第211話 思いもよらない縁
シャーロット様とのお茶会から戻ると、家にはとある招待状が届いていた。招待を受けると、その二日後に、私はノースティン伯爵令嬢主催のガーデンパーティーに向かうことになった。
(……シルフォン嬢はいないのね)
今回のガーデンパーティーは、ルウェル侯爵令嬢が以前開催したような大々的なものではなく、ノースティン伯爵令嬢が親しい人間だけを集めた小規模のパーティーだった。ただ、何故招待されたのかはわかっておらず、困惑気味に挨拶へ伺った。
「ご招待いただきありがとうございます。ノースティン様」
「様付けなどおやめください。そのような呼び方をされてしまうと、私がリリアンヌ様に後で小言を言われますので」
「お姉様に……?」
ノースティン嬢から出てきたのは、姉リリアンヌの名前だった。予想外な出来事に驚いていると、ノースティン嬢も少しびっくりしていた。
「あら。ご存じなかったのですか。それだとこの招待状にはさぞ驚かれたことでしょう」
「実は……そうでした」
「私の配慮が欠けていました。申し訳ございません」
「いえ! ご招待いただけたこと自体は本当に嬉しかったので。本当にありがとうございます」
「……」
「……?」
ピタリと止まったノースティン嬢をきょとんとした表情で見つめてしまう。少しの間じっと見つめた後、くすりと微笑んで沈黙をやぶった。
「エルノーチェ様は、随分とリリアンヌ様に似ていらっしゃらないのね」
「そう、ですか?」
「えぇ。(リリアンヌ様と違って)とても可愛らしいですね」
「あ、ありがとうございます」
(……気のせいかな、含もうとした言葉まで聞こえた気がする)
動揺しながら改めてお辞儀をすると、にこりと微笑まれた。
「まずは手短に、私とリリアンヌ様の関係についてお話しした方が良さそうですね」
「お願いします」
初めに言われたのは、ノースティン嬢の婚約者さまが外交官だということ。それ経由で紹介されたのだと話し始めた。初めて出会った時は、かつての甘ったるい雰囲気のリリアンヌだったという。
「第一王子のような、権力のある方が好みだと察しましたので、我が国では大公殿下の婚約者の座が空いているという話ばかりしてましたね。もちろん社交辞令な意味合いで。あちらからすれば、私が大公殿下をお慕いしてると、勘違いされてもおかしくなかったかもしれません。当時はどう接していいかわからなかったもので」
「そうだったんですね」
その一度限りの出会いかと思えば、リリアンヌがフェルクス大公子が次期国王と内定し、リリアンヌもそれに重ねて次期王妃と決まったため、今でも親交があるのだという。
「仲を深められたのは最近でもありましたので、リリアンヌ様がお話しをできなくとも不思議ではありませんね……やはり招待状に色々と書くべきでした」
「いえ、ご配慮いただきありがとうございます。お気持ちだけで」
どうやら、ついこの前までセシティスタ王国にいたのだという。それ故に、ルウェル侯爵令嬢主催のお茶会にはいなかったのだという。
ノースティン嬢は、とても品のある方なのだが、それを全面的に出そうとせずに、あくまでも落ち着いた雰囲気を持っていた。
「では改めまして自己紹介を。ノースティン伯爵家長女、シエナ・ノースティンです。よろしくお願いいたします」
「セシティスタ王国エルノーチェ公爵家四女、レティシアです。よろしくお願いいたします」
お互いにカーテシーをするも、やはりノースティン嬢の動きは格が違うように思えた。
「……お嫌でしたら断っていただいて構わないのですが」
「はい」
「レティシア様と、下の名前で呼んでも構いませんか? 私にとってエルノーチェ様はリリアンヌ様も該当してしまいますので」
「もちろんです……!」
初めて会ったのだから、段階を経て呼び方を変えるべきでもあるのだが、ノースティン嬢とは親しくなれたらと心のどこかで感じていた。
「あの……よろしければ私もシエナ様と呼んでも構わないでしょうか?」
「まぁ。とても嬉しい申し出ですね。是非ともそう呼んでいただければ、光栄にございますわ」
純粋に心から嬉しいという笑みを浮かべて、お互いに微笑み合った。
シエナ様は明言なさらなかったが、話の節々から、リリアンヌから私のことを頼まれたのを感じ取った。
(リリアンヌお姉様、ありがとうございます。……後で絶対に手紙を書きますね)
どこまでも気を遣ってくれる、そんなリリアンヌの優しさを噛み締めた。
「レティシア様、ではまた後程お話ししましょう」
「是非。よろしくお願いいたします」
「では今日はどうぞ楽しんで」
シエナ様の温かな笑顔に、朝抱いていた緊張はすっかりほどけていた。
(良かった、とても良い方で。……よし、私は本来の目的を達成しないと)
そう意気込むと、ご令嬢方が集まっているのを見つけるのだった。
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