第279話 屋敷に関する権利


 更新を止めてしまい大変申し訳ございませんでした。本日より再開いたします。よろしくお願いいたします。


▽▼▽▼


 エルノーチェ公爵家に到着した。


「ここが、お嬢様のご実家……!!」


 そう呟くのは今回専属護衛として同行することになったエリン。エリンにとって初めての遠出であり、外国であるからか、とても気分が上がっているように見えた。


 その様子を微笑ましく眺めながら、自分も久しぶりに目にしたエルノーチェ邸を観察する。


 そこには、私が最後に見た穏やかな雰囲気の屋敷は消え去り、異常とも思えるほどの数の騎士が屋敷を取り囲んでいた。


(…………嫌な雰囲気)


 決して好ましくない雰囲気を肌で感じながら、屋敷の門へと近付いた。というのも、どんな馬車であろうとも中へ入れることはできないと止められたのだ。


 何の権限あってか知らないが、私の慣れ親しんだ大好きな実家が何者かの手によって故意に変えられているのは明らかだった。


 まずはレイノルト様が様子を見に馬車を下りた。私は代わりに乗り込んできたエリンと共に耳を澄ませた。


「エルノーチェ公爵家はただいま訪問を受け付けておりません」

「それはどなたの指示でしょう?」

「お答えする義務はございません」


 以前まではいなかった門番が二名おり、その内の一人に中に入れるようにまずは交渉することになった。


「何故それを貴方が勝手に決めるのでしょうか」

「部外者となる御方にお答えすることはできません」


 その様子を見ながらも、私の怒りは沸々と沸き起こってきていた。


 部外者と言われたレイノルト様は、自身の身分を明かすことにした。


「名乗りもせずに失礼いたしました。フィルナリア帝国から参りました、レイノルト・リーンベルクと申します」

「……帝国の大公殿下でいらっしゃいましたか」

「はい」

「お会いできて光栄です」


 名を明かせば通してもらえる、その見通しは甘かったようで、門番の騎士は微動だにしなかった。すると、門の中である屋敷側から何やら人影がこちらに向かってきていた。


「また事情を知らぬ部外者が来たのか」

「隊長」

(隊長…………)


 その呼び方に反応したが、現れた隊長とやらは私の知る人ではなかった。


(モルトン卿じゃない)


 威圧的な雰囲気を見せる男性に対して、改めてレイノルト様が挨拶をするが、先程の騎士と同様挨拶を交わすだけで中に入れてくれる気配はまるでなかった。


「大変申し訳ございません。帝国の大公殿下であろうとも、許可無しには通すことができません」

「……許可」

「はい」 


 許可と述べた隊長は、多くまでは語らなかった。


「…………」


 そこまでやり取りを見て、私は自ら動くことにした。


「お嬢様」

「行ってくるわ」

「……お気をつけて」

「えぇ」


 すっと馬車から下りると、レイノルト様が察したように一歩後ろに下がった。


「……ふぅ。今度はどちら様でしょうか」


 小さく吐かれた息は、嫌々相手をするという気持ちが丸見えだった。


 その様子にあきれと怒りを感じながら、私は隊長である男を鋭い目線で見ながら答えた。


「貴方から名乗るのが筋ではないでしょうか」

「はい?」


 理解できないという表情でこちらを見下す様子へと変わった。


「ご令嬢、状況がわかりませんか? そして先程までの話を聞いていたでしょう。残念ながら現在エルノーチェ公爵家では部外者の立ち入りを禁止しております」


 そこまで言い放つ男は、私のことを何一つ知らない様子だった。


「……貴方がどなたか、私は存じ上げません」

「当然でしょう。初対面ですから」

「私からすれば、貴方の方が部外者です」

「何を言って……」

「私が……エルノーチェ公爵家の人間である私が、どこの誰ともわからぬ輩に実家の出入りを止められる理由はないはずです」

「!!」


 驚きの表情を浮かべる男に、畳み掛けるように声を出した。


「エルノーチェ公爵家にとっての部外者は貴方達の方です。三名、そこを退きなさい」

「「…………」」


 困惑した様子で顔を合わせる門番二人と、顔をひきつらせる隊長一名。怒りを抑えつつも、圧をかけるように告げれば彼らは黙り込んでしまった。


 沈黙が流れるなか、さっと肩に触れながらレイノルト様は笑顔で淡々と彼らに告げた。


「私の婚約者であり、エルノーチェ公爵家四女であるレティシアが仰っている言葉は至極全うだと思いますよ。それとも、ここ数日で勝手に警備だと現れた貴方達の方が、エルノーチェ公爵家を名乗るのにふさわしいとでも言うのでしょうか?」

「!!」


 私が三名を睨み付けるすぐ後ろから、レイノルト様も冷たく鋭い視線で圧をかけ始めた。


 すると、焦り始めた隊長がようやく返事をした。


「し、しばちお待ちください。許可を」

「許可? 何故自分の家に入るのに許可が必要なのですか」

「そ、それは」

「たとえセシティスタ王国の国王であろうと、私がこの屋敷に出入りすることを止めることはできないはずです。そんな法律は存在しませんから」

「ーーっ」

 

 ここまで言っても、彼らは退こうとしなかった。その上門をあける気配もない。


「……はぁ」


 私はため息をつくと、レイノルト様に心の中であることをお願いした。そして、すぐさま彼は馬車へと動いてくれた。


 私もそれと同時に、門の端へと移動する。


「門を開けていただけないことがわかりました。ただ、そこはお退きになったほうがよろしいですよ?」

「どういう意味です?」

「そのままの意味です」


 後ろを振り向けば、気付けば馬車が少し離れた場所まで移動していた。


「わからないようなので、もう一度言います。ここはエルノーチェ公爵家です。私の家であって、貴方達の家ではありません」

「ですから許可をーー」

「誰からもらうかわからない、意味のない許可など不要です」


 許可という名の報告であることはすぐにわかっていた。だからその隙を与える前に、私は行動に出た。


「ここは私の家ですから。私が出入りするのは自由です。そして」


 にこりと笑顔を浮かべてから続けた。


「門を壊すのも、私の自由です」

 

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