第5話『ジェットコースター』

「着いたぜ!」

「着きましたね!」


 ゴンドラが東京パークランドに到着し、ゴンドラから降りた瞬間に鈴木とあおいが大きな声でそう言った。ゴンドラに乗ったからか、まだ入園ゲートをくぐっていないこの段階でとても楽しそうにしている。

 俺も約1年ぶりのパークランドなので、入口を目の前にして普段よりテンションが上がっている。

 俺達はチケット売り場の列に並ぶ。さすがにゴンドラ乗り場よりも長い列だけど、これまで行ったときに比べると結構短い。

 10分ほどで俺達の番になり、今日一日アトラクションを自由に遊べるワンデーパスチケットを購入する。昨日、佐藤先生から渡された学生証を提示し、無事に高校生料金で購入することができた。一般料金との差はそれなりにあるので安心した。

 入場ゲートでスタッフさんにワンデーパスを見せ、俺達はついに東京パークランドに足を踏み入れた。


「10年ぶりのパークランドです! 新しいアトラクションもありますけど、基本的な雰囲気は変わっていないので懐かしいですね」

「そうか。まさか、あおいとまた来られるとは思わなかった」

「私もです。涼我君とまた来られて嬉しいです! もちろん、みんなとも来られたことも」


 あおいは満面の笑顔でそう言ってくれる。今の言葉もあって、あおいの笑顔を見ていると温かな気持ちがどんどん膨らんでいく。

 また、あおいの言葉が嬉しかったのか、愛実と海老名さんは笑顔であおいの頭を撫でていた。


「さあ、みんな! まずはどこのアトラクションから行くか?」

「いっぱいあるから迷うなぁ。ただ、麻丘達と一緒に来たときはジェットコースターから行くことが多いよな」

「……そういえば、そうだな」


 ジェットコースターをはじめとした王道のアトラクションを最初に行くことがほとんどだ。個人的にそういったアトラクションに行くと、遊園地に来たんだと実感できる。


「ジェットコースターいいよな! オレも彼女と来たときは、よほど混んでない限りはジェットコースターに行くぜ!」

「ははっ、鈴木らしいな。じゃあ、まずはジェットコースターにするか? 賛成の人は挙手してくれ」


 道本のその問いかけに、質問者の彼を含め6人全員がすぐに挙手する。その様子を見て、道本は「ははっ」と爽やかに笑う。


「満場一致だな。よし、ジェットコースターに行こう」


 俺達はジェットコースターに向かって歩き始める。

 東京パークランドには何度も来たことがある。ただ、今回はあおいが一緒だから懐かしい気持ちになるなぁ。昔はあおいと手を繋いでいることが多かったっけ。

 回顧しながら周りを見ていると……俺達のような学生らしき人の姿が意外と多いことに気づく。長めの春休みなのか。それとも、俺達のように今日は学校が休みなのか。

 それからすぐに、俺達はジェットコースター乗り場の前に到着し、待機列の最後尾に並ぶ。さすがに、人気アトラクションだけあって列ができているか。

 また、待機列では2列で並ぶことになっている。なので、愛実と海老名さん、あおいと俺、道本と鈴木という順番で並ぶ。


「係の人に訊いたら、15分くらいで乗れるみたいだぜ!」

「おっ、そうか」

「15分で乗れるのは、パークランドでは早い方ですか? 涼我君」

「かなり早いな。今まで休日や長期休暇に行くのが多かったっていうのもあるけど、15分で乗れたことは全然なかったから」

「20分から30分くらいで乗れれば運がいいよね、リョウ君」

「そうだな。さすがは平日って感じだよ」

「そうなんですね! それを知ると嬉しくなりますね!」


 あおいはニコッと笑ってそう言った。


「そういえば、昔あおいと来たときは幼稚園だったから、このジェットコースターには乗れなかったんだよな」

「乗れるのは小学生からでしたからね」

「乗れないことに泣いていたよな」

「凄く乗りたかったからですからね。その代わりに、キッズでも乗れる小さめのジェットコースターを乗った記憶があります」

「乗ったな。小さい頃だったから、あれでもスリルを感じたのを覚えてる」

「そのジェットコースターで満足した思い出がありますね」


 小さい子でも乗れるジェットコースターに一度乗ったら、あおいはこのジェットコースターに乗れなかった悔しさが嘘のような笑顔を見せていて。凄く楽しいからと3、4回乗ったんだよな。


「素敵な思い出だね、リョウ君、あおいちゃん」

「ありがとうございます。当時はキッズ用のジェットコースターを楽しんでいましたが、涼我君は絶叫系アトラクションって好きな方ですか? ちなみに、私は大好きですよ!」


 満面の笑みで言うことからして、かなりの絶叫系好きだと窺える。やっぱりというか。


「俺は……怖いって思うことはあるけど、好きな方かな」

「そうなんですね。愛実ちゃん達はどうですか?」

「小さい頃は苦手だったけど、今は平気。リョウ君と同じで、今でも怖いって思うことはあるけど」


 確かに、愛実って昔は絶叫マシンに乗ったら気分が悪くなって、時には涙を浮かべていることもあった。ただ、大きくなるにつれて、絶叫系マシンに乗っても楽しそうな笑顔を見せることが多くなっていったな。


「あたしは結構好き。マシンの速さとか、顔に受ける風とかがいいなって思うわ」

「俺も絶叫系は好きだな」

「オレも大好きだぜ! 叫ぶと気持ちいいよな! 一日絶叫系だけでもいいくらいだ!」


 道本と海老名さんは一緒に遊園地に行くことが何度もあるから、絶叫系が好きなのは知っていたけど、鈴木も絶叫系が大好きなのか。一日ずっと絶叫系だけでもいいとは。相当好きなんだな。


「みなさん絶叫系が好きなんですね! さっき、すぐに挙手したのも納得です。みなさんとなら、このジェットコースターを凄く楽しめそうです!」


 あおいはいつもの明るい笑顔でそう言う。そんなあおいに愛実達は「そうだね」と笑顔で頷いた。


「俺も楽しめそうだ。10年前は一緒に乗れなかったこのジェットコースターを楽しもう」

「はいっ!」


 元気よく返事し、あおいがより明るい笑顔を俺に向けてくれる。そのことにちょっとキュンとなった。

 みんなと絶叫系アトラクション絡みの話をしていたので、俺達の番が来るまではあっという間だった。

 スタッフの男性に案内され、俺達はジェットコースター乗り場へ、

 ジェットコースターのマシンは2人1列で座る形となっている。なので、待機列での並び順で、俺はあおいと隣同士に座った。

 スタッフによって安全バーが下ろされると、もうすぐスタートするんだとドキドキしてくる。


「昔のキッズ向けのジェットコースターでも、こうして隣同士に座りましたね」

「そうだな。ただ、キッズ向けよりもかなり速くてスリルがあるぞ」

「そうですか! 楽しみですね。怖かったり、不安だったりしたら遠慮なく私の手を握ってきてくださいね」

「ありがとう。あおいこそ握ってきていいからな。昔も俺の手をぎゅっと握ってきたし」

「ふふっ、ありがとうございます。それとも、もう握っちゃいますか?」


 そう言って、あおいは右手を俺に差し出してくる。握っていいとは言ったけど、いざこうして手を差し出されると、少しドキッとしてしまう。まあ、愛実と隣同士に座ったときには、怖いと思う者同士でスタート前から手を繋ぐことはあるからな。今も幼馴染のあおいだし、昔は手を繋いだから……するか。

 あおいの右手をそっと掴むと、あおいの口角がそれまでよりもさらに上がった。


「あっ、リョウ君とあおいちゃんも手を繋いでいるんだね。私も理沙ちゃんと繋いでいるよ。こうしていると、怖い気持ちがちょっと和らぐから。リョウ君と隣同士に座ったときも握ることがあるよ」

「ふふっ、そうなんですね。……どうですか、涼我君。私の手を握って少しは怖い気持ちが紛れましたか?」

「まあ、ちょっとな」


 ただ、別の意味でちょっとドキドキしているよ。


「道本。オレ達も手を繋いでみるか?」

「う~ん……遠慮しておく。鈴木と手を繋いだら、スリルに感じる要素が増えそうだし」

「ははっ、そうか!」


 鈴木は握力がかなり強いからな。走行中に興奮してぎゅっと握られる可能性は高そうだし。握られた手が痛くなるんじゃないかと危惧して道本は断ったんだろう。

 ――プーッ。

 発進チャイムの音が鳴り、俺達の乗ったマシンが動き始める。


「ついに始まりましたね! どんな感じか楽しみです!」


 興奮気味にそう言うと、あおいは俺の手を握る力を強くする。手から伝わるあおいの温もりと、あおいの楽しそうな笑顔のおかげで、今までよりも不安な気持ちはあまりない。それに、パークランドのジェットコースターは何度も乗っているし。

 ゆっくりとした速度でマシンは前進していき、少しして上り坂となっているコースを上っていく。


「何度も乗ったことあるけど、この上り坂のところで毎回緊張する……」

「もうすぐ本番だものね。大丈夫よ、あたしが隣にいるから。しっかり手を繋いでて」

「うんっ」


 愛実は笑顔で海老名さんに向かって頷いている。落ち着いている親友が隣にいると心強いよなぁ。あと、怖がっている親友が相手だからかもしれないけど、海老名さんがイケメン過ぎる。

 それから程なくして、俺達の乗ったマシンは登り坂の頂上付近で一旦停止する。


「ここで止まるんですね」

「ああ。ただ、停止している時間は毎回違うんだ」

「そうなんですね。それだと、何度乗っても飽きが来ないですね」

「さあ、いつでも来いやあっ!」


 後ろからは鈴木のそんな元気な雄叫びと、道本の「あははっ」という笑い声が聞こえてくる。


「いつ発進するか分からないのが怖いん――だああっ!」


 あおいに話している最中にマシンは急発進! 猛スピードでかなりの角度がある下り坂のコースを急降下する!


「うわああっ!」

「すっごい迫力ですねっ! きゃあああっ!」


 黄色い叫び声を出しているけど、あおいはとても楽しそうだ!


「きゃあああっ! はやーい! 気持ちいいー! あははっ!」

「きゃあああっ! きゃあああっ!」


 前方からは海老名さんの楽しげな声と、繰り返される愛実の黄色い叫び声が聞こえてくる。時折、2人の叫び声が重なることも。また、絶叫系好きな海老名さんは楽しくなってきたのか「あははっ!」と笑い声も出している。


「うおおっ! すげええっ!」

「風が気持ちいいなっ!」


 後ろからは鈴木の絶叫と、道本の歓喜の声が聞こえてくる。道本の言う通り、顔に受ける風がとても気持ちいいぜ!


「涼我君! 怖くはないですか! 大丈夫ですかあっ!」

「ちょっと怖いけど、手を繋いでるし大丈夫だ! あおいはどうだっ!」

「とても楽しいですっ!」

「そりゃ良かった! これがパークランドのジェットコースターだっ!」

「しゅごおおいっ! 最高ですううっ!」


 きゃあああっ! と、あおいはとても楽しそうに叫ぶ。

 その後も、マシンは猛スピードでコースを駆け抜ける。途中にある一回転したり、垂直に近い角度で下降したりする恐怖ポイントも全力で。

 俺はあおい達と一緒に叫びまくった。あおいの手をしっかりと握りながら。

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