第348話 訪問者と公爵の本性(カルセイン視点)
フェルクス大公家から使者がやってきた。かと思えば、その後ろにいたのはフィルナリア帝国の方々で……訳がわからなくなっていた。
唯一の救いは、使者が持ってきてくれたレティシアからの手紙だった。
「も、申し訳ありません。一からご説明をーー」
「もちろんです! 改めまして、私はリトスと申します。帝国レイノルト・リーンベルク大公殿下の部下です」
「部下……レティシアはご友人だと」
「そ、そうでもあります」
どこか照れ臭そうに肯定する様子を見ると、レティシアが記したレイノルト様の古くからのご友人というのは合っているようだ。
「そしてこちらが……」
「初めまして、公爵様。私ルナイユ公爵家のフェリアと申します」
「こ、公爵家……っ」
「はい。レティシア様には日頃からお世話になっております。その兄君にあられるエルノーチェ公爵様のお役に立てるよう、精進いたします」
「…………」
(レ、レティシア……一体帝国で何をしたんだ……!?)
同じ公爵家と言えど、帝国の公爵令嬢となれば少し気後れする身分。それにもかかわらず、ルナイユ様はレティシアと親しいどころか、何か忠誠を誓っているかのような雰囲気だった。
一体妹が帝国で何をしたのか、思わず心配を抱いてしまった。
「レティシア様は素晴らしいお方です。もしよろしければ、後程お話させていただければ」
「ぜ、是非」
さすがは公爵令嬢なのか、俺が抱いた心配や戸惑いをすぐに感知しているようだった。
「私はカルセイン・エルノーチェです。ご存じの通り、レティシアの兄にあたります」
二人からの挨拶を受けたので、今度は自分が挨拶を返した。お二人は、何故か嬉しそうにその挨拶を聞いてくれる。
戸惑いを消せずにいながら、レティシアの手紙を読み進めた。
「あ……お二方はご夫婦なのですね」
「「!!」」
手紙には“二人は未来の夫婦です。失礼のないようにしてくださいね”とあった。
「ふ、夫婦……」
「その予定ではありますが……今はまだ、残念なことに婚約関係です」
「これは失礼しました」
慌てて謝罪をするものの、ルナイユ様はどこか恥ずかしそうに顔を赤めていた。リトスさんも笑顔を浮かべたままの様子を見る限り、二人の相思相愛は考える間もなく感じられた。
(……絵になるな)
美しいご令嬢と、どちらかといえば貴族ではなく、ご令嬢を守る騎士のような男性、という印象を受けた。
「本当であればもう少し時間をかけて親睦を深めたい所なのですが、時間が限られており」
「重々承知です。私が何をすればよいのか、教えていただけますか」
リトスさんに尋ねれば「私も先程知ったばかりなのですが」と前置きされた状態で、説明をされた。
オルディオ殿下が襲撃されたこと、シグノアス公爵が意図的に殺そうとしたこと、そしてさらに国王陛下の命まで狙っていること……。
一気に流れ込んできた情報を整理するのには少し頭を使ったが、事態が緊迫していることだけは鮮明にわかった。
「そして今、オルディオ殿下が死んだと言う虚偽の情報をシグノアス公爵の元へ届けているのだとか」
「それは……シグノアス公爵側の人間が裏切った、ということですか?」
「そうなります」
「あまり想像付きませんが……本当のことを報告される可能性もありますよね」
「私もその懸念をしていたのですが、どうやらフェルクス大公子様の方が上手だったようで」
リカルド殿が? という疑問を抱くと、フェルクス大公家の使者がその先を説明してくれた。
「襲撃者は元々貴族の出身でした」
「貴族の」
「はい。没落しなくなった元貴族の子孫だったようです」
「元貴族……」
彼らはかつて、悪事を働いたことで没落して無くなった貴族の生き残りだという。
シグノアス公爵は、それを知って慈悲を与えるつもりで襲撃者を拾ったようだ。彼らは罪人の子どもとして、差別を受けていた為、シグノアス公爵の手は光のように見えたのだとか。
ただ、彼らに課せられたのは人を殺すこと。
もちろん、彼らも駒として使われていることには気が付いていたという。ただ恩を報いるために、この一心でオルディオ殿下を襲いかかったのだとか。
失敗した以上、殺して欲しいと願い出られたものの、リカルド殿はその選択をしなかった。
「リカルド様……というよりは、旦那様であるフェルクス大公殿下が事の全てを知っておられたのです」
「大公様が?」
彼らの家が没落した最大の理由は、シグノアス公爵が嵌めたからであると。
この事実は、当然ながら証拠つきで襲撃者達に語られた。
「……なるほど、それでこちら側に付いてくれたという訳か」
「左様にございます」
使者はこくりと頷いた。
シグノアス公爵の非道な姿が、さらに浮き彫りになったところで、ますます彼の野望を阻止しなければならないという思いが強まる。
「状況は理解しました。それで、私は何を?」
「我々と王城へ」
「王城へ」
てっきりフェルクス大公邸に向かうのとばかり思っていた俺は、一瞬きょとんという反応をしてしまう。
「我々が、それぞれレティシア様とレイノルトの振りをします」
「ふ、ふりを……」
そこから語られた作戦は、俺ではとても考え付けないような予想外なものだった。
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