エピローグ



 エルノーチェ公爵家。


 現在一男三女が属する、セシティスタ王国の由緒正しき公爵家だ。


 三姉妹と長男の評判は、国内では知らない者はいないほど最高なものだった。


 長女ベアトリス。

 王国最強の騎士、オルディオと結婚。辺境の地を守る任を与えられると、オルディオに着いて共に辺境へと向かった。夫不在には屋敷を守る役目を全うしている。今では何があっても良いようにベアトリス自身も鍛錬をかかしていない。


「オル様。私なら問題ありませんわ。貴方の妻になってから、しっかりと剣術を学んでいますから」

「だが、ベアトリス。君を相手に剣は振れない……」

「何を仰いますの! さぁ、稽古をつけてください!!」

「頼むベアトリス。俺の負けでいいから……」


 辺境、と言っても隣国は妹の暮らす帝国なので危険は全くないが、ベアトリスは“騎士の妻”として強くありたいと思っている。王国の中で、最も強さと気高さを兼ね備えた女性に間違いない。



長男カルセイン。

エルノーチェ公爵として、セシティスタ王国宰相として励む毎日だ。国王リカルドにこき使われている部分はあるが、優秀故に任されることが多い。帝国から美しく聡明な女性を妻にした彼は、今では社交界一の愛妻家と呼ばれている。妻のおかげで女性嫌いは薄まったものの、ダンスができるほど密着できるのは、妻グレースのみのようだ。


「グレース。君に似合うドレスを見つけたんだ。良かったら着てくれないか」

「カルセイン様。お気持ちは嬉しいのですが、買ってき過ぎです……!!」

「すまない。絞ろうかと思ったんだが、グレースなら何を着ても似合うから」

「うっ……とても嬉しいですけど、多すぎますよ。全部着終わるまで、新しいのは買わないでくださいね」

「全部着てくれるのか……! やっぱりグレースは天使だ」


 妻に対する愛は途絶えることなく、いつまでも新婚のように仲のいい夫婦関係を築いているようだ。



 次女リリアンヌ。

 今は王妃リリアンヌ・セシティスタとして、国母の役割を全うしている。完璧な淑女でありながら、国王リカルドを献身的に支え、補佐できるほどの優れた能力を遺憾なく発揮している。王妃として不安を抱えることもあったが、リカルドによって側妃を取るつもりはないと断言されたことで夫婦仲は深まるばかりだった。そして、姉妹で最初に母親になるのだった。


「リリー、不便なことはない? 何か食べたいものはある?」

「リカルド……私なら大丈夫だから早く仕事にいってちょうだい」

「だけど、リリーを一人にするのは心配なんだ」

「一人じゃないから大丈夫よ。……あっ動いた」

「え! 今? 今!?」


 リリアンヌが妊娠してから過保護さに拍車がかかったリカルドだったが、リリアンヌは嫌がることはなくとても嬉しそうだった。先代に引き続きリカルドも賢王と呼ばれており、リリアンヌも賢妃として高く評価されているのであった。



四女レティシア。

 帝国の大公レイノルト・リーンベルクの妻として、大公妃の責務を全うしている。特にリーンベルク領の特産品である緑茶に関しては、誰よりも愛が強く語らせれば右に出る者はいない。一部からは“緑茶博士”と称されるほどだった。その優秀さは王国にも届いており、姉兄が自慢げに話している。

品種改良を重ねてより良い茶葉を生み出し続けるレティシアはリーンベルク家の宝と重宝されるほどだった――。



◆◆◆



「レイノルト様、お味はどうですか?」

「凄く美味しいですよ。ですが、少し香りが弱いですね」

「香り……」

 レイノルト様に作成段階の茶葉を口にしてもらうと、改善点を教えてもらった。リトスさんはこれでもよいと言っていたが、少しだけ引っかかっていたのだ。


「あとほんの少し、香りが強い方が好まれるかと」

「ほんの少し、ですか」

「はい。ほんの少しだけ」

「わかりました。やってみます!」


 意気揚々と作業に取り掛かろうとすれば、レイノルト様に引き寄せられ、そのまま抱えられてしまった。


「レ、レイノルト様!」

「いけませんよレティシア。今日はここまでです」

「あと少し! 本当に少しだけです!」

「昨日も聞いた気がします」

「うっ」


 言った気がする。何なら、もう何十回とも言った覚えがある。それでも仕方ないと思う。いつもきりの悪いところで、レイノルト様から終了の言葉を言われるのだ。もちろんレイノルト様が悪い訳ではない。しかし、できることならきりの良い場所で終わらせたい。


 今回も同じだったので、部屋を退出される前に最後の一押しに出た。


「レイノルト様。やっぱり苦味を試してから――」


 その一押しは最後まで伝えられることなく、レイノルト様の唇によってふさがれた。


「‼」

「……何か言いましたか、レティシア」

「……い、言ってません」


 有無を言わせぬ笑顔を向けられたため、これ以上抵抗はできそうになかった。


「レティシアが緑茶に真剣に向き合ってくださるのはとても嬉しいことですが、もう夕食の時間ですから」

「もうそんな時間ですか!?」

「そうですよ」


 慌てて廊下の窓に目を向ければ、すっかり日は落ちていた。


「レイノルト様。自分で歩けます」

「レティシアの足が冷えるといけませんから」

(あんまり変わらない気がしますが……それなら、お言葉に甘えて)


 恥ずかしいから下ろしてほしいと、以前の自分なら言っていたことだろう。しかし、今は一緒にいることが何よりも幸せなのだ――。


◆◆◆


 レイノルトとの仲は深まる一方で、帝国一のおしどり夫婦と呼ばれている。レティシアは緑茶だけでなく、社交界でも大公夫人としての役割を果たしていた。配慮に優れた、気品あふれる大公夫人として、社交界に名を残すのであった。


(完)


▽▼▽▼


 このエピローグをもちまして、「姉に悪評を立てられましたが、何故か隣国の大公に溺愛されています~自分らしく生きることがモットーです~」は完結とさせていただきます。

 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました!!


 気付けば投稿開始から一年半も経過しておりました。長らく書いていたからか、完結と言うのが本当に寂しく思えてしまいます。更新が途切れたことが何度もあったにも関わらず、完結までお付き合いいただいた皆様には感謝してもしたりません。本当にありがとうございます。


 また、多くの感想をいただき本当にありがとうございました。返信できずに大変申し訳ございません。毎回とても励みになっており、もちろん、ハートや評価もモチベーションアップになっておりました。ありがとうございます。

誠に勝手ながら、このエピローグについた感想のみに返信をさせていただこうと思います。よろしくお願いいたします。


 第一部、第二部、第三部と最後まで見届けていただいた読者の皆様に、改めて心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました!!

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