第251話 終幕したお茶会





 無事、お茶会は終了した。


 途中ネイフィス様は「体調が優れないので帰ります」と告げて一足先に会場を後にしたが、誰からも視線を受けることなく静かに消えていった。


 関心を持たれなかったこと、ネイフィス様にとってこれ以上に屈辱的なことはないだろう。同情することなく、ここから去る後ろ姿を見送ったのだった。


 今は、ほとんどのご令嬢が帰路につき、特に親しいご令嬢とシャーロット様のみが残る形になっていた。


「……大成功だな、レティシア嬢」


 シャーロット様のその一言が、お茶会を終えたことへの実感と成功への喜びを感じさせてくれた。


「はい……!」


 シエナ様、ルナイユ様、シルフォン嬢も温かな微笑みを浮かべてくれた。


「これ以上ない、素晴らしいお茶会だったと思う。次も是非呼んでくれ」

「もちろんです、シャーロット様」

「問題も解決したみたいだし、私はこれで安心して帰れるよ」

「本当にありがとうございました」

「レティシア嬢の役に立てたなら本望だ。今後も困ったことがあったら言ってくれ。……もちろん、ご令嬢方も」


 高位貴族のご令嬢である三名は、すぐさまシャーロット様に感謝を述べて一礼した。


「では私は大公殿下に挨拶をしてから帰るとするよ。一足先に失礼する」

「はい、ありがとうございました」


 そして、シャーロット様は会場を去るのだった。最初から最後まで、気高く美しい皇后陛下だった。


(……本当に素敵だった)


 一息つくと、シエナ様が優しい声色で話し始めた。


「お疲れ様でした、レティシア様。レティシア様にしかできない、唯一無二の価値の高いお茶会だったかと」

「ありがとうございます……!」


 穏やかな笑みが本心だと告げるように、シエナ様は丁寧に講評してくれた。


「私達も凄く楽しんでしまいました。本当はお助けするために、色々と注視していたのですが、それが必要ないくらい、魅力溢れるお茶会だったかと」

「ルナイユ様の一言は凄く助けになりました。本当にありがとうございます」


 あの一言があったから、花を折ることができた。ルナイユ様は十分すぎるほど助けてくれた。


「お疲れ様でしたエルノーチェ様。エルノーチェ様のお茶会でなら毎月、いえ毎週喜んで行きたいです」

「ありがとうございます、シルフォン嬢。シルフォン嬢もお疲れ様でした。ネイフィス様の動揺を誘うのに、なくてはならない陽動だったので」

「お役に立てて凄く嬉しいです」 


 最初の大役を見事完璧に果たしたシルフォン嬢。彼女がいなければ、そもそもネイフィス様がここまで大胆に動くこともなかっただろう。

 

 改めて三人に感謝を伝えると、シエナ様から素敵な提案を受けた。


「こんなにも皆様力を注いだのです。慰労会ぐらい開いても良いのでは?」

「とても良い案ですね。せっかくですから、後日皆様と語り合いたいです。シルフォン嬢もいらっしゃいますよね?」

「は、はいルナイユ様。是非私も参加させてください」

「レティシア様、いかがでしょうか?」


 とんとん拍子で話が決まったが、反対する理由がどこにもなかった。


「是非! よろしくお願いします」

「では開催は私の家にしましょうか?」

「良いのですか、シエナ様」

「もちろん。今回特に何もできなかった分、ここで活躍させてください」


 日程も時間もすぐに決まったので、今日はもう解散することにした。


「本日は誠にありがとうございました。次回の開催も、是非いらっしゃってください。いつになるかはわかりませんが」

「もちろんです、レティシア様」

「招待状、楽しみにしていますね」

「何回でも参ります!」


 馬車まで三人を見送ると、馬車が見えなくなるまで城の外で立っていた。


(……良かった、無事終わって)


 その瞬間、ようやく肩の荷が下りて緊張が解けるのだった。


「レティシア」

「……レイノルト様!」

「お疲れ様です」


 城内に戻ろうと振り向けば、そこにはレイノルト様がいた。


(……凄く会いたかった)


 労る眼差しといつもの柔らかな笑顔を見ると、私も小さく笑みをこぼした。そして、近付いてきてくれたレイノルト様を思わず抱き締めてしまった。


「レティシア。私も凄く会いたかったです」

「……レイノルト様」

「……たくさん頑張ったみたいですね。本当にお疲れ様です」

(……はい。頑張りました。それに、とても楽しかったです)

「皇后陛下から聞きましたよ。大公妃としてこれ以上ふさわしい人間などいないと。……言われずともレティシアしか務まりませんが」

(ありがとうございます)


 すっと顔を上げると、愛おしいという眼差しを向けながらレイノルト様は続けた。

 

「それでも、レティシアが多くの人を納得させたのなら、こんなにも誇らしいことはありません。さすがは私の婚約者であり、妻になる方です」

「ふふ。レイノルト様は見る目がありますね」

「えぇ。誰よりもある自信があります」


 少し冗談を交えながらも、お互いへの想いを言葉にするのだった。


「さぁ、冷えますから中に入りましょう」

「ありがとうございます」


 レイノルト様に手を引かれながら、大公城へと戻った。気分は帝国に来てから一番晴れやかなものだった。


 

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