第272話 生い立ちをたどって
更新を止めてしまい大変申し訳ございません。
本日もう一度更新いたしますので、何卒よろしくお願いいたします。
▽▼▽▼
さすがは大公の情報屋を務めるだけあって、リトスさんから情報をもらうのはあっという間だった。
「ありがとうございます!」
「お役に立てて何よりです」
「こんなに迅速に対応していただけて、感謝の気持ちでいっぱいです」
「姫君にお世話になっているのは俺の方ですから。それに、今回は正直幸運でした」
「幸運?」
キョトンとした顔で尋ねれば、リトスさんは情報捜索の裏側を細かく丁寧に教えてくれた。その真実を手に、私はエリンの元へと向かうのだった。
シェイラが気を利かせて、他の仕事にあたってくれたため、部屋の中にはエリンと二人きりになっていた。
「エリン、座ってくれる?」
「ですが業務中で」
「では今は休憩ということにしましょう。……どうかしら?」
少々強引ではあるものの、何とか話に持っていこうと理由をつけた。
「……お嬢様がそう仰るのなら」
困惑の表情を浮かばせながらも、優しい笑顔のまま席に着いてくれた。
「この前も言った恩返しなのだけど」
「お嬢様。あの一件は私の仕事ですから」
「わかっているわ。だから負担にならないようなお礼を考えて、勝手ながらに用意をさせてもらったの」
このやり取り自体初めてではないため、なるべく鬱陶しくならないように、短く思いを告げていく。
「……具体的にお聞きしても?」
「一言でいうと、情報。……お礼になるかわからないけど」
そう言いながら、そっと紙を取り出した。
「……紙?」
「エリン、もうすぐ誕生日でしょ? ……でもその日付は、本当のものではない」
「……そうです」
「エリンなら……本当の誕生日を知りたいと思っているのではないかと考えたの。もちろん、余計なお世話だとは思うわ。でもこれなら、情報という形でエリンに負担なく渡せる物だと思って」
「…………調べてくださったんですか?」
「リトスさんがね」
「!」
その驚く瞳の奥には、微かな喜びの色が浮かび上がっているように見えた。その反応を見て、私はほっと胸を撫で下ろした。
「……ここに記されているのが、エリンの本当の出生記録」
「いいん、ですか? 見ても……」
「もちろんよ」
震えながらその手を伸ばし、報告書に目を通した。
「……!!」
報告書には、事細かにエリンの生まれてから間もない情報から、誕生日と出生地までもが記されていた。
エリン。
彼女は生まれて間もない時に孤児院に引き取られた。エリンを生んだ母親は、元々体の弱い女性だった。出で立ちから平民であることが予想され、父親の消息は不明となっている。
体が弱くとも、エリンを生むと決意した母親は、奇跡的にエリンを授かった。しかし、自分の体調が限界を迎えていることをわかっていた。長くないと悟った母親は、最後の力を振り絞って、涙ながらに別れたという。
この事実を知る孤児院の職員は、エリンを引き取ってすぐに退職してしまったらしい。引き継ぎが上手く行かなかったこともあり、エリンは自分のことを知る機会がなかった。
「……私、お嬢様より年上だったんですね」
「……みたいね」
本当のエリンは、十六歳ではく十九歳ということが判明した。年下と思って接していた分、気まずさが生まれるものの、それよりも真実がエリンの元へ渡ったことへの嬉しさの方が大きかった。
「……なんだか、本当のことを知るって不思議なことですね」
どうしていいかわからない様子のエリンだが、間違いなく喜びの感情が顔に表れていた。その様子を微笑ましく眺める。
「……でも、凄く凄く嬉しくて。今まで自分でもわからなかったこと、自分で適当につけた情報よりも、この真実の方が親しみを感じるんです。思い上がりかもしれませんが」
かつてないほど、饒舌に早口で喋るエリンは興奮を押さえられないようだった。
「思い上がりなどではないわ。エリン、それが貴女なのだから」
「お嬢様……本当に、本当にありがとうございます。こんなに素敵すぎるお礼、身に余る喜びです」
涙を浮かばせながら、くしゃりとエリンは笑顔になった。
「今回は私よりもリトスさんのおかげだから」
「それでも最初に動いてくださったのはお嬢様です。……もちろん後でリトス様にも感謝をお伝えしに行きますが」
「えぇ。そうね」
報告書を一通り読んだエリンに、手紙を取り出した。
「エリン、これ」
「なんですか、この手紙」
この手紙こそが、リトスさんのいう幸運を運んできたものだった。
「エリンのお母様からの手紙よ。孤児院に大切に保管されてたみたいなの」
「!!」
これが、引き継ぎが上手く行かなかったという理由。リトスさん曰く、この手紙があったからこそ、多くのことを調べることができたという。
「……読んでも?」
「もちろんよ」
そこにはエリンのお母様は、決してエリンを捨てたわけではないこと、育ててあげれなかったことへの謝罪が込められていた。それでも生きてほしいと願ったことまでも、何枚もの手紙に記されていた。
エリンが涙を流すまでに時間はかからず、彼女は大切そうに何度も手紙を読んでいるのだった。
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