第三部 結婚編
第275話 新たな問題
第三部開始です!よろしくお願いします。
▽▼▽▼
帝国に来てから半年が経った。
今日はというと、ご縁があって帝国の新聞社の方から取材を受けていた。内容は緑茶に関して。
良い宣伝にもなると思ったので、レイノルト様とリトスさんと話し合った結果応じることにしたのだった。
「それにしても大公妃様はどのようにこの新作を思い付かれたのですか?」
「私は王国の出身で、紅茶をよく飲んでおりましたので。甘味のある緑茶があると良いのではないかと思ったことがきっかけです」
「素晴らしいですね」
記者である女性は緑茶をよく飲む方のようで、興味津々に話を広げてくれた。私の好みやおすすめの緑茶を事細かに話していく。
「なるほど……大公妃様は本当に緑茶がお好きなんですね」
「はい」
(……大公妃)
取材開始から気になっていた呼び方。私はまだ婚約者の身であり、大公妃になったわけではなかったので、かなり恥ずかしさがあった。
(訂正……でも、レイノルト様とこの肩書きを頼ると約束したばかりだからな……)
迷った結果、訂正するのをやめることにした。
「最後に抽象的なご質問をよろしいでしょうか?」
「はい」
「大公妃様にとって、緑茶とはなんでしょうか」
「……」
(これはまた、かなり抽象的ね……)
反射的に答えられるような質問ではなかったので、少し考え込んだ。それを記者の方もわかっていたので静かに待ってくれた。
「……なくてはならないもの、でしょうか」
「なくてはならないもの」
「はい。実はレイノルト様……大公殿下とお会いしたきっけかけも緑茶なのでーー」
緑茶を通した経験を話し始めようとした瞬間、記者の方は勢いよく身をのりだした。
「その話! 詳しくお聞かせ願えますか!?」
「え」
「今や社交界では誰もが憧れる大公妃様。そして大公夫妻となります」
「ふ、夫妻。まだ夫妻じゃ」
「その馴れ初めを! 是非わが社の記事に書かせてください!!」
「な、馴れ初め」
「是非!!」
(ど、どうしよう……)
結局、私は熱意にやられてぽつぽつと馴れ初めを語ることになった。緑茶に関して。そう聞いていたはずなのに、大半の時間を馴れ初めに割いていた気がする。
その話を最後に、記者の方は嬉しそうに帰っていった。
取材が終わると、私はソファーに上半身だけぐったりと倒れ込んだ。
「お疲れ様です、お嬢様。いえ、奥様」
「シェイラ! ま、まだ奥様では……!」
「これは失礼いたしました。記者の方を咎めなかったので、受け入れているとばかり」
「ち、違うわ……まだ婚約者よ」
「ですがいいですよね、奥様って」
「エリンまで……」
現在の肩書きから反射的に否定をするのだが、内心ではどこかその呼び方を受け入れているとばかり自分もいた。
「……とにかく。まだ公爵令嬢よ、大公妃ではないわ」
「かしこまりました」
「わかりました」
一礼するシェイラと、笑顔で頷くエリン。二人の反応を見ながら、ふうっと息を吐いた。
「そういえばシェイラ。手紙が届いていたのよね?」
「はい。今朝方セシティスタ王国、エルノーチェ公爵家から手紙が届いております」
「読むわ。持ってきてくれる?」
「もちろんです」
久しぶりに届いた実家からの手紙。シェイラから受け取ると、早速送り主を確認してから封を開けた。
「カルセインお兄様から……?」
てっきりベアトリスかリリアンヌの、どちらかからだと思っていたので、不思議に思いながら便箋を取り出した。
『レティシアへ
元気にしているか。ベアトリス姉様、リリアンヌ、そしてラナと共に我が家は変わり無い。そのはずだったんだ。最近になって、予想外の問題が起こってる。そのせいで、ベアトリス姉様とリリアンヌの仲が壊れそうになっているんだ。どうか助けてくれないか。』
近況を知らせる手紙は、あまり良い雰囲気のものではなかった。
「お姉様達が……?」
不安になりながらも手紙を読み進める。
『予想外の問題というのが、王位継承に関わる大問題になっている。今は限られた者しか知らない状況だが、この事態が落ち着くまで二人の仲も戻る可能性が低い。俺自身も行動範囲が定められている。だからどうか、二人の架け橋になってくれないか』
さらに雲行きが怪しくなるのを感じた。
だが、読んでいてあまりピンと来なかった。あの仲良しな姉二人が、まさか不仲だなんて。到底想像できなかったのだ。その上、その問題がセシティスタ王国の王位継承に関わってるだなんて。
(フェルクス大公子で、次期国王は決まったはずなのに)
これまでにない大きな不安を抱えながら、二枚目の便箋を読む。
『問題の詳細というのが、今になって第二王子が王位継承権を主張し始めたこと』
そこまで読んで、今度は疑問符が浮かぶ。
(でも……第二王子は継承権を早々に放棄して騎士になられたはずじゃ)
理解が追い付かないまま、最後にはさらに混乱を招く言葉が記されていた。
「その第二王子が、ベアトリスお姉様を婚約者に挙げている……?」
衝撃的な文章は、私の思考を停止させた。
少し経っても、理解できたのは王国に問題が起こっていること、そして家族にもその問題が密接に関わっていることだけだった。
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