第227話 驚きは何度でも
ルナイユ様が公爵家にわざわざ私を招待し、誤解を生まないように行動した理由。
それは、マティルダ・ネイフィス様に存在していた。
「……マティルダとは、元々そこまで仲が良くなくて。別に家同士に亀裂があるとかではないので、完全に個人間の問題、というわけなのですけど」
お互い公爵令嬢で、同い年。それだけで、ネイフィス様にとっては、単独で輝くことができなくなるので、自分の存在は目障りだったのだとルナイユ様は推測していた。
「私は別に何も気にしたことはないのですが、マティルダはどうにも貴族意識の強い方で。公爵令嬢ともなれば、やはり上の立場になります。その存在に、自分以外がいることが気に食わないのだと思いますわ」
「なるほど」
「ただこれはあくまでも、私の見解になります」
帝国の公爵令嬢はあと一人いるわけだが、婚約者がいる上に年も少し上と離れているため、意識をすることがなかったのかもしれない。
ルナイユ様は個人の見解と述べたが、その見解は間違っていないと思う。その理由は、ラノライド嬢の誕生日パーティーでネイフィス様からされた警告。
(あれは警告と称した懐柔、または単なる嫌み。その上に嘘まで混じってるから、あまり品の良い行動とは言えないと思う)
二人に実際に会ってみた結果、私が感じ取ったのはルナイユ様の考えが合っていそうということだった。
「私は、ルナイユ様の感覚は間違っていないと思います」
「……そう仰っていただけると、凄く安心いたします」
ふわりと微笑まれる姿からは、心の底からの安堵を描いている様子だった。
「まだネイフィス様から決定的な強い何かをされたわけではありませんが、警戒するに越したことはないと思っております」
「そうしていただければと。……エルノーチェ様に、お会いして正解でした。ご自身の直感で、私のことを評価してくれることを信じていたので」
確かに考えてみれば、ルナイユ様の行動は全ての人にできるものではない、勇気のある行動だと思う。
おしとやかで品の良いだけでなく、風格がただようルナイユ様は、私の方こそ親交を深めたいと思うほどだった。
その旨を伝えて深まった笑みを受け取ったところで、私は別の話題に切り替えた。
「ルナイユ様。本日お呼びしたのは、実はお力をお貸ししていただきたいのが理由なのです」
「まぁ、とても嬉しい申し出です」
そう。今日彼女を呼んだのにはもう一つだけ理由が存在していた。
「具体的なお話を聞いても?」
「もちろんです」
力強い視線で頷くと、まずは端的に目的だけ述べた。
「実は、私主催のお茶会を開催しようと思っております」
「そうなんですね……!」
「はい。ですが、私はまだあまり帝国のやり方というものがわからず。是非、ルナイユ様のお力をお貸ししていただければと思いまして」
最初これに関して私は、シエナ様やお義母様に頼むことも考えた。しかし、ネイフィス様という警戒要素を含めて考えた時、最も適任であるのはルナイユ様であることに気が付いたのだ。
「もちろんですわ」
「よ、よいのですか?」
「はい。迷う理由など一つもありませんもの」
即答で引き受けてくれるとは思っていなかったので、まさかの出来事に驚いてしまう。
「エルノーチェ様の帝国初主催のお茶会、このフェリア・ルナイユの名に懸けて、必ずや最高のものにしてみせますわ」
「あ、ありがとうございます……!」
まさかの宣言までしてもらうことになり、驚きは動揺へと変わっていた。それでも嬉しいことに変わりはなく、笑顔で感謝の言葉を返した。
引き受けてくれた理由を聞けば、自分のことを何一つ偏見なしで見てくれたことが嬉しかったことと、純粋に仲良くなりたいからという理由だった。
「頑張りましょう、エルノーチェ様」
「はい。よろしくお願いします、ルナイユ様」
こうして私達は着実に、仲を深めていった。まずは最初にどのようなお茶会にするか方向を決める話をして、今日はお開きにした。
城の玄関で、ルナイユ様の馬車を待っていると、全く違う馬車が到着した。
「お、姫君」
中から下りてきたのはリトスさんで、どうやらこれから仕事があるのだという。
「姫君はこれから出掛けるのかい?」
「いえ、お客様のお見送りを」
「これは大変失礼いたしました」
こちらに近づいてルナイユ様の存在に気が付くと、急いで、けれども正確な挨拶を行った。
「リーンベルク大公家の専属商会で会長をしております、リトスと申します。以後お見知りおきりを、お嬢様」
「…………フェリア・ルナイユです」
「ルナイユ公爵家のお嬢様でしたか。いつもルナイユ公爵家にはお世話になっております」
「……はい」
他愛のない、挨拶込みの会話を済ませると、リトスさんはレイノルト様のいる書斎へと向かった。
彼が去ると、ルナイユ様の様子がおかしいことに気が付く。
「ルナイユ様?」
「……どうしましょう、エルノーチェ様」
「なにか問題がありましたか?」
不安げに彼女の方を向けば、少し赤らめた顔で、戸惑いながら告げた。
「私、リトス様と会話をしてしまいましたわ……!」
その表情は、弁明のあのとき見た、恋する少女のものだった。
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