第368話 到着した家族
結婚式三日前の午前、ベアトリス達がやって来た。
「いらっしゃいませ、皆様」
「ようこそ、フィルナリア帝国へ……!!」
帝国に家族が来たのがどこか嬉しくて、満面の笑みでレイノルト様と迎えた。
オルディオ様にエスコートされるベアトリス、リカルド様にエスコートされるリリアンヌ、そして一人のカルセイン。
(お兄様……いつかは隣にパートナーが立てると良いのだけれど)
不安は抱きながらも、カルセインはどこかぐったりとしているようにも見えた。後からリリアンヌに聞けば、カルセインはお見合いを始めたという。
(お兄様がお見合いを……!! 凄い気になるわ)
後で話すわね、と言われたので楽しみに待とう。
午前中は、大公城の案内を行った。そのまま帝国の食事を緑茶つきで楽しんでもらうと、午後をどうするのか訪ねるのだった。
「私はオル様と二人で帝国を観光しようと思って」
「私もリカルドと二人で観光を」
どうやらここのところ、忙しくて二人で過ごすことがなかったようだ。レイノルト様が、二組へ問い掛ける。
「護衛をつけさせていただいてもよろしいでしょうか」
「それでしたら、リカルドの方に多く回してください。ベアトリスは私が必ず守りきりますので」
「オルディオ、それは僕のことを弱いと言ってないかい?」
「まさか。でも俺よりは弱いじゃないか」
「……王国に帰ったら久し振りに手合わせしようか」
「怪我をするから止めておけ」
二人のやり取りに呆れるリリアンヌと、おろおろと不安そうになるベアトリス。結局、ベアトリスとオルディオ様にはこっそりと護衛が二名付くことになり、リリアンヌとリカルド様には護衛が六名付くことになった。
「どちらも気配を消させますので、楽しんできてください」
「ご配慮ありがとうございます」
ベアトリスが喜びながらお礼を告げた。四名を送り出すと、隣に立っていたカルセインにどうするのか尋ねた。
「お兄様はお部屋で休まれますか? お疲れのようですし」
「……いや。せっかく帝国に来たんだ。観光というか、色々と見て回りたい」
「わかりました、では護衛をーー」
「大丈夫です、レイノルト様。自分の身は自分で守れます」
珍しく作り笑顔で断るカルセインに、感じたことがあった。
「ですが」
(あ……もしかして一人になりたいのかもしれません)
レイノルト様の裾を引っ張りながらそう伝える。
「わかりました。治安が良いので何もないとは思いますが、お気をつけくださいね」
「はい、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、カルセインはそのまま一人で出発するのだった。
「カルセイン殿は大丈夫ですか?」
「連日お見合いのようで、疲れているみたいです」
「なるほど……だからあんなことを」
「えっ。お兄様、何て言ってたんですか?」
「独身がお似合いだ、と」
「お兄様……」
お見合いで何があったのかはわからないが、相当疲れていることだけはわかった。
「……帝国の景色を見て元気を出してくださると良いのですが」
「そうですね……」
不安になりながらも、カルセインの乗った馬車を見送るのだった。
「お兄様ならきっと大丈夫です。今は自分の心配をしないと」
「本番は三日後ですからね」
「……もう緊張してます」
「大丈夫です。ですが、確認すれば不安は薄れると思いますので、確認しましょう」
「はい!」
まずは個人の最終確認を始めることにして、自室に戻ってドレス等の確認を始めた。
「シェイラ、エリンは?」
「出ております。実は結婚式でお出しする緑茶の茶葉に不備がありまして」
「不備?」
「はい。甘い緑茶の茶葉の量が少なくて。セシティスタ王国の方には甘い方が良いと、リトス様の判断です」
(リトスさん、ありがとうございます!)
抜け落ちていた要素に不安が生まれるものの、未然に防げたことに安堵する。
「抜けていたわ……私が作った茶葉にばかり気を取られていて」
「そちらの方が大切ですから。リトス様にお聞きしたところ、店頭になら在庫があるとのことで、エリンが取りに向かってます」
(ありがとう、エリン……!!)
他にもお使いがあったため、エリンが向かうことになったという。
「何だか不安になってきたわ……シェイラ、一から確認しましょう」
「何度でも不安がなくなるまでやりましょ
う」
「えぇ、お願い」
招待状は各方面に出した。お世話になった帝国のご令嬢方、私とレイノルト様それぞれの家族。レイノルト様がお世話になっている貴族の方々も、レイノルト様に三回ほど確認したので問題ないと思う。
ウェディングドレスは無事に決定し、その装飾品も完璧に揃っている。
「ありがとうシェイラ。少し安心してきたわ」
「良かったです。もう三日後ではありますが、逆に言えばまだ三日あるとも考えられますので」
「そうね。……ありがとう」
シェイラのおかげで落ち着くと、今度はレイノルト様と共同での確認を始めるのだった。
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