第351話 再会と謝罪
作戦の中で、ベアトリス救出が挙げられた時、私はどうしても行きたいという思いで志願した。
「駄目よレティシア! 貴女までシグノアス公爵邸に行くだなんて危険すぎるわ!!」「ですがお姉様……どうしても、行かなくてはならないんです」
「それは……あの娘ね」
「はい。今度こそ、縁を消滅させたくて」
「……気持ちはわかるけれど」
今回ベアトリスの不運を招いた原因の一つに、私は絶対に当てはまる。レイノルト様もリリアンヌも言ってくれたように、私が責任を感じる必要は確かにないかもしれない。
ただ、この先まだキャサリンという存在が付きまとうと考えるのは不快でならなかった。
「リリアンヌ嬢。私がついて行きます。ですのでどうか、許可をいただけませんか?」
「レイノルト様、それは」
「……それなら」
レイノルト様の一声が、悩むリリアンヌを頷かせてくれた。フェルクス大公子に話を聞いたところ、今回王城へと向かう人員にレイノルト様は不在でも問題ないとのことだった。
「愛する人の望みを叶えるのが役目です。それに、私も一度はご挨拶させていただこうかと」
「……それはいいですね。是非とも見せつけて差し上げてください」
先程の不安げな面持ちから一転し、リリアンヌは綺麗な笑顔で私達を送り出すのだった。
私とレイノルト様含む、ベアトリス救出組は、まずはオルディオ殿下の面会に同行することになった。
オルディオ殿下の面会相手はエドモンド殿下であり、彼らはとても有意義な話ができたようだった。
話し合いが終了すると、オルディオ殿下は待機していた私達を部屋へと入れてくれた。
「兄様。もし叶うのなら、貴方の力を貸してほしい」
「オルディオ……」
私達がシグノアス公爵邸に入るまでから、その後まで。積極的なサポートをしてもらえるかオルディオ殿下が尋ね始めた。
「まずは謝罪をさせてください」
「「……」」
「リーンベルく大公殿下、エルノーチェ公爵令嬢。あの日はお二人を不快にさせた挙げ句、人として無礼きわまりない行動を起こしてしまいました」
「兄様……」
それは、リリアンヌの婚約披露会での出来事。キャサリンと破棄された婚約を、私に結び直そうとした話を指していた。
エドモンド殿下は、深く深く頭を下げており、その間長い沈黙が流れた。
私とレイノルト様は、そっと顔を見合わせるとゆっくりと頷くのだった。
「顔をお上げください、エドモンド殿下。今回の協力で、水に流すことにしませんか?」
「エルノーチェ嬢……」
「私もレティシアに同意します。エドモンド殿下が抱えていた事情を、私達も少しながらオルディオ殿下から聞きましたので」
「大公殿下まで……ありがとう、ございます」
ぐっと噛み締めながら、エドモンド殿下は再び頭を下げるのだった。
こうして私とレイノルト様含む救出組はエドモンド殿下の案内により、シグノアス公爵邸に潜入することにした。
用意していた馬車に乗り込むと、ここでオルディオ殿下とはお別れになった。
「殿下、お姉様のことはお任せください」
「はい、レティシア嬢。……ベアトリスにこれを渡していただけますか?」
「……確かに預かりました」
オルディオ殿下に見送られながら、私達は出発した。馬車には私とレイノルト様、そしてエドモンド殿下が同乗し、今後の動きに関して話を進めるのだった。
「オルディオが亡くなったとなれば、間違いなく伯父様は動きます。ですが、その時連れていかれるのは私ではなくイノです。私は最後まで、存在を明かされないはずですから」
エドモンド殿下は、シグノアス公爵邸に入り込む絶好の機会はそこだと述べた。
「伯父様が屋敷を空けさえすれば、残る戦力はそう多くありません。事前にリカルドによって捕らえられた者達はもういませんので。その時が来たら、合図を出します」
「……エドモンド殿下。貴方はどれほどシグノアス公爵に信頼されているのですか?」
レイノルト様の疑問は私も感じていたことで、エドモンド殿下経由でシグノアス公爵に警戒される可能性があるように私も感じ取った。
「逆です」
「逆……」
エドモンド殿下は、どこか自重気味に笑みをこぼした。
「これでもないかという程に低く評価額されています。何せ、傀儡にしようとしている本人ですから。心が弱く、意思も弱い。一言で言えば貧弱な男だと」
「「……」」
「だからこそ、隙を突けると思っています。まさか私が、お二人を手引きして屋敷にいれるだなんて、思いもしないでしょうから」
シグノアス公爵の物言いにはあまり良い気分はしなかったものの、本人がそれを武器として笑みを浮かべる姿には、十分に信用できるものがあった。
(……随分と、お強くなられた気がする)
以前対峙した、婚約の一件。あの日発せれた弱々しく情けない声色は、今日は一度も耳にすることはなかった。
「では、合図をお待ちください。必ずや、お二人と救出隊を屋敷に入れて見みせます」
そう宣言したエドモンド殿下は、見事言葉通り実行させるのだった。
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