第218話 事実vs虚偽
今日はラノライド嬢の誕生日パーティーに来ていた。
ラノライド家は、子爵家の中でも上位にはいる有力な家なので、各家のご令嬢方が集まっていた。
(生誕祭と少し違って、令嬢だけを集めたパーティーね)
ルウェル嬢の取り巻きでもあったからか、ルウェル嬢のお茶会で見た面子がほとんど同じであった。
(……というか、これならルウェル嬢もいるでしょうね)
一波乱ありそうな予感を感じながら、主催であるラノライド嬢への挨拶を済ませた。
(……シエナ様もシルフォン嬢もいないのね)
知り合いがいないことを少し残念に思いながら、この前のガーデンパーティーのように、噂の訂正に回ろうと決意するのだった。
(と思ったけど、回る必要はないかな。一ヶ所に集中してるみたいだから)
動き出そうと周囲を見渡せば、ルウェル嬢が一部の男爵、子爵、伯爵令嬢の集まりに悲壮感を漂わせながら、何かを話していた。こちらをちらりちらりと見ながら話しているので、嫌でも気が付くというもの。
(これは近付いて話に入らないと)
即座にそう判断すると、私はルウェル嬢達の元へと向かった。
「……ということなのです。どうやら私は、エルノーチェ嬢に嫌われてしまったみたいで」
「まぁ……」
「これが本当なら、少々理不尽ですね」
「ルウェル様、大丈夫ですか?」
彼女達の反応を聞くからに、ルウェル嬢の刷り込みは成功しているように見えた。けど、今ならまだ間に合う。そう思って話の輪の中に割って入った。
「お話の中のところ、大変申し訳ありません」
「「「!!」」」
ルウェル嬢を囲んでいたご令嬢方が、一斉に驚きの表情になる。それだけでなく、ルウェル嬢本人も戸惑いの表情を一瞬見せた。
(まぁ、明らかに悪いことを話されてる所に、本人は来ないとでも思ったんでしょうね)
ルウェル嬢がそう考えていたとしたら、その予想は外れというもの。私にとっては、悪い話から耳を塞ぐことよりも、この噂を鎮火させることが圧倒的に重要だから。
「どうやら私がルウェル様のことを嫌っているという噂が飛び交っているようですが、全くの偽りにございます」
「「「……」」」
ご令嬢方は突然の登場かつ、発言により固まってしまっていた。
「い、偽りって……エルノーチェ嬢は私が嘘を述べてると主張なさるのですか……!」
「はい」
「!」
悲しげな表情を浮かべながら、いかにも被害者のように振り絞った声で並べた言葉を、特に否定せずに頷いた。
「少なくとも、私の記憶とは異なる部分が多すぎるので。それを考えると、私はルウェル様が嘘をついているようにしか考えられなくなります」
「そんな……あんまりですわ……!」
同情を誘うような振る舞いを続けるルウェル嬢に、私が動揺することはなかった。
(……お
ルウェル嬢の反応に笑みを浮かべると、事実を並べはじめた。
恐らくそれは、ルウェル嬢が先程まで彼女達に話していた内容とはまるで真逆の話になっただろう。
そのせいもあって、ご令嬢方は困惑の反応しか見えなかった。
「私と全く違うことを言うほど……私のことがお嫌いなのですね」
ルウェル嬢が訳のわからないことを言っても無視をして、私は最後まで事実だけを話しきった。
「私側の主張としては以上となります。こちらはあくまでも、私個人の話として覚えていただければ幸いにございます」
ご令嬢方の反応は決して良いとは言えなかったが、それでも私は怯むことなく最後まで堂々として話を終えた。
「皆様……これはもう、エルノーチェ嬢が私を嫌いだと明言しているようなものですわっ……!」
私としてはそれで終わりにしてよかったのだが、ルウェル嬢はここぞとばかりにご令嬢方を説得にかかった。
その行動にため息をつきたくなったが、黙っていても仕方ない。そう思って、口を開こうとした時だった。
「話をさえぎって申し訳ありません。ですが私達からよろしいでしょうか?」
その瞬間、私の背後から何人かのご令嬢方がやってきた。振り返って見ると、彼女達は先日のガーデンパーティーで話をした子爵家中心のご令嬢方だった。
「ルウェル様とエルノーチェ様で話がわかれてしまってると思いますわ。ですが皆様。確かなことが一つだけあると思いませんか?」
その中の一人が、毅然とした態度で話し始めた。
「ルウェル様はエルノーチェ“嬢”とお呼びになっていること。侯爵令嬢であるルウェル様が、王国の公爵令嬢であられるエルノーチェ様を、です」
「「「!!」」」
「それに、なぜエルノーチェ様が会って間もないルウェル様を嫌う必要があるのか……私達には到底理解ができませんでしたわ」
続け様に他のご令嬢方も、私に有利な話を進めてくれた。
(これって……援護射撃じゃ)
そんなことをしてもらえる理由はわからないけど、味方に付いてくれた彼女達には心の底から感謝の想いであふれていた。
彼女達の言葉を聞いて、困惑していたご令嬢方の半分以上は、何かに気が付いたような表情になっていた。
その間、ルウェル嬢はひたすら悔しそうな顔を隠すことなく浮かべていた。
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