第322話 紐解かれる関係




 ひとまず全員を屋敷の中へ迎え入れると、オルディオ殿下は真っ先に口を開いた。


「……リカルド。君と話がしたい」

「私もそのつもりで参りました」

「では、奥の部屋へ」


 レイノルト様が案内始めようとすれば、オルディオ殿下は私の方を向いた。


「……レティシア嬢。そしてリーンベルク大公殿下。貴方達にも協力者として立ち合っていただきたい。リカルド、構わないだろうか」

「もちろんです」


 立ち合う役目をもらった私達は、四人で奥の部屋へと向かうことにした。リトスさんとフェリア様にもう一度感謝を告げ、ゆっくり休んでほしい旨を伝えた。


(……フェリア様の今の格好では休まらないわよね)

 

 そう判断すると、フェリア様とお互いに着替えることにした。エリンに手伝ってもらいながらフェリア様と服を再び交換すると、私は立ち合いの場へ急いだ。


「お待たせしてしまい申し訳ありません」


 頭を下げれば、二人の王族はそれぞれ会釈をしてくれた。レイノルト様はいつも通り微笑みを浮かべてくれた。


 フェルクス大公子とオルディオ殿下が向き合って座っており、二人に隣り合うようにレイノルト様が座っていた。


 私はレイノルト様の真向かいに座った。空気はどこか重いものだが、苦しさまでは感じなかった。


「……すまない。何から話して良いかわからなくて」

「お気になさらず。私も悩んでいたところです」


 どちらも少しだけ気まずさをまといながらも、言葉を模索しているようだった。


「……すまない。私は貴族ではなく騎士として生きてきた故に、腹の探り合いのような遠回しの言い方はできそうにない」

「…………」

「だから直球に言わせてもらう」


 オルディオ殿下の言いたいことはわかる。肩書きは王族であれど、自分は騎士だという主張。これはフェルクス大公子と話す上で必要不可欠なものだろう。


 何せ、フェルクス大公子は探り合うことを多くしてきたであろう人だから。それはオルディオ殿下の目からみても明らかだったことだろう。


「リカルド。私は王位を継ぐ気はさらさらない。これからも騎士として生き続けるつもりだ」

「……それは」

「今の状況、信じられないのもわかる。ただ、私にその意思が皆無であることを知って欲しい」


 そこからはオルディオ殿下が順を追って説明する時間だった。私達に話した経緯を簡略したものを伝えた。


「……だから、今シグノアス公爵邸に存在している第二王子は私ではないんだ」


 ぐっと手に力を入れるオルディオ殿下の表情は、あくまでも冷静を装うものだった。


「…………」

「ここまで話した上で、リカルド。君と交渉したい」

「…………お聞かせ願います」

「私はもう一度王位継承を放棄することを宣言する。……ただ、今の状況だと懸念がある。影武者とはいえ、イノは私の家族なんだ。彼の無事が確認できぬままでは動くことかできない」


 そこから先は、先程私達に語った内容と同じだった。放棄宣言の条件としては、シグノアス公爵の追い込める材料を揃えることと、イノさんを守れること。


「……なるほど」


 少しの沈黙の後、フェルクス大公子は他人事告げて顔を上げた。


「やはり、話は本人に聞くに限りますね」

「……」

「このような状況ができたとなれば、オルディオ殿下が王位を狙うと判断するのが普通ですから。……私もその一人です。ですので安心しました。継ぐご意志がないことがわかって」


 ふっと微笑むフェルクス大公子は、心底安堵しているように見えた。


「すまない、もっと早く伝えるべきだったんだ」

「いえ、ご事情があられたでしょう。今聞けただけで十分ですよ」


 さすがはフェルクス大公子。視野が広く、相手の事情まで汲み取る姿は素晴らしい。


「…………」

「…………?」


 フェルクス大公子が笑みを浮かべるのに対して、オルディオ殿下はどこか居心地の悪そうな顔になっていた。


「……リカルド。その、私にかしこまらないでくれるか」

「それは」

「私は王族だが騎士だ。それに貴方の方が年齢が上だろう」

「おや。年齢を引き合いに出されるとは悲しいですね」

「!!」


 どこか悲しげな、でも楽しそうな声色のフェルクス大公子。それに対してオルディオ殿下は目を見開いた。


「か、悲しいなんて……リカルド、気にするな。君はまだ若い」

「……ははっ。相変わらずご冗談が通じないようで」

「じょ、冗談……?」

「お気になさらないでください。それがオルディオ殿下、貴方の良さですから」

「……理由はわからんが礼を伝える」


 二人の様子は、どんどんと打ち解けているように思えた。


「私のわがままなら流してくれ。……その。昔はこんなに堅苦しくなかったから」

「……昔、ですか」


 オルディオ殿下の言葉にはどこか寂しさも含まれている気がした。その言葉を受け取ったフェルクス大公子は、軽くふっと笑った。


「僕の配慮が足りなかったかな」

「!」

「……一つ、言わせて欲しい」

「な、何だろうか」


 柔らかくなった雰囲気のフェルクス大公子は、今度は安堵するように微笑んだ。


「オルディオ……君が無事で本当に良かった」

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