第228話 恋する令嬢の葛藤


 昨日は更新をお休みしてしまい、大変申し訳ございませんでした。

▽▼▽▼


 赤らめた両頬に手を当てながら、込み上げてきた気持ちをなんとか沈めようとするルナイユ様。


 彼女は言った。リトスさんと話してどうしようと。言葉だけ聞けば、様々な感情を推察できる。


 ただ、ルナイユ様の表情とまとう雰囲気が、何を言いたいのか明確に表していた。


(てことは……………………えぇっ!?)


 私自身、理解するのに時間がかかったものの、ルナイユ様の言いたいことがわかると、盛大に衝撃を受けるのだった。


 さすがに心の中に反応は留めたものの、正直動揺しか浮かばない。


 どうするべきか悩みながらも、取り敢えずルナイユ様に声をかけることにした。


「あ、あの……ルナイユ様」

「は、はい。エルノーチェ様っ」


 我に返ったのか、パッと勢い良くこちらを向く。赤らめていた頬の熱はほんの少しだけ引いているような気がした。

 

 声をかけたはいいものの、どこまではっきりと言って良いのかわからず、慎重に言葉を選ぶ。


「も、もしかして……その、ルナイユ様はーー」


 言いかけると、ルナイユ様は再び顔を赤らめながら、ぎゅっと目を閉じて一度だけコクりと頷いた。それは私が最後まで言葉にするよりも早かった。


(そう、なのね……)


 その反応は疑いようのない、純粋すぎるものだった。反射的に提案をする。


「あの、ルナイユ様。よろしければまだお話ししませんか?」


 幸いにもまだ日が落ちるような時間ではなく、話そうと思えば話せる時間帯だった。


「よ、よいのですか?」

「もちろんです」

「ぜ、是非……!」

「では戻りましょう」


 帰る雰囲気は一瞬で消え去り、私達は応接室に戻っていった。リトスさんのような、お見送りの様子を見た人間からすれば不思議な光景だろうが、見つかることはなかった。


 こうして私達は、もう一度向かい合って席に着いた。


「……改めてお聞きするのですが、ルナイユ様はリトスさんが」

「はい。長らくお慕いさせていただいてます」


 そう告げると、ルナイユ様の頬の熱が再び戻ってきた。恥ずかしながらも、彼女は自分の心情について語った。


「実は……リトス様のことを、影ながら長らくお慕いさせていただいておりまして。ご本人には何一つ伝えられていないのですが、諦めることができず……今に至ります」


 ルナイユ様の語る目は真剣そのもので、ぎゅっと手に力を入れながらも途切れることなく話し続けてくれた。


「元々リトス様はオーレイ侯爵家のご子息でしたが、今となっては侯爵家を出たと耳にしております」


 確かに、現在のリトスさんの肩書きはオーレイ侯爵子息よりも、商会会長の方が色濃く移るだろう。


 貴族として行動しなくなったリトスさんに接触する機会は、著しく減ってしまったとルナイユ様は告げた。


「……ですが私は、これでもルナイユ公爵家の娘です。お父様には結婚相手は好きにして構わないと言われておりますが、正直、ある程度家のためになる結婚をしなくてはとも思ってしまって」


 考えてみれば、今のオーレイ侯爵家とルナイユ公爵家では釣り合わないと言うのは納得できる。以前リトスさんの兄に当たるオーレイ侯爵が、問題の多い人間であることは周知の事実だから。


(……そういえば、内密に処理するとライオネル陛下が仰っていたけど、どうなったのかしら)


 ラナを助ける目的を達していたから、オーレイ侯爵のその後を気にしたことはなかった。けれども、知っておくべきだと思ったので、今度聞いてみることにした。


 正直に言って、ルナイユ様は、遠回しに自分が恋愛結婚をしてはいけないような意味の言葉を並べている気がした。


「それに……リトス様からすれば、私のような家格の高い人間はきっと面倒だと思ってしまって」


 落ち込むような表情を浮かべたかと思えば、瞬時に意思の強い目線をこちらに向けた。


「そうやって諦めようと言い訳をして、どんなに逃げても、駄目なんです。どうしても、リトス様をお慕いする気持ちを消すことができなくてっ……」

(あぁ……ルナイユ様は、本当にリトスさんのことが好きなんだわ)


 家と言う肩書きに関する葛藤と、相手を思いすぎる故の不安を感じてもなお、ルナイユ様はリトスさんのことを諦められないのだ。


 それだけ本気なのだと伝わると、私の考えも段々とまとまっていった。


「……どうすればよいのか、実はわからないんです」


 熱意のある言葉と、苦しそうでも諦められない彼女の姿勢が、私の気持ちを動かした。


「ルナイユ様。……ルナイユ様は諦めないんですね?」

「……諦めたく、ないです」

「それなら振り向かせないと」

「ふ、振り向かせる……!?」


 驚きながらも、ルナイユ様の瞳には光が宿っていた。


「はい。行動しましょう、私がいくらでもお助けいたします!!」

「エ、エルノーチェ様……!」


 諦めない彼女を助けたいと思うのに、そう具体的な理由は要らないと思った。


(それに……長い間想い続けてきたのに、なにもしないで気持ちを捨てるなんて悲しすぎるもの)


 勇気を出して教えてくれたルナイユ様の話を、一方的に聞いて終わらせるつもりはない。そう真剣な瞳で見つめれば、ルナイユ様は覚悟を決めた目で頷いた。


「……是非、お願いいたします。エルノーチェ様!」


 

▽▼▽▼▽▼


 カバーイラストが公開されました!

 

 詳細は近況ノートに掲載いたしましたので、よろしければ覗いてみてください。


 そして、いつも読んでくださる皆様、誠にありがとうございます。

 皆様が本作を見つけ、読み続けてくださったおかげで、本作は投稿開始から一年を経過することができました!!


 この一年を祝しまして、明日更新話とは別に記念話の公開を考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


 これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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