第319話 囮大作戦
フェリア様と身につけていたかつらと服装を、お互いに交換する。
「ふふ、こういうことが初めてなので凄くワクワクしますね」
「どうかお怪我をしないでください」
「御心配には及びませんわ、レティシア様。私こう見えて、護身術はみにつけておりますの。それに……リトス様もいらっしゃいますから」
頬をほんのりと赤く染めながら、フェリア様は微笑んだ。
「フェリア様が幸せそうなのは凄く嬉しいのですが……」
「レティシア様。無傷でお戻りすると誓いますわ」
「フェリア様…………必ず、ですよ」
「えぇ、もちろん」
ぎゅっとフェリア様の両手を包み込むと、私はどうか無事であるように願うのだった。
先程の奥の部屋に戻れば、そこには黒髪に戻ったレイノルト様と、王族の証である青色の髪をしたオルディオ殿下待機していた。
(オルディオ殿下の髪は……随分透き通った青色だわ)
美しい髪色は、そのまま外を歩けば確実に視線を集めるものだった。
「リトス様。準備万端ですわ」
「フェリア様。必ず傍にいてくださいね」
「も、もちろんです」
緊迫した空気になりかねない状況なのに、リトスさんとフェリア様はどこか嬉しそうに見つめ合っていた。
「レイノルト。俺達が先に出て注意を引く。その間に馬車に乗り込んでくれ」
「あぁ、感謝する。どうか無事でいてくれ」
「任せろ」
頷き合うのを最後に、リトスさんとフェリア様、そしてオルディオ殿下の代わりである騎士一名がお店を出て行った。
「では私達も行きましょう」
レイノルト様に優しく手を引かれながら、私達は急いで馬車へと乗り込んだ。店主に見送られながら、私達は当初の目的地であるお屋敷に向かうのだった。
◆◆◆
〈フェリア視点〉
リトス様とこれ以上ないほどくっつきながら、私達はお店を出た。
「……何者かがついて来ております」
「良かった。引き寄せられたみたい」
大公殿下のご友人の代わりを務める護衛騎士が報告をしてくれた。
「フェリア様」
「‼」
ただでさえ近いのに、リトス様は更に腰に回した手に力を加えた。
「来ます」
護衛騎士の言う通り、つけていた者達は一通りが少なくなった瞬間、接触してきた。
「待て、トランの騎士」
「……人違いです」
「はっ。逃げ切ったとでも思ったのか。残念だったな」
本当に人違いなのだが、刺客達は入れ替わりに気が付かずに距離を詰めてきていた。
「本当に人違いなのですが」
そう言って護衛騎士が顔を上げれば、ようやく刺客達もトランの騎士でないことに気が付いた。
「!!」
「人違いでしょう。そこをどいていただけますか」
リトス様とやり取りを静観しながら、刺客の動きに注意を払っていた。
「だが格好が同じということは仲間だな。……トランの騎士はどこだ」
「どなたか存じ上げません」
「そのような嘘が通じると思うな……!」
「事実だけを述べていますが」
護衛騎士と話している刺客の中でも中心人物のような人は、段々と怒りが込み上げているようだった。
「……それなら呼び出す餌にするまでだ。やれっ!!」
その一言で、後ろで待機していた刺客達が護衛騎士に攻撃し始めた。
こうなることは予想していたので、護衛騎士もさっと動いて攻撃を躱し始めた。そして、遠距離で待機していた他の護衛騎士も応戦し始める。四人の刺客に三人の護衛騎士なので、互角に戦えていた。
「フェリア様っ」
リトス様は私を隠すように抱きしめた。私も思わず目を閉じてしまう。
「トランの騎士でないだと⁉」
他の護衛騎士はルナイユ公爵家の騎士団の格好をしていたため、刺客は動揺していた。
「ぐあっ‼」
しかしその声も途切れ、勝敗はついたようだった。リトス様は腕を緩めると、護衛騎士の方を見た。刺客達は護衛騎士達によって縛り上げられていた。
「……いかがいたしましょう。後始末は」
「国際問題にするわけにもいかないんだが……かといって放置も……失敗した。レイノルトにどうするか聞いておくべきだったな」
リトス様が苦笑するのを横で見上げたその時、頭上から刺客が来るのが見えた。
「リトス様‼」
「⁉」
突然のことに、今度は私がリトス様をかばうように抱きしめ返してしまった。
(ごめんなさい、レティシア様――!)
ぎゅっと目をつむるものの、攻撃されることはなかった。
「……?」
護衛騎士が守ってくれたのかと恐る恐る顔を上げれば、そこには見知らぬ格好の男性が二人刺客を仕留めていた。
一瞬にして刺客は気を失っており、男達によって担がれていた。すると、彼らの背後からさらに一人の男性が姿を現した。その男性のみ服装が違い、どこか高貴さを漂わせた。
「捕らえたか?」
「はい、リカルド様」
(……リカルド? どこかで聞いた気が)
不安が増す中で、リトス様が心配そうに私の方を向いた。
「フェリア様! お怪我は!」
「あ、ありません。平気ですわ」
「……良かった」
安堵から少し崩れ落ちて顔を下げるリトス様だったが、すぐに立ち上がって後からやって来た刺客達の方を向く。
「危険な所をお助けいただき誠にありがとうございます」
「あぁ、いえ。お怪我がなくてよかったです」
にこりと微笑む青年は、私達の背後を見てリトス様に尋ねた。
「追われていたのですか?」
「あぁ……少し事情がありまして」
「そうですか……」
その言葉を最後に、場には沈黙が流れるのだった。
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