第371話 私達の結婚式
遂に結婚式の日がやって来た。
場所はリーンベルク大公城で、レイノルト様と私はお互いに親しい人を招待した。本来であれば、国中の貴族を呼ぶ場でもあるのだが、それは翌日のお披露目会に持ち越された。
(お披露目パーティーでは、もうエルノーチェ公爵令嬢ではなくリーンベルク大公夫人なのね……)
心の中で呟いてみれば、何だか一気に肩書が重くなってしまったように感じた。それでも覚悟は決まっているので、動揺は一切なかった。
ウエディングドレスを身にまとうと、鏡の前で確認をする。
「本当にお似合いですお嬢様!」
「エリン、もう奥様ですよ」
「はっ! そうでした」
(……もう奥様なのね)
シェイラの一言に恥ずかしくなってしまうが、とても嬉しい気持ちに包まれていた。
コンコン。
確認をし終えたところで、部屋にノック音が響く。間違いなく、レイノルト様だろう。
「失礼します。レティシアは……」
「レイノルト様、ここです」
奥の方で着替えを行ったため、私からも扉の方は見えない状態だった。レイノルト様の足音が近づくのと同時に、エリンとシェイラが退室していく。
「‼」
(わぁ……とっても素敵)
対面した瞬間、驚くレイノルト様。私もレイノルト様の礼服に目を奪われる。
(髪がセットされてる。かき上げていらっしゃるレイノルト様は初めてだわ)
普段はずっと下ろしているからこそ、今日あげているのがとても珍しく、より魅力的に感じてしまった。
「レティシア……そのドレスを選んでくださったんですね」
「はい。レイノルト様が用意してくださったドレスは、本当に甲乙つけがたいほど、どれも素敵なものばかりだったんですが……このドレスが、一番特別に思えたんです。変なことを言っているとは思いますが」
「どのドレスもレティシアの為だけに作らせたドレスですから。特別に思っていただけて光栄です」
レイノルト様は隣まで近付くと、そっとベールに触れた。
「まだ駄目ですよ。ベールを上げちゃ」
「もどかしいですね。早くレティシアの表情が見たいのですが……」
「ふふっ。私は良く見えます」
「羨ましいです」
ベールを上げることなくそっと手を下ろすレイノルト様。
「凄く似合っています。レティシアの美しさはベールでは隠れませんね。天使が舞い降りて来たのかと思いました」
(…………ベールがあって良かった)
レイノルト様の甘い褒め言葉に頬を赤くする。何度言われても、やはり慣れないものだ。
「今、物凄くベールをはがしたいのですが」
「が、我慢してください! そんな変な顔してませんから。それに、薄くなら見えるでしょう」
「愛する妻の顔は、しっかりと見たいものですよ?」
「う……それはそうかもしれません」
疑問符を浮かべるレイノルト様だが、正論を言っている気がする。
「レイノルト様こそ。本当に素敵です。……今日は一層輝いていますね」
「レティシアには敵いませんよ」
「いえ。王子様の力が凄すぎて、負けてしまいます」
さすがは王弟。品があるだけではなく、華やかで眩しいオーラをまとっていた。
「王子様らしいレイノルト様は、中々見たことがなかったのですが……今日、また好きになってしまいました」
「!」
ふふっと微笑みながら告げれば、レイノルト様の頬がほんのり赤くなったのがわかった。
「ずるいですよレティシア。私は顔が見えないのに」
「意外と私も見えないんです、これ」
「……確かに」
「ふふっ」
そう和やかに話している間に、段々と緊張は薄まった気がする。すると、シェイラが「お時間です」と呼びに戻って来た。
「では行きましょうか、レティシア」
「はい。レイノルト様」
レイノルト様の手を取ると、私達はそのまま会場へと向かった。
「緊張してますか?」
「実は……してました。ですが、もう大丈夫です。レイノルト様の手が温かいので、とても安心してます」
「それはよかった」
扉の前に立つと緊張が戻ってきそうだったが、レイノルト様が隣にいてくれるので何も怖くはない。すっと手を離し、エスコートの状態に変わる。レイノルト様の腕にそっと触れれば、安心感が一気に増した。
ガチャリと扉が開く。一気に眩しくなるが、そこには大切な家族や帝国でできた友人が温かな眼差しで迎えてくれた。
レイノルト様と歩き出せば、胸に込み上げてくるものがあった。
歩きながら、参列者たちに笑みを返していく。
(グレース様、シエナ様、フェリア様……そしてリトスさん)
帝国で私と共に戦ってくれた、御三方。かけがえのない友人の姿も見えた。フェリア様の隣にはリトスさんが座っていた。
駆け巡る帝国での思い出に、もうすでに涙腺は危なかった。ベールを外して、エリンとシェイラに作ってもらった綺麗な顔を見せるまでは泣けない。そう思っていれば、既に号泣している人を見つけてしまった。
(ベアトリスお姉様がもう泣いてらっしゃる!)
隣でオルディオ様が、困ったようにでも安心した様子でベアトリスの頭を撫でていた。ベアトリスのおかげで、涙をひっこめることに成功したのだった。
(リリアンヌお姉様はどこか誇らしそう)
これぞ私の妹よ、と言ってくれそうなほど嬉しそうな笑顔で迎えられた。
(お兄様は何だか感動してらっしゃるわ)
末っ子が結婚するだなんて……とでも言いたげな表情だった。
(ラナ‼ ……隣にいるのはモルトン卿! そこが結ばれたのね)
エルノーチェ公爵家内恋愛があったことを確認すると、その過程を見てみたかったとも思ってしまう。
レイノルト様側に座っている、ライオネル様とシャーロット様、お義父様とお義母様。そしてレイノルト様が長らくお世話になっているという当主の方々。ぺこりとお辞儀をしながら、神父様の前に到着した。
どんな時もお互いを支え合い、守り合うこと。それを約束すると、レイノルト様と向き合う。そっとベールをはがすレイノルト様。
眩しくも温かく、そして安心する微笑みが見えた。
そして、レイノルト様にそっと頬に触れられると、私は目を閉じた。そして、優しく口づけをされるのだった。
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