第232話 恋する者と偵察者達
予定通りリトスさんが乗った馬車が大公城に到着したので、ルナイユ様は偶然を装って接触する作戦を決行することにした。
城の入り口からレイノルト様の書斎に行く道の間が、絶好の機会。
私とシエナ様はというと、ルナイユ様の応援のために、リトスさんからは見えない場所でこっそりと隠れて待機することにした。
(ここならギリギリ声が聞こえる、かな?)
直前まで緊張した様子のルナイユ様だが、落ち着いた様子にも見えた。まだリトスさんの姿は見えなかった。
「大丈夫ですかね、ルナイユ様……」
「……大丈夫だと思います。フェリア様のように想いを溜め込んだ場合は、いざとなれば伝えなくてはと本能が働くはずですから」
「なるほど……」
進行の多いシエナ様の言葉は説得力があった。とにかく、私とシエナ様は見守ることしかできない。成功をただ祈って、そっと見つめていた。
緊張を抑えても不安は残るのか、ルナイユ様はどうしようという眼差しでこちらを見つめた。
「頑張ってください……!」
「フェリア様なら大丈夫ですよ」
二人で応援の言葉と雰囲気を送ると、ルナイユ様はコクりと頷いて。前を向いた。
(……! リトスさん来た!!)
その瞬間、私とシエナ様は最大限息を潜めて気配を消す。
「あれ?」
「あっ」
(頑張ってください、ルナイユ様……!)
二人の目が合ったのは、不安から下を向いていたルナイユ様が、正面を向いた瞬間だった。
ルナイユ様は小さく深呼吸をすると、見事なカーテシーでリトスさんに軽く挨拶をした。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、もしかして姫ぎ……エルノーチェ様のお客様ですよね?」
「……はい」
(これは、ルナイユ様のことを覚えているのかな……?)
ドキドキしながらさらに耳をすませた。
「ルナイユ様、改めてご挨拶を。リーンベルク大公家専属商会の会長をしております。リトスと申します」
「……」
「?」
(こっちからじゃリトスさんの表情しか見えないけど……大丈夫かな?)
軽く挨拶をしたリトスさんだったが、ルナイユ様はピタリと固まってしまった。
「わ、私のことをご存じで……?」
「もちろんです。帝国の公爵令嬢ではありませんか」
「……そうですね」
その言い方はルナイユ様にとっては嬉しくない、と感じてしまった。しかし、リトスさんの言葉には続きがあった。
「それに、とてもお美しいので。一度見たら忘れられないかと」
「ーー!!」
(わっ! リトスさんでもあんなこと言うのね!?)
リトスさんはどことなくはにかみながら、ルナイユ様にそう伝えた。
「大変、フェリア様赤くなってしまいましたわ」
「あ、本当ですね……!」
じっとルナイユ様を見つめれば、少なくとも耳は赤くなっていた。
「ありがとうございます……商会長様のように素敵な方に覚えてもらえて光栄ですわ」
「……! 私の方こそ、もったいないお言葉です」
二人で微笑み合っているだろうその雰囲気は、悪くない、むしろ良いように思えた。
「ルナイユ様はどうしてここに? エルノーチェ様と一緒にいないということは」
「あ……」
「さては、迷われましたか?」
「そ、そうなのです」
迷子という設定にしよう、という作戦会議での言葉を思い出した。その時、後ろでふわっと風が吹いたように感じたが、気にせずに夢中に二人を見ていた。
「大公城は広いですから迷いますよね。よろしければお送りしますよ」
「そんな……よろしいのですか?」
「もちろんです。……応接室、ですかね?」
「はいっ」
「では行きましょう」
(……リトスさんが女性をエスコートしてる。新鮮……)
こうして二人は移動し始めた。彼らの後を追おうかと、二人に視線を釘付けにしながら、シエナ様に小さな声で伝えた。
「シエナ様、こっそりと着いていきましょう」
「なるほど、これは確かに新鮮ですね」
「えっ、レ!」
(イノルト様っ!)
「しっ。気付かれてしまいますよ?」
(びっくりした……)
明らかにシエナ様でない声に振り向けば、そこにはレイノルト様がいた。驚いたあまりに名前を呼びそうになるも、レイノルト様に口を優しく抑えられた。信じられない早さで何度も頷いた。
いつの間にか後ろにはレイノルト様がおり、その後ろにシエナ様が微笑ましい様子で立っていた。
(さっき感じた風の正体はこれね……!)
「正解です」
レイノルト様は、こそりと耳元で答えてくれた。楽しそうに微笑む姿は、いたずらが成功した少年っぽさもあって、珍しいものを見れた気がした。
「では挨拶は後にして、今はリトスを追いましょうか?」
「はい」
シエナ様は優雅に一礼しながら、同意を表した。
私達は、急いでルナイユ様とリトスさんの後を追うのだった。
▽▼▽▼
いつも読んでくださり誠にありがとうございます。
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詳細は近況ノートに載せましたので、よろしければ覗いてみてください!!
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