第367話 公爵の婚約者探し(ベアトリス視点)
レティシアを見送ると、私とリリアンヌはエルノーチェ公爵家を訪れていた。
「リリアンヌ、あれは届いたのかしら?」
「えぇ。お兄様にしてはかなりの量が」
「カルセインは?」
「絶句して書斎に閉じ籠りましたわ。逃げるように仕事をしているそうです。……まぁ確かにこの量を一人で見るのは可哀想かと」
リリアンヌが示す先には、大量に届いた婚約申込書と姿絵があった。
そう、カルセインは何とかするとか良いながら、恋人を作る気配もなければ、婚約者を探す素振りも見せようとしなかった。
あまつさえエルノーチェ家の執事から聞いたのは「独身で良い」とぼやいていたということ。
このままではカルセインは本当に独身を貫く恐れがあったので、カルセインの婚約者及びエルノーチェ公爵夫人探しを開始することにしたのだ。
実はリリアンヌは早く動いており、自身の結婚式では「実はお兄様の婚約者を探しておりまして……」という話を貴族達に言って回っていたのだ。
「リリアンヌ。私達で絞りましょう。カルセインが興味ありそうな方とか、公爵夫人が務まりそうな方を抽出しましょう」
「わかりました」
二人で並んで座ると、カルセインについての情報の共有を始めた。
「あの人……母の影響で女性が嫌いなのは健在に見える?」
「健在だと思いますよ。私の結婚披露パーティーでは、かなりのご令嬢に言い寄られていましたから」
「あぁ……暫定一位なのよね。優良物件として」
「えぇ。何せ公爵夫人になれるだけでなく、王国の王妃と帝国の大公妃との縁までついてきますからね」
得られるものが大きすぎるが故に、大量の姿絵が届いたのだった。
「……私は正直、身分よりも人柄重視でいきたいわ。カルセインが傷付かないように」
「賛成です。レティシアにお兄様を頼まれましたが、幸せを願っているようなので」
「あら。リリアンヌは?」
「もちろん願っておりますよ? ですので、怯える日々のないようなお相手選びが必要ですね」
「えぇ」
方針が決まると、早速二人で姿絵を見ていった。ひとまずは私達が絞って、あとはお見合いの場を設けようという考えだった。
「あら可愛らしい方ね。伯爵家次女……家柄は申し分ないけれど」
「素行に問題ありです。かなりの浪費家のようで、ドレスや宝石を買い込んでいるとの話を聞きましたわ」
「いつの間に」
「あら。結婚式ですよ。親切に教えてくださる方がたくさんいて。……まぁ、ただの蹴落とし合いですが」
恐るべし社交界。カルセインが億劫になる理由もわかるが、夫人の座が埋まらないのは大きな問題になる。そのため、婚約者探しは必須だった。
「あとこちらとこちらの方も駄目ですね。裏表が激しいそうです」
「あらまぁ」
リリアンヌは真剣に選別していった。しっかりと兄のことは考えてくれるようだ。
母に似た性格であれば落選、浪費家でも落選、頭が悪くても落選、素行が悪ければ落選……リリアンヌの情報だよりで選別を進めた。
その結果、何とか五人にまで絞ることができたのだった。
「カルセインの所に行きましょう。本人の許可をとって、お見合いの手配をしなくては」
「はい、お姉様」
書斎に向かえば、黙々と仕事をこなしているカルセインがいた。
「カルセイン。あの量から五人まで私とリリアンヌで見繕ったわ。取り敢えずはお会いしてみなさいな」
「えっ」
「えっ、ではないのよ。カルセイン、これ以上独身は許されないわ。結婚適齢期はギリギリなのよ?」
「ちなみにですがお兄様。婚約適齢期は過ぎてます」
「うっ……」
現実に向き合えという圧を醸し出すと、渋々頷いたのだった。
こうして、カルセインの怒涛のお見合いが開始されるのだった。
一人目、アイラ・イェソン。イェソン侯爵家の長女で勉学が優秀。
「どうでしたか」
「……使用人にきつく当たっていた。俺には普通だったんだが」
「使用人……身分重視なのは想定外ね」
「情報不足でした。すみません」
「リリアンヌが謝ることじゃないさ。ご縁がなかったということで、お断りしておきます」
二人目、カトリーナ・ミュント。伯爵家の一人娘で、大人しい子だという事前情報があった。
「昔のリリアンヌみたいだった……」
「どういう意味ですか」
「な、何て言えば良いんだ? ご自分の独特な世界観を持ってるといえば良いのか。……だが悪くいえばこだわりが強いというか」
「それは強烈ね」
「あまり会話も噛み合えなかったです」
「縁がなかったということね……」
三人目、ナタリー・シルベット。子爵家の次女で、結婚式でリリアンヌが子爵から“可もなく不可もない平凡な子です”と言われたという。
「…………」
「何をそんなに落ち込んでいるの」
「怖がらせてしまいました」
「え?」
「本人は婚約に乗り気じゃないみたいです。ずっとびくびくされていました。あと涙目に」
「……本人が可哀想ね。お断りしましょう」
「はい」
残りは二人となったが、お見合いをするよりも先にレティシアの結婚式が迫っていた。
(ひとまず、カルセインがお見合いを始めただけでもよしとしましょう)
そう思い直しながら、帝国へ向かう準備を始めるのだった。
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