第342話 もう一人の姉

 一週間以上、お知らせもなしに更新を止めてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。本日より更新を再開させていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

 更新停止の関係で、明日も更新いたします。こちらも合わせてよろしくお願いいたします。

▽▼▽▼


 レイノルト様のお屋敷からフェルクス大公家はそう時間はかからず、同日中に到着することができた。


 屋敷を見張っていたシグノアス公爵側の人間も連れて来たため、オルディオ殿下の居場所が公爵に伝わることはまずない。


 大公邸に到着すると、最初に玄関から出てきたのは家の主だった。


「叔父様!」

「オルディオ、無事だったか……!!」


 オルディオ殿下のもう一人のおじであるフェルクス大公が、勢いよく殿下を抱きしめた。


「く、苦しいです」

「心配していたのだ、許せ」

(……フェルクス大公子――リカルド様だけがオルディオ殿下と仲が良いものだと思っていたけれど、大公様とも親しいのね)


 少し予想外だった光景に驚きながらも、浮かべたのは微笑みだった。その光景をじっと見つめていれば、レイノルト様がそっと玄関を指した。


「レティシア、屋敷の玄関に」

「!!」


 そこに立っていたのは間違いなくリリアンヌであり、その姿を捉えた瞬間、無意識に走り出していた。


「リリアンヌお姉様!!」

「レティシアっ!」


 久しぶりに再会するリリアンヌの胸に飛び込む。ぎゅっと抱擁を交わすと、少しだけ離れて顔を上げた。


「お姉様、ご無事ですか?」

「えぇ、ここは安全だもの」

「良かった……」

「無事かどうか尋ねるのならレティシアの方でしょう。怪我はしていない?」

「はい、かすり傷一つありません。レイノルト様が、皆様が守ってくださったおかげで」

「良かった……」


 お互いに無事であったこと、元気であったことを確認し合うと、もう一度だけ強く抱きしめ合った。


「レティシア、お兄様は」

「エルノーチェ公爵家の当主として、残っておられます」


 兄妹の安否を確認するリリアンヌ。それに対して、ベアトリスの今を思い出した瞬間、沈めたはずの思いが浮かび上がってきてしまった。


「……お姉様、大変申し訳ございません。私のせいでベアトリスお姉様が――」


 ぎゅむっ。


 私が全てを言い切るよりも前に、リリアンヌは私の頬を両手でぎゅっと挟んだ。


「お、おねーさま?」

「相変わらずねレティシア。そういうところも変わっていない。いい? どこまでも自分のせいにするのはお止めなさい。シグノアス公爵邸に向かうことを決めたのはお姉様の意思でしょう? そこに偶然キャサリンが居合わせただけのこと。これは確かに不運な出来事だけど、レティシアに責任はない」

「で、でも」


 反論をしようとすれば、さらに頬をぎゅっと潰された。


「でも、じゃないのよレティシア。少しは人のせいにすることを覚えなさい」

「ひ、ひとの?」

「そうよ。どう考えたって今回悪いのはキャサリン。もっと言えばシグノアス公爵よ。レティシアに落ち度なんて一切ないし、むしろ逆恨みされて気の毒なほどなのよ。でも。レティシアがキャサリンとわかり合いたいのなら止めないけど――」

「縁は切りました」


 リリアンヌの言葉を遮るように反応すれば、彼女は優しく微笑んだ。


「……流れる血も変えられれば良いのにね」

「お、おねーさま!」

(物騒です! それに目が笑っていません!!)


 リリアンヌが相変わらず元気であることを改めて確認できた気がする。それに、リリアンヌ流に諭してくれたおかげで、涙をこぼすことはなかった。


「それにしても、もうご存じなのですか」

「えぇ。フェルクス大公家の情報網は私でも未知数なほど、あっという間に話が耳に届くの」

「さ、さすがです……」

「それに…………リカルドが、私を心配してくれたみたい」

「!」


 どうやら、ベアトリスに関して全ての情報がリリアンヌの元に届くようにフェルクス大公子が尽力されたようだった。


「それはもちろん、リリーのためだからね」

「リ、リカルド! 貴方家を空けていたはずじゃ」

「ただいま、リリー。今戻ったんだ」


 リリアンヌの背後から突然現れたフェルクス大公子に、私も驚きながらも、仲良しの二人をそっと眺めていた。


「レティシア」

「レイノルト様」


 話に一度区切りがついたことを見計らって、レイノルト様が傍に来てくれた。そして、一緒にフェルクス大公と大公子に挨拶をすると、早速本題へと入った。


「リカルド殿、色々とお土産があるのですが」

「お土産、ですか」


 にっこりと微笑むレイノルト様は、馬車の荷台へフェルクス大公子と大公を案内した。

 そこには、意識を失ったままのシグノアス公爵側の監視者二名が縄にきつく縛り上げられた状態で座り込んでいた。


「これは……!」

「反応を見る限り、知っているんだなリカルド」

「うちにも来たことがあるからね」


 オルディオ殿下と顔を見合わせると、にっと笑い合った。


「フェルクス大公家の監視にも来た辺り、シグノアス公爵にとって彼らはかなり最上級の切り札と考えられるけど……どうしてここに?」

「命を狙われたからな。レイノルト様達に手助けしてもらって捕まえた」

「命を……!!」


 そこはフェルクス大公子にとっても予想外だったのか、見開くまで驚いていた。


「怪我はないんだろうな」

「あぁ。お二方が強かったからな」

「お二方」

「私と、私の友人のリトスです。リカルド殿に一度お世話になったかと」

「あぁ、彼か!」


 オルディオ殿下によってさらに簡潔に説明を受けると、フェルクス大公子はにっと笑みを浮かべた。


「これは、想像以上に使えるお土産ですね」

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