第340話 仮面の意味
無事オルディオ殿下の検証は成功し、偵察者二名を捕えた状態で終了した。オルディオ殿下が騎士達と会話を交わす中、私とフェリア様はそれぞれ大切なパートナーの元へ近寄った。
「レイノルト様、お怪我はありませんか?」
「えぇ、どこにもありませんよ」
いつも通り穏やかに微笑むレイノルト様だが、それをそのまま受け取らずにじっとレイノルト様の体の様子を観察する。
というのも、先程までフェリア様と二人で話していたことが影響している。
(痛くても隠すこともあるし、我慢することだってある。しっかり見極めないと)
それは男性側としては、そう簡単に弱音は吐かないというものだった。特にレイノルト様とリトスさんは、その部分が一致しており、自分から言い出すことは無さそうという結論に着地した。
無理をする場面ごとに気にかける時は、言葉だけでなく自分の目で確認する心掛けが求められる、という考えに二人でたどり着いたのだった。
じっと見つめ続ければ、レイノルト様がそっと頬に触れた。
「……レティシア」
「?」
何だろうという瞳で顔を上げれば、嬉しそうに微笑むレイノルト様がいた。
「ご心配ありがとうございます。ですが、何かあれば必ずお伝えしますので」
「……わかりました」
私の意図が筒抜けなのはわかっていたのだが、それを嬉しそうに捉えられてしまうと、これ以上観察できないというもの。
今回は確かに怪我がなさそうなので、レイノルト様の言葉に頷くことにした。
ちょうどそのタイミングで、各々のやり取りが終わると、騎士達に偵察者を任せた状態で、彼らを除く全員で奥の部屋へと移動した。
「改めまして、ご協力ありがとうございました」
オルディオ殿下が深々と頭を下げるなか、私達もそれに対してお辞儀で返した。
「検証の結果を踏まえて、私が考えた結論をお話しさせていただきます」
一気に真剣な空気になるものの、リトスさんとフェリア様は少し困惑した表情をされた。
「これ以上私達がお聞きするのは」
「問題ありません。何せ力を貸していただきましたから。聞く権利なら十分にあるかと」
フェリア様の退席の申し出には、オルディオ殿下が穏やかな声色で返した。それに納得すると、二人はそのまま着席をした。
「今回得られた情報としては、“彼らは顔も見ずにただ青髪の騎士を殺そうとした”というものです。ここから考えられるのは、既にこの屋敷に滞在している騎士が誰なのかわかっているから、でしょう」
オルディオ殿下の推測は、衝撃を与えるものだった。
「伯父……シグノアス公爵は、私を殺すことが目的のようです」
この状況からできるもう一つの仮定の、イノさんだと思って殺したでは理由にならないと殿下は続ける。
「イノであれば殺す必要などありません。放置すればよいのです。何故なら欲しい手駒は全部揃ったのだから」
「「「…………」」」
ただ静かに、けれども真剣に全員がオルディオ殿下の方を見つめていた。
「シグノアス公爵は私を殺して、今自分の手元にいる第二王子を本物に仕立て上げる算段ではないかと推測します」
「……それはイノさんを第二王子に、ということでしょうか?」
推測に対して浮かんだ純粋な疑問を、殿下へと尋ねる。
「いいえ。……イノではありません」
「イノさんではない……?」
ふるふると首を横に振る殿下は、どこか苦しそうな面持ちになった。
「ずっと……仮面が引っ掛かっていたんです。何故シグノアス公爵が第二王子に仮面をつけたのか。……王妃ではなく」
最初に持っていた仮説は、指示した者が王妃殿下であれば成立するものだと続ける。
「私は考えすぎました。仮面をつける理由など一つです。それは、顔を隠したいから。顔を隠した状態で、第二王子を本物にする。もちろん中身はイノではありません」
これはただの推測でしかないが、オルディオ殿下にとっては一番辻褄が合う答えなのだと述べた。
「シグノアス公爵が、王妃殿下が……幼少期から国王にしたかったのは私ではなく兄であるエドモンドです。その思いは、今も変わらないのでしょう」
「「「!!」」」
「…………」
つまりそれは、今仮面の下にいる人物がエドモンド殿下であることを意味していた。
「……エドモンド殿下が、オルディオ殿下の人生を乗っ取ろうとしている、と」
レイノルト様は驚かずに、丁寧に話をまとめてくれた。
「はい」
小さく頷くオルディオ殿下は、冷静ではいたものの、複雑な心境であることは明らかだった。そして、その胸の内がこぼされる。
「…………ただ、兄がーーエドモンドが何を考えているのかは、私には図りかねます」
それは、母と伯父ではなく、兄個人に対する願いのような思いにも見えた。
(……オルディオ殿下の話からは、本当に兄弟仲が良好そうだった)
それを踏まえると、エドモンド殿下が何を考えているのかは気になるところだった。
ただそれを抜きにしても、オルディオ殿下の推測が本当ならば、シグノアス公爵がしていることは、いよいよ許されざることなのだと実感してくる。
重い空気になる中、レイノルト様の優しくも鋭い声が響いた。
「わからないのなら、答えを本人に聞くしかありません」
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