第358話 怒りを帯びた言葉(カルセイン視点)
計画があまりにも上手く進んだ結果、最終的に成功を収めると信じて疑わなかったシグノアス公爵。
彼は今、計画の失敗を目の当たりにしていた。
「……それが、私と」
「何も知らないと、上手く行くと今でも思ってるのだろう。……はっきり言おう。公爵は私を……王子達を侮りすぎだ」
「!」
浮かべた笑みから一転し、陛下はこれ以上ないほど冷酷な眼差しをシグノアス公爵へ向けた。
「何か言い訳があるのなら聞こうか」
「陛下。私には陛下が何を仰っているのかわかりません」
「……公爵。最後まで足掻くのか」
「一体何に対して責められているのかわからぬと申しているまでのことです!」
見開かれた目からは動揺と焦りに染まった様子が感じられる。
「そうか。……わからぬなら端的に教えよう。貴公は負けたのだよ。次期国王の座を奪う戦いにな」
「負けた……だと?」
「……リカルド」
「はい、陛下」
リカルドは陛下に命じられて、ようやく立ち上がった。そしてシグノアス公爵並びにその一派をじっと見渡した。
「シグノアス公爵。貴方が本日刺客を通じて陛下を毒殺しようとしたことも、オルディオ殿下の命を今まで狙ってきたことも、エドモンド殿下を脅迫してきたことも……全て証拠が揃っております。言い逃れはできませんよ」
「な、何を言う。私が、何をしたとーー」
「国王陛下及び第二王子の殺害未遂及び、第一王子に対して脅迫。そう申し上げたのです」
「!」
リカルドは反論の余地も与えずに言い放った。シグノアス公爵の顔色が青色から赤く怒りへと変わっていく。
「証拠、か。そこまで言うのなら、見せていただこうか。……ただ、わかっているのだろうか、フェルクス大公子。君は今、人を悪びれもなく罪人と仕立て上げているのだぞ? 私も名誉を傷つけられたとして抗議させていただこう」
相手がリカルドへと変わったからか、公爵は少しずつ興奮を収めていった。
「もちろん抗議していただいて構いません。……もっとも、公爵の無実が晴れたらの話ですが」
「はっ」
自身の罪が明らかになることはない、そう確信しているような公爵だが、開かれた扉から現れた人物を見て、一瞬恐ろしい形相になった。
「……」
それは、かつてシグノアス公爵へオルディオ殿下を殺したと報告したはずの男二名だった。
「オルディオ殿下殺害未遂に関しては、彼らが証人です」
「……はて。見覚えがありませんね」
「おや、そうですか。彼らは貴方から命を受けたと」
「そうですか。残念ですが、初めてお会いする方々です」
証人を用意しても、こうして躱されることはリカルドにとっては想定内のはずだ。それなのに、人をぞんざいに扱う公爵に怒りを覚える。
「貴方はそう言うと思いました」
「……それは証人と言えませんね」
「いえ。私が、証言してもらうのは貴方との関係ではありませんよ」
「……」
にこりと笑みを浮かべるリカルドは、やって来た男性の一人に目線で合図を送った。
「証言をお願いします」
「はい。私は、シグノアス公爵様にオルディオ殿下の殺害を命じられました。命の通り、私はオルディオ殿下を殺害したとシグノアス公爵様に虚偽の報告申し上げました」
「全て彼の虚言ですね」
鼻で嘲笑うようにシグノアス公爵は一蹴した。
「その際! シグノアス公爵にオルディオ殿下が死んだことを証明するために、オルディオ殿下のお持ちになられていた剣をお渡しいたしました」
「!」
その証言をした瞬間、シグノアス公爵に残されていたわずかな余裕の表情が消え去った。
「シグノアス公爵。彼の証言が正しければ、シグノアス公爵邸には今、オルディオ殿下の剣があるはずですね」
「……正しければ、ですね」
「陛下、私からは以上です」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、リカルドは怪しく微笑んだ。
「オルディオに関する殺害と、エドモンドに関する脅迫は調査次第となるな」
「調査……日程は早い方がよろしいですよね。私も潔白をできる限り早く証明させていただきたい」
「そうか。それならば良かった。実は昨日、既に王国騎士団が動いている」
余裕げに笑う陛下に対し、シグノアス公爵は再び青ざめていく。
「何を勝手なーー」
「勝手ではない。これはエドモンドが王族の権限として王国騎士団を呼び寄せたまでのこと。私はそれを許可したまで」
「エドモンドっ……!!」
リカルドが言っていた。
シグノアス公爵は、傀儡にすると決めたエドモンド殿下を必要以上に見下し侮っていたと。
崩れた表情からは、その本性が見えた気がした。
「……陛下。私はここで失礼させていただきます。屋敷の捜索をされているのに、家主がいないなどおかしな話ですので」
「確かに普通ならそうだろう。だが公爵。そなたは調査が終わるまで身柄を拘束させてもらおう」
「は?」
陛下が腕を上げて合図をした瞬間、各扉から騎士達が勢い良く入室してきた。
「シグノアス公爵およびその派閥と確認される者達を捕えよ」
「へ、陛下!!」
「国家反逆罪の容疑で拘束する」
「陛下! まだ何も明確な証拠はあがっておりません!!」
「あぁ。だが、毒を入れた侍女も不思議なことにそなたに命じられたと吐いてな。その上、自分は第二王子のフリをするよう脅迫されたと証言する者まででてきた。私は国王として、その言葉を無視するわけにもいかない。そして、ここまで偶然が重なれば、放置することもできまい」
「なっ!!」
騎士は国王陛下に命じられた通りに、シグノアス公爵達の動きを封じていく。
「シグノアス公爵、案ずるな。そなたが無実であれば、エドモンドがそれを証明してくれよう」
「ーーっ!!」
「結果を追って待つように。……連れていけ」
「「「はっ!!」」」
最後の言葉は、陛下の怒りがこもったものである気がした。
息子であるエドモンド殿下を、長年に渡り馬鹿にし続けたことに対する怒りが。
こうして議会は幕を閉じるのだった。
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