第359話 愚者への処断(カルセイン視点)
議会が終わった翌日、急ぎ馬を走らせたエドモンド殿下が調査報告と共に帰ってきた。姉様やレティシア達は馬車で後から来るとのことだった。
そして、オルディオ殿下とリカルドのはの話通りエドモンド殿下は随分と成長されたことを知った。
それを早々に思い知ったのは、予想外なことに、顔を合わせてすぐに頭を下げられてしまったのだ。
「エルノーチェ公爵。私の不始末により、三女であるキャサリンの自由を許した上に、ベアトリス嬢に危険を負わせてしまった。本当に申し訳ない」
「……お止めください殿下。姉を救ったのもまた、殿下だとお聞きしております。そうすれば、相殺ではないでしょうか」
「……寛大な心に感謝する」
最後まで深々と頭を下げた殿下は、小さな笑みを浮かべながらもう一度会釈をするのだった。
(あぁ……本当に殿下は変わられたのだな)
そう思うには十分な言葉だった。
エドモンド殿下が到着すると、玉座の前には再び議会で集まった人間が顔を合わせた。
昨日と違うのは、容疑者は鎖に繋がれて騎士による監視のもと、玉座を前に膝をついていたことだった。
「シグノアス公爵。調査結果が届いた」
「…………」
「エドモンド、前へ」
「はい」
エドモンド殿下は、シグノアス公爵と玉座に座る陛下の前にあるものを手にしながら移動した。
「調査結果をご報告します。シグノアス公爵家からは、国家反逆罪に該当する計画書および密書は見つかりませんでした」
「当然の結果かと」
「ですが。本日おられる各当主方の家からは、国家反逆罪に関する計画書および密書が見つかりました。そこには、しっかりとシグノアス公爵家の印が押されております」
「!!」
詰めが甘い、とはこの事だろう。
シグノアス公爵はきっと、徹底して計画を進めていたに違いない。ただそれはあくまでも彼だけだったのだ。
「それは誰かが私を貶めようとしているだけにございます! 私が関わったという直接的な証拠はございません!!」
「他家で見つかった密書に使われていた印鑑は、シグノアス公爵家から見つかっております。これは、紐付けられる有力な証拠かと」
「私が不在の際、誰かが混入させたに違いありません!!」
「今回の計画に関する密書はありませんでしたが、計画を立てるために会合をする際のやり取りである手紙は見つかりました」
「なっ……!! そんなものあるわけが!」
冷静さを失ったシグノアス公爵に、エドモンド殿下は表情を変えることなく言い放った。
「シグノアス公爵。捨てる際は全て火で燃やすか破くべきでしたね。ゴミとして捨てるのであれば、屋敷内の者によって拾われますから」
「エドモンド! 貴様っ……!!」
すぐに目をそらすと、そのままエドモンド殿下は自身が持つものを陛下に見せ始めた。
「シグノアス公爵家から見つかったのは、それだけにございません。公爵の書斎からは、我が弟オルディオの剣が発見されました。オルディオ、お前の剣で間違いないな?」
「……はい。私の剣にございます」
「それも工作したのだろう!! 卑劣な者め!!」
既に弁明する余地も、方法もなくなったシグノアス公爵。判決は陛下が下すまでもなかった。
「公爵。一つ伝えるが、今回の調査は王家の者を動員して行ったのだ。この結果は王家の名誉をかけて、偽りがないと断言できる。反論があるのなら、それを踏まえてしてみせよ」
「ーーっ!!」
シグノアス公爵の表情は歪み、彼はどうにか逃れようと言い訳を始めたが、どれも証拠品を覆せるものではなかった。
「昨日言った筈だ。オルディオの剣こそが、全ての決め手となると」
「その剣に心当たりがないと!」
「それでは言い訳にしかならぬ。本当に心当たりがないのであれば、筋道を立てて納得させる話をすべきだ。何せ一日も猶予を与えたのだからな。だが公爵にそれは不可能であった。何故か? オルディオの殺害未遂もエドモンドへの脅迫も事実だからだ」
「違います!!」
大きな声で否定だけは一流にするものの、もはやその声には少しも影響力は無かった。
「……残念だ。一家臣として仕え続ける道を選べなかったそなたが」
「…………」
それは本心なのか違うのか、俺にはわからなかった。ただ、その言葉を最後に陛下は玉座から立ち上がった。
「シグノアス公爵および公爵を支持した派閥の家を、国家反逆罪および不敬罪等の数多くの罪により、死刑に処す」
「「「!!」」」
その瞬間、シグノアス公爵はぐっと唇を噛み締めた。他の貴族達は未だに「陛下お考え直しを!」「私は何もしておりませぬ!!」「何かの間違いにございます!」とわめくだけで、誰一人として無実を証明することは叶わなかった。
処罰が決まると、シグノアス公爵達は王城の地下牢へと連れていかれた。
その姿を、二人の王子は最後まで軽蔑した眼差しで見送るのだった。
「……終ったな」
「……終りましたね」
二人の王子は、誰もいなくなった広間を前にそう呟きあった。
間もなくして陛下がこちらへと近付いてくると、二人をそっと抱き寄せた。
俺とリカルド、そしてフェルクス大公は、その様子を静かに見守るのであった。
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