第320話 意外な繋がり(リトス視点)


 レイノルトに会えるとは思わなかったが、主君の危機とあらば力にならない理由がない。

しかし、まさかフェリア様まで巻き込んでしまうとは思わなかった。本人の強い希望で、一緒に囮をすることになってしまったのだった。




 突然現れた男性達のおかげもあり、どうにか無事フェリア様に怪我を負わせずに済むことができた。


(良かった……)


 安堵するのも束の間で、男性達と対峙することになった。


(……というか、リカルドと呼ばれていたよな)


 その名前は聞き覚えがあった。必死に記憶をたどりながら、彼の正体にたどり着こうとしていた。


「大変不躾な申し出なのですが」

「はい」

「良ければそちら、お譲りいただけないでしょうか」

「……」


 リカルドと呼ばれた青年が指す方を振り返れば、そこには先程縛り上げた刺客達が座り込んでいた。


(……この刺客が必要なのか。こちらとしては好都合だな)


 ただ一つ懸念点としては、信頼できる相手でないと後々レイノルトに不都合だと思ってしまった。


(リカルド…………確か、一度屋敷に来たことがあるよな?)


 と言うことは、彼もまたレイノルトの知り合いで間違いない。


(駄目だ。俺にはそれしか思い出せない)


 そこで思考を諦めると、口に出すことにした。


「譲ることに関しては問題ないのですが」

「はい」

「……おひとつお聞きしても?」

「何でしょうか」

「レイノルトーー帝国のリーンベルク大公殿下のご友人ですか?」

「「「……」」」


 その瞬間、場が静まり返ってしまった。すると、フェリア様がこそっと耳打ちをしてくれた。


「リ、リトス様! もう少し柔らかにお聞きした方が」

「あ。す、すみません。あまり遠回しに聞くとかは慣れてなくて。それに、先程の方ともお知り合いなのかな、と」

「そ、そうなんですか?」

「感覚の話ですが」

(……髪色がどことなく似ているんだよな)


 詳細は語らなかったものの、青年は答えを返してくれた。


「はい、リーンベルク大公殿下にはお会いしたことがあります」

「やはりそうですよね。屋敷に一度いらっしゃいましたよね? 詳細は忘れてしまったのですが」

「……失礼ながら、貴方は?」

「名乗りもせずに大変申し訳ございません。私、リトスと申します。フィルナリア帝国で商人をしている者です」


 急ぎ頭を下げながら挨拶をする。


「帝国の……」

「はい。なので正直、彼らの処理に困っていました。ですが、リーンベルク大公殿下と交流のある方ならある程度信頼できるなと」

「それは良かった。ここまで来たら身分を明かした方が良いですね」

「リカルド様」

「大丈夫だ、彼らは信用できる」


 青年の護衛が青年を守るように制した。


「ですが……失礼ですが、一介の商人に御身をさらすことは不利益の方が大きいかと」

「今の発言は聞かなかったことにするよ」

「リカルド様……!」

(参ったな……護衛の方の言うこともわかるんだよな。たとえレイノルトの右腕だと言っても、証拠がない)


 ここからの駆け引きには、この場にいる全員を納得させるために証拠が必要不可欠になる。どうしたものかとため息をついていれば、フェリア様は俺からそっと離れて背筋を伸ばした。


「リトス様が信頼できると述べるのなら、私もそれに同意します」

「フェリア様?」


 にこりと微笑んだフェリア様は、リカルド様の方に向き直して美しい淑女の礼をした。


「お初にお目にかかります。私はフェリア・ルナイユ。フィルナリア帝国ルナイユ公爵家長女にございます。今回は、レイノルト・リーンベルク大公殿下とその妻、レティシア・エルノーチェ様の囮になるために行動しておりました。証拠としては、このルナイユ公爵家も紋章入りのハンカチでも問題ないでしょうか?」

「!!」


 まさかそこまでフェリア様がされると思わなかったので、隣でその自己紹介に驚くものの、リカルド様はその紋章を見て即座に頭を下げた。そして、リカルド様の護衛達その反応見てすぐに膝をついた。


「……これは大変失礼いたしました。帝国の公女様にご挨拶を」

「いえ。名乗っておりませんでしたので」

「寛大なお心に感謝申し上げます。私はリカルド・フェルクスと申します。フェルクス大公家の一人息子であり、レティシア嬢の姉リリアンヌが私の婚約者です」

「そうなんですね……!」

「なるほど……」

(そう繋がるのか)


 意外な所で繋がったことに、謎の感動を覚えていた。


「それにしても、リーンベルク大公殿下が追われていた……彼らにですか」

「はい。逃がすために私達が囮を」


 リカルド様の問いに答えると、彼はそのまま何か考え込んでしまった。


「……答えられない内容でしたら聞き流してください」

「はい」

「追われていたのはお二人、ですか?」

「いえ。もう一人いました」

「なるほど……」


 答えるべきかそうでないかはわからないが、姫君のお姉様が関わって来る問題であれば、彼は無関係ではないはずだ。ここまで考えを整理してから、リカルド様に一つの提案をした。


「……あの。私は当事者ではないので正直詳しい話がわかりません。なので、よろしければ屋敷にいらっしゃいませんか? そこにならリカルド様が知りたいことが知れると思いますので」

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