第339話 恋愛初心者の実力(レイノルト視点)
オルディオ殿下の検証を行う上で、偵察者達を確実に捕らえるための配置を決めた。
俺とリトスは裏口の先にある、街と境目の場所で待機をするために移動を開始するのだった。
「……リトス、その顔はどうにかならないのか」
「な、なんだ。変な顔か?」
「あぁ、物凄くにやけてるぞ。幸せなのは良いことだが、あまり顔にで続けるとルナイユ嬢に気付かれるんじゃないか」
「! ……気を付けないと」
どうやらリトスは盗み聞きをしたこと自体には、一定の罪悪感を感じているようだった。
「それに、そんな顔じゃ万が一こちらに彼らが突破しようと向かってきた時に舐められるだろうな」
「舐められるのは困るな。悪いが親元の所には借りがある」
それ以上は語らなかったリトスだが、何が言いたいのかはよくわかった。以前囮になった際に、ルナイユ嬢を自分では守りきれなかったことを悔やんでいるのだ。
「今回は必ず仕留める」
「……もちろんだ」
やる気に満ち溢れたリトスの背中を見ながら、二人でオルディオ殿下に指定された場所に待機した。
「……レイノルトは下がっててくれ。怪我なんてさせたら姫君に顔向けできない」
「それはリトスにも同じことが言えるんだが」
「……それもそうか」
仕える者として自然と出た言葉だとは思うのだが、今となってはその身を簡単に犠牲にすることはできないのだと暗に伝える。
(まぁ、昔であっても危険な真似はさせないが)
主従関係は確かにあるものの、それ以前に友人であるから。そう考えながら、俺はリトスの隣に立った。
「……下がらないのか?」
「対等、なんでね」
「……ははっ、そうか」
どこか嬉しそうに笑うリトスを横目で見ながら、体と視線を屋敷の方へと向けた。沈黙が流れると、二つの鋭い気配が物凄い勢いでこちらに飛んでくるのがわかった。
「来たな」
「あぁ。手加減するな」
「そのつもりだ」
偵察者二名を視界に捉えると、その瞬間にリトスと二人動き出した。俺は相手の腕を掴みながら、身動きの取れないように後ろへと回した。
「ぐあっ!!」
リトスの方を見れば、相手を転ばせたところだった。
「き、貴様っ!!」
すぐに立ち上がった偵察者が、刃物を出してリトスに襲い掛かる。それを鋭い視線で見分けながら、一つ一つの動きを躱していく。
そして流れるように背後に回ると、相手の首に腕を回した。窒息させようとしてるのはわかったが、少々加減が強すぎるように見えた。
「リトス、加減をしろ。殺すな」
「……」
「さっきと言ってることが違うって……わかった、さっきの言葉を撤回する」
「……よかったな」
思っていた以上に、リトスのやるせない怒りがあったようだった。その直後、すぐに来た騎士達に偵察者二人を引き渡す。
俺が捕えた方は気絶していなかったので、リトスによって気絶させられていた。
「疑問だったんたが……この前の囮の時、あれは気が緩んでたのか?」
一部始終を聞いた時、正直公爵家の騎士に加えてリトスもいるという安心感から送り出したのだ。
それにも関わらず、結局リカルド殿に助けられる形となっていた。この結果が、あまり腑に落ちていなかった。何故ならリトスは強いから。
「それが……力がでなかったんだ」
「不調だったのか」
まぁそう言う日もあるな、そう思った瞬間、リトスは勢いよくこちらに顔を向けた。
「違う! あまりにもフェリア様が可愛すぎてっ……!! あの日の距離はあまりにも近かったんだ!! 動揺しない方がおかしい!!」
「…………」
(そうだった、リトスは恋愛初心者だった)
そこまでは想定していなかったため、失笑してしまう。
リトス曰く、フェリア様に誰も近付かないよう細心の注意を払っていたは良いものの、内心は胸の高鳴りで思考がまともではなかったのだとか。
「だからフェリア様にまで庇ってもらう結果に……くっ、不甲斐ない」
「まぁ……そういう日もある」
悔しそうにするリトスだが、正直戦闘場面は無理に見せなくても良いと思う。何せリトスは普段温厚な分、怒らせると顔が怖い。
(さっきも凄い顔をしてたからな……ルナイユ嬢ならそれもまるごと受け入れそうではあるが)
その悔しさに加えて、自身の大切な人を傷付けようとした人物でもある相手であったため、リトスは加減ができなかったという訳だ。
「八つ当たりなのはわかってるが、やられたらやり返すものだからな……」
「八つ当たりでもないだろう。刃物を持っていたんだから。それより良かったよ。怪我をしないでくれて」
リトスだって怪我をすれば、ルナイユ嬢が悲しむことになるのだから。そう安堵すれば、別の意味で捉えられてしまった。
「舐めないでくれよレイノルト。これでも鍛えているんだ。レイノルトだって守れるように」
「……ははっ、そうか。ありがとうな」
その言葉がなぜか嬉しくて、顔が思わずにやけてしまった。
二人でどこか笑い合いながら、屋敷へと戻るのだった。
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