第4話『遊園地へ行こう!』
4月7日、木曜日。
今日は入学式があるため、2年生は学校がお休み。それに伴い、道本達が所属する陸上部の練習もお休み。なので、俺、あおい、愛実、道本、鈴木、海老名さんの6人で東京パークランドという遊園地へ遊びに行く。
今朝の天気予報によると、今日の東京の天気は一日ずっと晴れ。雲が広がる時間帯があるかもしれないけど、雨が降る心配はないという。絶好の遊園地日和だ。
「晴れて良かったですね!」
「そうだね、あおいちゃん」
「遊園地日和だな」
午前9時45分。
俺はあおいと愛実と一緒に、調津駅に向かって歩いている。午前10時に調津駅の改札前で道本と海老名さんと待ち合わせする約束をしている。
また、自宅の最寄り駅が違う鈴木とは電車で会う予定だ。パークランドの最寄り駅との位置関係もあり、彼からLIMEのグループトークに乗っている電車と時刻、車両の号車を教えてもらうことになっている。
「涼我君と愛実ちゃん達との遊園地、楽しみです!」
「私も楽しみだよ! あおいちゃんとは初めてだし、リョウ君ともパークランドには1年ぶりに行くから」
あおいはもちろんのこと、愛実も普段よりテンションが高い。2人とも遊園地は好きだし、あおいと愛実が一緒に行くのは初めて。楽しみに思うのは自然なことだろう。
今日の6人で遊園地に行くのは初めてだから俺も楽しみだな。そう思うと、駅へ向かう足取りも段々と軽くなっていく。
それから少しして、調津駅が見えてきた。
駅の周りにはオフィスビルがいくつもあるので、スーツ姿やフォーマルな服装の人がちらほらと見受けられる。ただ、学生服を着ている人は全然いないな。長期休暇以外では平日のこの時間に外を歩くことはほとんどないから、今の風景がちょっと新鮮に思えて。こういうことからも、普段とは違う時間を過ごしているのだと実感できる。
バイトしているサリーズの近くにある中央口から、調津駅の構内に入る。
今の時刻は9時51分。道本も海老名さんも時間をちゃんと守るタイプなので、既に改札口の近くにいる可能性は高い。
それから程なくして改札口が見えてきた。その近くには――。
「あっ、理沙ちゃんと道本君がいるね」
愛実がそう言って改札口の方を指さす。そこにはロングカーティガン姿の道本と、ガウチョパンツにパーカー姿の海老名さんが。楽しそうに喋っているし、2人のことを知らないと美男美女カップルに思う人がいるんじゃないだろうか。
「理沙ちゃん! 道本君!」
あおいが少し大きめの声で名前を呼ぶと、道本と海老名さんはこちらに振り向いて手を振ってくる。俺達も小さく手を振りながら、2人のすぐ近くまで向かった。
5人集まると、おはようと朝の挨拶をしたり、服が似合っているねと褒め合ったりする。ちなみに、あおいはデニムパンツに春ニット、愛実はスカンツにブラウスという服装。遊園地に行くからか、ラフな雰囲気の服装をしている人が多い。女子はみんなパンツスタイルだし。俺はいつも通りジャケットを着ている。
『プルルッ』
俺のものを含め、複数のスマホがほぼ同時に鳴る。おそらく、LIMEの俺達6人のグループトークに鈴木からメッセージが送信されたのだろう。
さっそくスマホを確認してみると……予想通り、鈴木から6人のグループトークに新着メッセージが送られたと通知が。通知をタップしてグループトークを開くと、
『電車に乗ったぜ!
鈴木が電車に乗ったか。改札口のところにある電光掲示板を見てみると、1番線の案内に『快速 10:10 梨本』と表示されていた。
「鈴木は1番線に来る予定の快速列車に乗ったみたいだ」
「そうだな、麻丘。じゃあ、1番線のホームに行くか」
道本のその言葉に、俺達4人は頷いた。
グループトークに鈴木へのお礼のメッセージを送り、俺達は改札を通り、1番線のホームへ向かう。
ホームに行くと……電車を待っている人はあまりいないな。10時頃のこの時間だと、これが普通なのかな。高校までの学校は既に授業が始まっている時間だし、仕事が始まっている会社も多いだろうから。
足元の乗車位置案内を頼りに、俺達は10号車の車両が停車する場所まで向かう。
「10号車……ここね」
「そうだね、理沙ちゃん」
10号車の乗車位置で俺達は立ち止まる。
ホームの端近くまで来たから、待っている人は全然いない。乗る予定の10号車が端の車両だし、座れるかもしれないな。
「そういえば、ここからパークランドの最寄り駅までは何分くらいで行けるのですか? 小さい頃に行ったときは車でしたので」
「昔は車だったな。快速だから……10分もあれば行けると思う」
「私もそんな記憶があるよ、リョウ君」
「とても近いですね! 10分なら本当にすぐですねっ」
あおいは嬉しそうに言う。最寄り駅まですぐに行けるのが嬉しいのかな。
それからも5人で遊園地のことを中心に雑談をしていると、
『まもなく、1番線に快速・梨本行きがまいります。まもなく――』
気付けば、もうすぐ鈴木が乗っていると思われる電車が到着するアナウンスが。ちゃんと鈴木と落ち合えるといいな。
それから程なくして、梨本行きの快速電車が調津駅の中に入ってくる。
電車は減速していき、俺達の目の前に10号車の一番後ろの扉が来たところで停車した。そして、駅のホームドアと電車の扉が開き、
「みんなおはよう! ちゃんと会えて嬉しいぜ!」
満面の笑みの鈴木が元気よく出迎えてきた。そんな鈴木はハーフパンツに半袖のTシャツ姿。とてもラフで夏を先取りしているけど、今日は一日ずっと晴れる予報だし、遊園地の中を歩き回るので彼にとってはこれがちょうどいいのかも。それに、去年の暑い時期、鈴木は「あちぃなぁ」と何度も言っていたし。
俺達5人は鈴木に「おはよう」と言いながら乗車する。
車内を見ると、先頭車両なのもあって結構空いている。ロングシートの中には空席となっている場所がいくつもあって。その中でも3席連続で空いている場所があったので、その席に愛実、あおい、海老名さんが座る。そんな彼女達と向かい合う形で男性陣3人が立つことに。ちなみに、俺は愛実と向かい合っている。
座る場所や立つ場所が決まってすぐに、俺達の乗る電車はゆっくりと発車。
近くの扉の上にあるモニターには、調津駅から先の停車駅と所要時間が表示されている。パークランドの最寄り駅……清王パークランド駅は2駅先で、所要時間は6分か。思ったより短いな。みんなと一緒だからあっという間だろう。
「こうして電車に乗るとお出かけしてるって感じがするね、リョウ君」
「そうだな。学校は徒歩通学だし」
「愛実の言うこと分かるわ。買い物も調津で満足できるものね。特別感あるわよね」
「俺もどこかへ遊びに行くときくらいだな。大会のときは学校が手配してくれるバスで行くことが多いし」
「オレは清王線に乗って電車通学しているからな。今日はちょっと長めに乗ってるって感じだぜ」
徒歩通学と電車通学で、電車に乗っている感覚が違うんだな。
「あおいはどうだ?」
「前の学校は電車通学で、10分ほど乗っていました。なので、電車に乗るのは慣れています。ただ、この路線に乗ったことは全然ないですからね。涼我君達と一緒ですからワクワクしていますっ」
そう言うあおいの目は輝いていて。可愛いな。
京都にいた頃は電車通学だったのか。高1の間は毎日10分乗っていたから、清王パークランド駅まで本当にすぐだと言ったのだろう。
その後も、通学のことや電車絡みのことで話が盛り上がった。それもあって、清王パークランド駅までは本当にすぐだった。
「最寄り駅まであっという間でしたね」
「そうだね、あおいちゃん」
「あと、駅からパークランドまでゴンドラで行けるんですよね! 私、ゴンドラで行ってみたいですっ!」
とても元気良くお願いするあおい。
清王パークランド駅前から、パークランドまで10分ほどで行けるゴンドラがある。500円で往復の空中移動を楽しめる。他にも路線バスでも行けるけど、往復で数十円ほどしか安くならない。なので、電車で来たときはゴンドラを使う。
昔、パークランドに行ったときは車だったから、あおいはゴンドラに乗ることはなかった。それに、ゴンドラからの景色は綺麗だと評判だから乗りたいと思ったのかも。
「電車で来たからな。ここからパークランドまではゴンドラで行こうと思ってる」
「そうですか!」
「みんなもゴンドラでいいか? 特に鈴木」
「オレもゴンドラがいいぜ! これまで、彼女とデートで来たときには毎回ゴンドラで行くからな」
「私もゴンドラがいいな。景色も綺麗だし」
「まだそこまで散っていない桜もあるからね。私もゴンドラに賛成よ」
「いつもゴンドラだし、直通で楽だからな」
「全員賛成だな。じゃあ、ゴンドラに乗ってパークランドへ行こう」
『おーっ!』
あおいと鈴木が元気良く返事をしてくれる。あおいは拳にした右手を突き上げて。そんな2人を見て、俺は自然と「ははっ」と笑い声を漏らした。
ゴンドラ乗り場に行き、券売機で往復の乗車券を購入する。
ホームに行くと、俺達の前には10人くらいの人しかいなかった。これまで、休日や長期休暇のときに行っていたのもあるけど、今までで一番並んでいる人の数が少ない。
並んでから数分ほどして、俺達はゴンドラに乗る。10分ほどの空中散歩を楽しむ。
「うわあっ、広くていい景色ですね! あと、桜がとても綺麗です!」
「でしょう、あおい」
「この時期特有の風景って感じだよね。リョウ君もそう思わない?」
「そうだな」
「ゴンドラからだけど、みんなと桜を見られて嬉しいぜ!」
「良かったな、鈴木」
みんな、ゴンドラからの景色を楽しんでいるなぁ。
進行方向の景色を見ると、これから遊ぶ予定の東京パークランドが段々近づいてくる。ジェットコースターやフリーフォール、観覧車といったアトラクションが見えて。楽しみな気持ちがどんどん膨らんでいくのであった。
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