第263話 待ちに待った日(リトス視点)
今日は待ちに待ったフェリア様とお会いする日。
この日が楽しみで楽しみで仕方がなかったからか、あまり眠ることができなかった。日が昇る頃には目が冴えてしまって、もう一度寝るという選択肢はなかった。
(……今日はフェリア様に会える日だ)
睡眠不足でもその喜びは、はっきりと自分の中にあった。笑みを浮かべながら準備を始めたが、服装は悩みに悩んでしまった。
(……このままじゃ駄目だ。不本意だがレイノルトに助言をもらおう)
そう決意すると、迷惑にならない時間帯を目指して大公城を目指した。
「リトスだ、入るぞレイノルト」
いつも通り書斎に入ると、そこには姫君もいた。
「ごきげんよう、リトスさんーー」
笑顔で迎え入れてくれたと思った姫君は、顔を見た瞬間ピタリと固まってしまった。
「リ、リトスさん……」
「リトス、お前……」
「ん? どうしたんだ二人して」
気が付けば姫君だけでなく、レイノルトまで怪訝な顔をしていた。
「酷いくまだぞ」
「酷いくまですよ」
「えっ」
二人の言葉に驚きながら、書斎にある鏡で急ぎ顔をじっくりと見る。
「本当だ……」
(さっき洋服を選ぼうとした時は、こんな酷くない気がしたんだが)
どうやら朝から頭が回っていないようで、鏡の前に立ってじっくり見た時初めて自分の顔が酷いことがわかった。
「リトス、確か今日は重要な日じゃないのか?」
「あぁ、ルナイユ様と出掛ける日なんだ」
「とても大切な日じゃありませんか! ……待っていてください。少し部屋からお化粧道具を取って参りますから」
「え? あ、あぁ。ありがとう姫君」
姫君の言葉が一瞬理解できずに、なんとか反応をした。レイノルトの方に目線を向けると、珍しく変な顔をしている。
「リトス……眠れなかったのか」
「なんだ、心配してくれてるのか?」
「するだろう。楽しみで眠れない気持ちはわかるが、体調に影響する」
「あはは」
「現に頭がかなり回ってないみたいだからな」
「大丈夫だよ」
反射的に笑いながら返すと、レイノルトは小さくため息をついた。
「それで。どうしたんだ、今日は」
「あぁ、どの服を着れば良いかわからなくてな」
「それでそんなに服を持ってきたのか」
悩みに悩んで厳選した服を三種類並べると、レイノルトにどれがいいか尋ねた。
「……大丈夫じゃなさそうだな」
「え?」
「リトス、今日どこに行くんだ」
「どこって……帝都だけど」
「これ全部、完全に社交界用の服だろう」
「あ」
「……少し待ってろ。帝都に着て行ける服を持ってくるから」
「あ、ありがとうレイノルト」
割と自信満々に持ってきた服の中から選んでもらう予定が、まさかの場所にそぐわない選択であることが発覚した。
その事実に驚きながら、段々と自分が朝から普段の調子と違うことに気が付いた。
「持ってきました! あら、レイノルト様は?」
「俺のために服を取りに行ってくれたんだ」
「そうなんですね」
姫君は何やら小さな鞄のような、箱のようなものを持ってきた。
「それがお化粧道具?」
「はい。ありったけのものを持ってきました。リトスさん、とにかくそのくまは隠しましょう」
「くまって隠せるのか……?」
「何とかします。任せてください」
「ありがとう姫君……」
姫君曰く、念のため化粧は着替えが終わってからということで、レイノルトを待つことにした。思ったよりもレイノルトは早く、服を一着手にして戻ってきた。
「これを着ろ。自分には似合わないと思って袖を通してないやつだから」
「そうなのか。ありがとう、必ず返すから」
「いやいい。この際だ、贈るよ」
「レ、レイノルトが優しい」
「ふふっ」
あきれたように、でも笑いながら服を渡してくれた。着替えると、想像以上にセンスのあるカッコいい服に驚いた。
「おぉ……」
「似合ってますよ、リトスさん」
「レイノルト、この感謝は忘れない」
「あぁ」
そして急ぎ座ると、姫君によるくま隠しが始まった。その間レイノルトには物凄い怖い笑顔を向けられたが、何とか俺は平静を保っていた。
「完成です。どうですか、レイノルト様」
「さすがレティシアです。完璧かと」
「良かった」
俺に鏡を見せる間に、客観的な評価をレイノルトに求めていた。
「うわぁ……凄いよ姫君。マシになったなんてもんじゃない。別人じゃないかこれ」
「ありがとうございます。くまは隠れました。後は別人ではなくリトスさんですよ」
鏡を見ると、先程までの酷い顔はなくなっていた。姫君の技術力の高さに驚きながら、改めて感謝を伝えた。
「よし。それじゃあ行ってくる!」
「頑張れ」
「頑張ってください」
準備が整うと、二人に見送られながらフェリア様の待つ帝都へと向かうことになった。
◆◆◆
〈レイノルト視点〉
リトスを見送ると、取り敢えず一段落着いたのでレティシアと二人に向かい合ってソファーに座った。
「……」
(……体調不良のリトスか)
少し心配を胸に感じていると、無意識に無言になってしまった。すると、レティシアが思いもよらない提案をした。
「私達も行きますか?」
「えっ」
「心配なんですよね、リトスさんのこと。それならこっそりと付いていって、もしものことがあれば助けるとか」
「……名案ですね」
二人微笑み合うと、リトスに続いて帝都に向かうことにするのだった。
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