第373話 お似合いの二人
結婚式が終幕すると、カルセインとグレース様のお見合いがセッティングされた。あの後姉達が観察し続けた結果、二人がお互いによく思っているのは明らかだったと言う。
カルセインにお見合いの話を伝えれば、少し悲しそうな顔をしながらも「確かに帝国の方なら俺への偏見は無いかもしれないな」と前向きに受け入れていた。
しかし、お見合い自体に疲労を感じているからか、相手の詳細を話す時カルセインは上の空だった。
帰国の予定も考えて、お見合いは急いで行われることになった。場所は大公城で、レイノルト様が仲人を務めることになっているが、実際は私も務めている。
大公城の一室で、お見合い相手が来るのを待っていた。レイノルト様が迎えに行っている状況だ。
「レティシア。相手の方はどんな人なんだ?」
「やっぱり昨日、聞いてなかったんですね」
「す、すまない」
疲れているのもわかっているので、責める気はまるで無い。
「本日のお相手は、私もよく知る人なんです」
「そうなのか」
「はい。……とても芯の強い女性です。品も知性もあって、社交界での立ち振舞いも完璧です。その優秀さは、必ず王国でも通用するかと」
「……そんなに凄い方が相手なのか」
「緊張されますか?」
「あ、あぁ」
(……緊張する必要はないと思いますよ)
レイノルト様の紹介、という言葉がカルセインの重荷になっているかもしれないが、そう感じるのもあと数分の話だ。
「お兄様。私はお兄様の幸せを願っているんです」
「……どうしたんだ急に。いや、そう言ってもらえるのは嬉しいが」
「ふふっ。……本日のお相手は、お兄様を幸せにしてくださると踏んでいるんです」
「え? レティシア、それはーー」
コンコン。
カルセインからの疑問に答えることなく、扉が叩かれた。
「お兄様。答えはすぐにわかりますよ」
そう微笑むのと、扉が開いてレイノルト様達が入ってくるのは同じタイミングだった。
「こちらです、シルフォン嬢」
「ありがとうございます……え? どうしてレティシア様が」
「ごきげんよう、グレース様。実は本日の仲人を務めます。お兄様をよろしくお願いしますね」
「「!!」」
その瞬間、グレース様とカルセインが対面した。二人が固まる中、私はさっと紹介をした。
「グレース様。こちらカルセイン・エルノーチェです。お兄様。こちらグレース・シルフォン嬢です。ご存じだとは思われますが」
「レ、レティシア。これは……」
「後は主役のお二人でお過ごしください。私達は退場しますね」
「レ、レティシア様……!」
多くは語らず、二人を置いて私はレイノルト様と退出するのだった。
◆◆◆
〈カルセイン視点〉
動揺が収まらない。まさかグレース様とお見合いで会うとは思いもしなかった。しかし、レティシアが先程まで言っていた言葉の意味がよくわかった。
「カ、カルセイン様……あの、私お相手がカルセイン様だと知らなくて……あっ、興味がなかったとかではないんです。大公殿下のご紹介なので、信頼して任せていたと言いますか、その」
グレース様の考えはよくわかる。お見合いで疲れているからか、お見合い相手の話が耳に入らないのは凄く共感できた。
「グレース様。お恥ずかしながら俺も今知ったので。……同じですね」
「あっ……」
恥ずかしそうに頬を赤らめるグレース様に近付くと、彼女の手を取った。突然すぎる出来事だったが、それにもかかわらず俺の気持ちは決まっていた。
「グレース様。また貴女に会えるとは思ってもみませんでした」
「わ、私もです……」
「ですが、お見合いの話を聞いて……ずっと貴女のことを考えていたんです」
「!!」
「お見合いの相手が帝国のご令嬢だということだけは知っていました。……実はそのお相手がグレース様であれば良いのにと、願っていたんです」
上の空だった理由は、いつの間にか俺の中でグレース様が大きな存在になっていたからだ。すると、グレース様が恥ずかしそうにもこちらを見つめてくれた。
「……私も、カルセイン様が忘れられなくて」
「!!」
「私も……不可能だと思ってましたが、妄想していたんです。相手がカルセイン様だったらいいなと」
そうはにかむグレース様は、本当に可愛かった。その瞬間、この縁を逃してはいけないと判断した。さらに一歩踏み込むと、グレース様に近付いた。
「……俺はもう自分は一生独身でいいとさえ思っていました。でも、グレース様なら。……この先ずっと隣にいてほしいと強く願うんです」
「!!」
「グレース・シルフォン様。俺と結婚してください」
「……喜んでお受けいたします」
返答された瞬間、嬉しさのあまり思わず引き寄せてしまった。
「カ、カ、カルセイン様っ!?」
「絶対に……幸せにします」
「……わ、私も。ずっとお支えします」
動揺していたグレース様も、少し落ち着くと抱き締め返してくれた。
こうして、カルセイン・エルノーチェとグレース・シルフォンの結婚が決まるのだった。
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