗を拭いてくれて」
「いえいえ。大切な恋人ですから」
俺は洗面所を出て、2階の愛実の部屋に戻る。
部屋の中に入ると、愛実とあおいが談笑していた。俺に気付いたのか、2人は「おかえり」と小さく手を振ってくれた。
「服とタオル、洗濯カゴに入れてきた」
「ありがとう、リョウ君」
「お疲れ様です。ちょっと時間がかかっていたようですが……」
「洗面所で陽子さんと会ってちょっと話したんだ。そのときに愛実の体調が良くなってきているって伝えておいた。真衣さんも安心してたよ」
「そうだったんだ。お母さんに伝えてくれてありがとね」
「いえいえ」
真衣さんを安心させることができて良かったと思っている。それに、昔のことを思い出してうっとりしている可愛い真衣さんも見られたから。
「あと、グループトークに愛実ちゃんの具合が良くなってきたと送っておきました。理沙ちゃん達、愛実ちゃんの体調を気にしているかもしれないので」
「そうか」
体調が良くなってきていると知れば、道本達も安心して部活ができるんじゃないだろうか。
「愛実ちゃん。他に何か私達にしてほしいことはありますか?」
「遠慮なく言ってくれていいぞ」
「それじゃ……ゼリーを食べさせてほしいな。朝、買ってきてほしいって言ったし」
「いちごゼリーを買ってきてほしいと言っていましたね。いちごと、あとは桃のゼリーも買ってきました! 昨日、私にはゼリーを2種類買ってきてくれましたし。涼我君が愛実ちゃんは桃も結構好きだと言っていましたから」
「そうだったんだねっ。まさか2種類買ってきてくれるとは思わなかったら嬉しいよ! ありがとう!」
愛実はとても嬉しそうな様子でお礼を言う。あおいの提案を受け入れて、桃のゼリーも買ってきて正解だったな。
「いちごと桃、今はどっちのゼリーを食べたい?」
「いちごがいいな。朝から食べたいと思っていたし。桃の方は夕食のデザートに食べようかな」
「分かった。いちごだな」
「じゃあ、私がいちごのゼリーを食べさせてもいいですか? お着替え以外にも愛実ちゃんにしたくて」
あおいは右手をピシッと挙げながらそう言ってくる。結構やる気になっているな。きっと、昨日のお見舞いではあおいは愛実に色々としてもらったから、自分も愛実にたくさんしてあげたいのだろう。
あおいの想いが伝わったのか、愛実は柔らかそうな表情になり、
「ありがとう。じゃあ、あおいちゃんにいちごゼリーを食べさせてもらおうかな。リョウ君はそれでいい?」
「ああ、もちろん。あおいに任せるよ」
「分かりました! では、私が食べさせますね!」
あおいはとても嬉しそうに言った。
あおいはコンビニのレジ袋から、いちごゼリーとプラスチックのスプーンを取り出す。ゼリーの蓋を剥がし、スプーンを袋から出すと、愛実のすぐ近くまで行って膝立ちする。また、その間に愛実はマスクを外した。
俺はローテーブルの周りに置いてあるクッションに座り、2人の様子を見守ることに。
あおいはスプーンでいちごゼリーを掬い、愛実の口元までもっていく。
「はい、愛実ちゃん。あ~ん」
「あ~ん」
愛実はあおいにいちごゼリーを食べさせてもらう。
いちごゼリーが美味しいからだろうか。愛実はゼリーが口に入った瞬間、可愛らしい笑みを浮かべて、
「甘いし冷たいから美味しい!」
と、嬉しそうに言った。愛実はいちごが大好きだから、きっと美味しいって言うと思っていたけど、実際にその場面を見ると嬉しい気持ちになるな。
愛実が美味しいと言ったからか、あおいも嬉しそうだ。
「良かったですっ! ……はい、あ~ん」
「あ~ん」
愛実は再びあおいにいちごゼリーを食べさせてもらう。
愛実は美味しそうに食べているし、愛実もあおいも笑顔だから本当にいい光景だ。あと、佐藤先生がこの場にいたら結構興奮しそうな気がする。あの人、同性同士で仲良くしている光景を見るのが大好きだから。
「こうしてゼリーを食べさせていると、愛実ちゃんがいつも以上に可愛く思えます」
「分かるなぁ。モグモグ食べていたり、美味しいって言ったりするのが可愛いんだよな」
「そうですそうです! さすがは涼我君です!」
「そう言われると何だか照れちゃうな」
えへへっ、と愛実ははにかむ。その姿もまた可愛らしい。
その後も、愛実はあおいにいちごゼリーを食べさせてもらい、完食した。大好きないちごゼリーを美味しく食べられ、完食できる食欲があると分かって安心した。
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