第343話 浮上する野望と悪意
お土産を渡した所で、屋敷の中へと案内された。このお土産によって、近況報告と作戦会議を同時並行することになった。
部屋にはフェルクス大公とオルディオ殿下、大公子とリリアンヌ、私とレイノルト様がそれぞれ隣に座り、三角形のような構図でテーブルを囲んだ。
まず最初に、殿下の命を狙われた件を改めて本人が説明した
「ーーということだ。その上ベアトリス嬢がシグノアス公爵家に事実上捕らわれているが、この話は既に知っているようだな」
「あぁ。うちの情報網はシグノアス公爵にさえ計り知れないものだから」
にこりと微笑む大公子は、そのからくりを明かした。
「シグノアス公爵家には、何人か我が家の人間が潜入済みなんだ。今のところ気が付かれていないよ」
「……さすがだな」
それ故に、ベアトリスの話が伝わるのが早かったのだと全員が納得する。
「まずはこのお土産についてだけど……もらってもいいのかい?」
「あぁ。リカルドなら有効活用できるだろう?」
「もちろん。……彼らを連れてきてもらえたおかげで、必要なものが揃ったと思うよ」
「本当か」
「あぁ。ありがたく使わせてもらう」
大公子の笑みに、殿下は嬉しそうな声色で反応した。
「ベアトリス嬢との婚約を結べたシグノアス公爵は、確実に動き出すはず。それを狙って、彼の計画を壊そうと思っていてね」
「計画」
「君じゃない、偽りのオルディオを王にする計画だ」
「! ……仮説じゃなかったみたいだな」
大公子経由の情報から、殿下の推測が的中することがわかった。そして同時に、キャサリンの居場所とベアトリスが婚約を受け入れた経由も推測が正しかったことが判明した。
(ベアトリスお姉様……)
罪悪感がやりきれない感情があふれそうになる中、そっとレイノルト様が手を重ねてくれた。
(レイノルト様)
ただ何も言わずに、優しい眼差しと笑みでこちらを見つめてくれた。
(ありがとうございます)
小さく微笑み返すと、再び視線を大公子
と戻した。
「仮説……君こそ凄いね、オルディオ。こんな現実離れした考えにたどり着くなんて」
「俺は繋ぎ合わせただけだ」
謙遜する姿に、どこかわかったように大公子は微笑んだ。
すると、大公があきれながら反応をした。
「それにしても馬鹿げているな。本物を殺して、偽物を国王にしようなど現国王である兄が許すはずない」
「そうですね。伯父上は非常に優秀な方ですから」
賢王と呼ばれる現国王であり、我が子に対しても愛があったことは殿下自身の話から感じられる。
そんな彼を欺くことは、普通に考えて不可能だろう。
「だからこそ、シグノアス公爵が立てた計画は不可能な部分が際立ちます。ただ、一つ確かなことは、我らや陛下を除けばオルディオ殿下の顔を知る一般貴族はいないということ」
「それはまさか……!」
大公子の言葉を受けた殿下は、何かに気が付いたように立ち上がった。
「あぁ。知っている者を排除すればいい。そして民意で国王に無理矢理すれば、シグノアス公爵の野望は叶う」
「排除……父様を殺すつもりか……!?」
「「「!!」」」
殿下が口に出した言葉は、シグノアス公爵の真の目的を指していた。
「その可能性が高い、と踏んでいるんだ」
言い切らなかった大公子は、まだ確実な情報は掴めていないと添えた。
「反逆を起こすのではなく、あくまでも毒を盛る形で殺す予定でしょうね。その前までに、多くの貴族を味方につけ、最終的にオルディオと名乗った者を王位につける」
「……それが、仮面を被ったイノ」
殿下はぐっと手に力をいれながら、座り直した。
「イノ……オルディオの影武者か」
「はい」
大公の問いに、どこか元気のない声色で答える殿下。
「オルディオ、安心してほしい。イノ君は本物に成り代わるつもりはないと断言しているからね」
「イノに会ったのか!?」
「僕の従者がね。今は下手に動けないから、ひとまずシグノアス公爵の意見に逆らっていないと」
シグノアス公爵にとって、殿下そっくりに育ったイノさんは計画に不可欠な存在だと大公子が語る。
「それと、イノ君から伝言を」
「イノから……?」
「俺の主君はただ一人です、と」
「!!」
その一言だけで、私でさえイノさんの思いが伝わった。彼が今何を思い、誰のために行動しているのか。これで明確になったことだろう。
「……ありがとう、リカルド」
「僕はただ伝えただけだよ」
泣きそうに、でも嬉しそうに笑みを深める殿下は手の力をほどいた。
「……本題に移るね。僕が、僕達がやらなくてはいけないことは二つあるんだ。一つ目は、伯父上の命が狙われている想定で守りを強化すること、二つ目はシグノアスの陰謀を暴いて地に落とすこと」
前者は考えもしていなかったが、シグノアス公爵であればやりかねないとどこか理解できる自分がいた。
(キャサリンを使ってベアトリスお姉様を脅すような人なら、非道なことに躊躇いがない気がする)
何せ相手は王位に執着がある者。
どんな手を使ってでも手に入れようとするだろう。
「この二つを解決するために、実は既にどう動くか作戦は固まっているんだ。オルディオ、レイノルト様、レティシア嬢のくれたお土産のおかげでね」
にいっと笑みを浮かべる大公子は、私達がどう動くべきなのか説明を始めるのだった。
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