第273話 彼女が築いたもの
無事エリンにお礼を渡すことができた。その後、フェリア様達と女子会をやり直すことができた。恋愛模様の進捗は、問題なさそうだった。
その翌日、私は久しぶりに社交界に顔を出すことになった。マティルダの一件以来、初の夜会参加である。
「緊張していますか?」
「そうですね……少し」
馬車の中で、不安そうな表情のレイノルト様が優しく手を握ってくれる。それでも緊張は消えずに残ってしまっていた。思えば大公城で主催されたもの以外である、他家主催のパーティーは初めての参加だった。
「今回は主催に挨拶をしたらすぐに帰りましょう」
「……ありがとうございます、レイノルト様」
マティルダの事件から一ヶ月以上経過したとはいえ、社交界からすれば興味津々の話題であることは間違いなかった。
今回のパーティーは、レイノルト様が古くからお世話になっている方が主催のもの。最初はお一人で参加されると聞いていたのだが、婚約者としての務めを果たすべきだと考えた私が、共に行くことを提案したのだった。
「ですが大丈夫だと思います。……今ではもう、すっかり心強い友人も増えましたから」
「それは良かった。それでも、レティシアが限界だと判断したらすぐに帰りましょう。無理をする必要はありませんからね」
「わかりました」
レイノルト様の手を握り返して手を繋ぐと、ようやく安心できた気がした。そしてそのタイミングで、会場へ到着した。
「まぁ、見て。リーンベルク大公殿下よ」
「珍しい。滅多に最近は滅多に社交場に顔を出さなかったのにな」
「お隣は確か婚約者様よね? お綺麗だわ……」
馬車から降りた瞬間から注目を集めてしまう。ただ、嫌な視線というものは全く感じることなく、単純に私達が現れたことに対する驚きの視線がほとんどだった。
「行きましょうか」
「はい」
(良かった……)
想像よりも温かい雰囲気で、警戒する必要がないことに気が付いた。
会場に入ると、すぐさまレイノルト様と共に主催の方に挨拶を行った。無事済ませると、会場内を少し歩いた。
「…………レイノルト様」
「?」
「な、なんだか視線を感じます」
「……確かにそうですね」
その視線というのは、決して悪意のこもったものではないのだが、意図がわからずに混乱していた。
(……好奇の目、なのかしら)
不安から少し俯いてしまうが、レイノルト様は小さく声を出して笑った。
「ははっ」
「……レイノルト様?」
その笑いに反応して顔を上げれば、穏やかな微笑みで真実を教えてくれた。
「レティシア、怖がらなくて大丈夫ですよ。視線の持ち主は、皆レティシアとお話ししたいようですから」
「え……?」
「ほとんどご令嬢からの視線ですね。さすがレティシア。人気者ですね」
「え……に、人気者?」
レイノルト様が嘘をつく理由が無いのは明らかなのだが、想像もしなかった事態にますます混乱してしまった。
「残りは人様の婚約者に視線を送る、不届きな者達ですかね。これは気にしなくていいかと。……何かあれば私が対処しますから」
「あ、ありがとうございます」
少し物騒なことも聞こえたが、私の内心は嬉しさで染まっていた。そんな中、シエナ様とグレース様が二人揃っているのが見えた。
「お話ししてきますか?」
「いいんですか?」
「もちろんです」
「で、では……」
レイノルト様に近くまで送り届けてもらうと、後程迎えに来てくれることを約束してから、シエナ様達の元へと向かった。
「レティシア様! お元気でしたか?」
「すっかり元に戻りました。お二人もお変わりはありませんか?」
「はい!」
「いつも通り元気です」
グレース様の屈託の無い笑顔から、ますます心が楽になっていく。
「フェリア様は本日いらっしゃらないようで」
「そうなんですね」
「残念ですが、また皆様で集まりましょう」
シエナ様の提案に、グレース様と二人頷いた。
「それにしても……さすがレティシア様。人気が高いですね」
周囲の視線に気付いている様子のシエナ様は、キョロキョロと辺りを見渡しながら告げた。
「何故こうなっているのかわからなくて」
「まぁ! それはもちろん。レティシア様とお話ししたいからに決まっていますわ」
「そう、なのですか?」
グレース様が間髪いれずに、素早く答えてくれた。
「そうですよ! 今やレティシア様といったらご令嬢方の憧れの的ですもの」
「あ、憧れ……?」
「はい! 他国ご出身であるにもかかわらず、帝国の知識は豊富で。その上、それを気取らずに美しく振る舞う姿は好感しかありません。極め付きはマティルダ様に、不利な状況でも負けず立ち向かわれたお姿から、勇気を与えられたご令嬢は多いものかと」
グレース様の言葉を理解しようとするには、少し時間が必要だった。その間にも、シエナ様が追加情報をくれる。
「最近ではご婦人方からも聞かれるんです。今日はレティシア様はいらっしゃらないのかと。皆様レティシア様と交流を持ちたくて仕方ないのですわ。何せ、魅力溢れるお方ですから」
「み、魅力」
パチパチとまばたきをしてから、改めて集めている視線をたどれば、そこには目を輝かせるご令嬢達の姿があるのだった。
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