第321話 対面する二人
馬車に乗り込むと、無事刺客に追われることなくお屋敷に到着することがてきた。
「レティシア」
「ありがとうございます、レイノルト様」
先に馬車を降りたレイノルト様が、すっと手を差し出してくれた。その次に、素早くオルディオ殿下が降りて、私達は屋敷の中へと入っていった。
「……彼らは無事でしょうか」
ポツリと心配そうにオルディオ殿下がこぼした。対してレイノルト様は、笑みを浮かべて答える。
「問題ないと信じています。ルナイユ家の騎士達もいましたから」
「それなら……」
「もし、彼らが負傷することがあれば、私は帝国の大公としてシグノアス公爵家に抗議しますから。……どのみち、シグノアス公爵の良いようには転びませんよ」
「!」
黒く微笑むレイノルト様は珍しく、思わず見入ってしまった。
「まずはお疲れ様でした。オルディオ殿下。お疲れかと思いますので、ひとまず休憩を」
「いえ、お気になさらず」
「いえ。この屋敷に迎え入れた以上、殿下は私のお客様ですから。丁重におもてなしをさせていただきます」
「……あ、ありがとうございます」
レイノルト様の黒い笑みは継続中で、屋敷の管理者である執事によってオルディオ殿下は連れて行かれた。
「……恐らくですが、殿下は負傷されているかと」
「そうなのですか?」
「はい。先程馬車に乗り込む時、左腕を庇うような動きがありましたから。いつできたかはわかりませんが、治療が最優先です」
「全く気が付きませんでした……」
よく見ているなと感心してしまう。
ほっとしているのも束の間で、どうしても思考はリトスさんとフェリア様の方に向いてしまった。
「何事もないと良いのですが……」
「……こんなことを言うのは気休めでしかありませんが」
「はい」
「リトスは凄い強運の持ち主なので……何か危険があっても問題ないかと」
「強運……商人としては最高の武器ですね」
「私もそう思います」
思わぬリトスさんの特性に驚きつつも、不思議と納得してしまった。ほんの少し安堵したところで、突然屋敷の玄関扉が叩かれた。
「!」
「レティシア」
レイノルト様が私を隠すように前に出ると、そっと玄関扉に近付いた。扉を開けずに、レイノルト様は慎重に尋ねた。
「……どちら様ですか」
「その声……もしや旦那様ですか!?」
「エリン!!」
私が反応すると共にレイノルト様は扉を開いた。そこには、専属侍女の一人であるエリンがいた。
「失礼します」
「エリン。何故ここに」
「順を追って報告いたします。本日エルノーチェ公爵邸に戻る予定だったのですが、その最中に発煙筒が見えまして」
「……そうか、それを便りに」
「はい。煙を追跡したところ、今度はリーンベルク大公城で見たことのある馬車がお屋敷に入って行くのが見えましたので、念のため確認をと思い、踏み入れた次第です」
エリンの顔を見ると、肩の力が抜けてしまった。
「ご苦労だった」
「はい」
「エリン……!」
「お嬢様、何故そのような格好を? あれ。よく見たら旦那様まで」
「話したいことがたくさんあるのだけど」
「全て聞かせてください」
頼もしい味方が一人増えた所で、私はエリンに事の経由説明した。
「……その刺客はいまどこに」
「リトス達が対処している」
「なるほど。とにかく、お嬢様にお怪我がないようで安心しました」
「ありがとう」
「エリン。また後でおつかいを頼むかもしれない」
「何なりとお申し付けください、旦那様」
三人で現状の確認をし終えると、手当てを終えたオルディオ殿下が戻ってきた。
「手当てをしていただきありがとうございます」
「いえ。ここから長期戦になるでしょうから、治療は必要不可欠ですよ」
「……そうですね」
オルディオ殿下は、申し訳なさそうな、けれどもどこかありがたそう笑みを浮かべていた。
オルディオ殿下にエリンの紹介を終えた所で、執事がお茶を持ってきてくれた。少しでも心を落ち着かせようとしていたが、どうしても視線は窓の外へと行ってしまった。
そして、私達が屋敷に到着してから二時間ほど経つと、屋敷の玄関扉がようやく開かれた。
「「「!!」」」
全員が扉に近付く中、リトスさんの朗らかな声が響いた。
「レイノルト、戻ったぞ」
「リトス……!」
リトスさんに駆け寄るレイノルト様。私も即座にフェリア様に駆け寄った。
「フェリア様!!」
「レティシア様」
「ご無事ですか!?」
「はい。お約束通り、一つも怪我をしていませんよ」
「良かった……」
全員の無事に心から安堵していると、玄関扉に立ったままリトスさんが報告をし始めた。
「レイノルト。実は無傷なのにも理由があって」
「理由?」
「あぁ。レイノルトと姫君のお知り合いに助けてもらってな。俺はよくわからんが話す機会が必要みたいだったから、そのままついてきてもらったんだ」
「知り合いって」
リトスさんとフェリア様が横にずれると、二人の後ろから知り合いと称された男性が現れた。
「ご無沙汰しております。リーンベルク大公殿下、レティシア嬢」
「!」
「フェルクス大公子!!」
予想外すぎる人物の登場に驚くが、声を漏らしたのは私達だけではなかった。
「リカルド……」
「やはりこちらにいらっしゃいましたか、殿下」
対面する二人の王族に、空気は静まり返ったのだった。
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