第328話 二通の手紙
遅れてしまい大変申し訳ございません。
こちら10/31分の更新となります。
(本日分は定休となります)
▽▼▽▼
顔全体を覆う仮面。
そもそも仮面をつけていること自体不自然な話なのに、その理由が体調不良だと言うのだから納得できないのが普通のはずなのだ。
当日の様子を思い出しながら、さらにシグノアス公爵の思惑を探った。
「シグノアス公爵主催で、シグノアス公爵側を支持しているからかわかりませんが……パーティーの招待客の中で、ベアトリスお姉様以上に仮面について言及した人がそもそもいなかったように思うんです」
普通、仮面をして登場でもすれば好印象は抱かない。仮面舞踏会ならまだしも“御披露目会”と称しているのだから、顔を見せないのは反感に繋がるはずなのだ。
「私もレティシアと同じように思います。ただ、あのパーティーにいたのは、間違いなくシグノアス公爵側に付いた貴族達。いわゆる旧第一王子支持者とも言えると思いますが、考えてみれば彼らとシグノアス公爵の関係は親密なものであり、仮面の存在を知っていたのかもしれません」
レイノルト様は、シグノアス公爵と仮面の第二王子が挨拶回りをする様子を私以上に観察していたという。
それは終始和やかな雰囲気で、ベアトリスのように殺伐とした空気を醸し出したのは見た限りでは皆無だったとか。
「……この角度から考えるのは難しいですね。もう少し単純に考えてみるべきかもしれません」
レイノルト様の方向転換には、カルセインがこくりと頷いた。
「では単純に考えてみましょう。体調不良ならそもそも延期するのも手です。ですがそれをせずに、仮面を出して登場させた。俺にはシグノアス公爵は、とにかく第二王子という存在が自分の手元にあることを示したかったようにしか思えないんです」
その考えには私も同意できた。
「私もお兄様と同じです。……ということは、シグノアス公爵は焦っていたのでしょうか」
「そうだな……陛下が、次期国王をリカルド殿に指名してから様子を伺って準備していた時間はあったと思う。ただ、指名から二ヶ月ほど空いてるのを考えると焦っていたとは思う」
カルセインの答えに共感していると、扉がノックされた。
「ラナ!」
「お嬢様、恐らく重要なお手紙が」
「恐らく?」
「はい。裏口から手紙を届けに来た方がいらっしゃいまして」
「なるほど……ありがとうラナ。お兄様、ご確認を」
ラナによって届けられた手紙は二通あった。
「時差で二人来られたんです。別々の方からだとは思うのですが」
「……両方とも封筒には差出人が書かれてないな。先に来た方はどっちなんだ?」
「先に来た方がこちらです」
「そうか。レティシア、こっちを開けてくれ」
カルセインはそうラナに教えてもらうと先に来た方から手紙を開けて、そうじゃない方を私に渡した。
「……俺の方はリカルド殿からだ」
「私の方はリリアンヌお姉様から」
ひとまず差出人だけ確認したところで、中身を読んでいった。
「リカルド殿の方だが、レティシアとレイノルト様達を襲った集団の尋問が終わったらしい」
「さすが仕事が早いですね」
フェルクス大公子の報告の早さに驚きながらも、カルセインの次の言葉を待った。
「刺客は暗殺者で間違いないようだ。イノさんの命を狙うことが目的だったと」
これで、命が狙われていたことが明確になった。
「イノさんを捕らえずに殺そうとした理由は“必要ないから”とのことだ。あと“邪魔者は誰であろうと排除する”と」
(なんか凄い悪役っぽい捨て台詞だな……)
相手もその道のプロだからか、それ以上口を割ることはなかったという。しかしその発言から、暗殺者達がリトスさんまでも狙った理由が理解できた。
「……必要ないから、邪魔者は誰であろうと排除する」
レイノルト様は考え込んだ様子で、その言葉を復唱した。
「あと一つ。これはリカルド殿の推察だが、暗殺者達は捨て駒ではないと。かなり信用している手駒達だと考えられると」
「……少し引っ掛かりますね」
レイノルト様はそう言うと、顔を上げた。
「暗殺の部類は、確かに信用している人に任せることもあります。ですが、それよりも圧倒的に捨て駒に任せるはずです。何故なら捨て駒であれば失敗した時に繋がりを否定できるから」
「そう、ですね」
レイノルト様の鋭い指摘に、カルセインははっとしながら首を縦に振った。
「それでも信用している駒を使った理由……単純な暗殺だけでは片付けられないですね」
「はい……確実に殺したかった、ということでしょうか」
「それもあり得ますね」
シグノアス公爵の思惑への考察が深まる中、カルセインはリリアンヌの手紙の方に手を伸ばした。
「……リリアンヌは今リカルド殿と長らく会えてない状況のようだがーー!!」
そこまで言いかけて、カルセインは固まった。
「どうなさいましたお兄様」
「カルセイン殿?」
お兄様の目が行ったり来たりを繰り返す。その動きに不安を覚えれば、衝撃的な言葉が放たれた。
「キャサリンが、修道院を抜け出したそうだ」
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