第280話 体当たりの突破
遅れてしまい申し訳ありません。昨日分となります。よろしくお願いいたします。
▽▼▽▼
その瞬間、私の横を馬車が駆け抜けていく。
驚いた門番達は、それぞれ馬車に当たらないように逃げていった。
バァンッ!!!!
馬車は門に突っ込むことに成功し、見事開いたのであった。唖然とする門番達を放って、私は急ぎ馬車に近付く。
「ご無事ですか?」
「えぇ。うちの馬車は頑丈ですから」
「良かった……無理な願いをを叶えてくださりありがとうございます」
「面白い突破口だと思いましたから」
そう言いながら、二人馬へと近付いた。
「馬も頑丈ですが、無理をさせましたね」
「壊してくれてありがとう」
二頭の馬へそれぞれ感謝を伝えていく。それを終えて御者の席を見れば、そこにはエリンがいた。
「凄く貴重な経験をさせていただきました、お嬢様」
「エリン! 怪我はない?」
「かすり傷もございません」
本来の御者は馬車の中に避難しており、少し青ざめた顔で笑みを作っていた。彼にも怪我がないか尋ねれば、一切ないと返ってきた。
「少し馬車の整理をして参ります」
そう言うと、御者とエリンは屋敷の入り口から少し離れた場所に馬車を移動させた。私達は屋敷の入り口から未だ動かずにいた。
壊した門を改めて眺めていると、屋敷の扉が開かれ大きな声が飛んできた。
「何の騒ぎだ!!」
こちらに向かいながら状況把握をする声は、懐かしいものだった。
「ご無沙汰しております、お兄様」
「レティシア!」
素早くこちらに駆け寄ると、レイノルト様の存在にも気付きお互いに挨拶を済ます。
「まさか来ていたとは……こんなことを言うのもおかしな話だが、よく入れたな」
「あぁ……」
門番の事情をよく知るカルセインからすれば、門の中に私達がいることは不思議な光景だったかもしれない。
それを察して、門の方へ視線を向けながら謝罪をした。
「申し訳ありません、お兄様。なかなか入れていただけなかったので、物理的な解決をしてしまいました」
「…………」
壊れた門を見ながら、ぱちくりと目を二回ほど閉じるカルセイン。今起こっている状況への理解はすぐにできるほど単純なものではなかった。
辺りを見回してから把握すると、カルセインは突然笑い始めた。
「ぷっ、あははっ!」
面白おかしそうに笑うカルセインを見れば、怒っていないことは明らかだった。
「そうか、門を壊したのか。これは傑作だな」
「後できちんと直しますね」
「いや、いい。当分はこのままにしておこう。門が壊れていれば、門番などという頼んでもない輩の役割は消えるだろう」
「屋敷の扉の前に張り付くかもしれませんよ?」
「それなら、先にうちの使用人をつかせるさ」
「なるほど」
兄弟の久しぶりの会話をしたところで、私は屋敷の中に入れるかを尋ねた。
「もちろん入れる。レティシアも、レイノルト様も」
「良かった」
「レイノルト様、レティシアを連れてきてくださりありがとうございます」
「妻の願いを叶えるのが私の役目ですから」
笑顔でそう答えるレイノルト様に、カルセインはキョトンとした顔になる。そして、私の方にそっと耳打ちした。
「……もう結婚したのか」
「まだです」
「……なるほど」
何かに納得したように頷くと、私とレイノルト様を屋敷の中へと入れようとした。
「お待ちください、カルセイン様!!」
「…………何だ」
その瞬間、先程逃げたはずの隊長と呼ばれた男がいつの間にかこちらに向かってきていた。そして、私達が屋敷に入るのを止めようとする。
「許可を無しに屋敷の中に部外者を入れることは、固く禁じられております!」
「その許可とやらは誰のだ?」
私達にも何度も言った言葉を、今度は家主であるカルセインに告げた。それに苛立ちを隠さずに、冷ややかな眼差しで答えるカルセイン。
「それは」
「お前達を配備した第二王子のことだろう? 笑わせるな。この家の家主は第二王子ではない。私だ。私の屋敷の中に誰を入れて誰を入れないかは、私が決めることだ。お前達にとやかく言われる筋合いはない」
「カルセイン様!!」
門番が第二王子の仕業だと確たる話が出てくると、私の中で第二王子の印象が下がっていった。
「それと、お前達は自分のことを心配した方がいい」
「そ、それはどういう」
「門番、だったか? 残念だな。お前達が守るべき門はもうない。お役目ご苦労だった」
「!!」
「では」
「カ、カルセイン様!!」
そのやり取りをする間に、私とレイノルト様をさっと屋敷の中に入れ、隊長との会話を終わらせた。
「屋敷の扉の横に、使用人を配備してくれ」
「かしこまりました」
カルセインが執事長にそう伝えた瞬間、またも聞き覚えのある声がした。
「カルセイン様、その役目我が第三隊にお任せください」
「モルトン卿……!」
「ご無沙汰しております、レティシアお嬢様、大公殿下」
レイノルト様と二人、軽く会釈をした。
「よいのですか」
「もちろんです。我が騎士団が起こしている面倒ごとに、エルノーチェ家の使用人を割くわけにはいきません」
「ありがとうございます」
二人のやり取りから、モルトン卿は変わらずに味方なのだと感じることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます