第209話 王妃様とお茶会を



 突然の言葉に、どう答えて良いかわからずに黙ってしまう。けれども、すぐさまシャーロット様は伝えたい内容を続けた。


「先日のお茶会の内容を聞いて、後悔したんだ」

「後悔、ですか?」

「あぁ。私は騎士の家出身だったから、普段からそういう場への参加は少なくてな。王妃となった今でも、必要最低限……自分がたまに開催するくらいなんだ」


 その話は別に何もおかしなものではなかった。王妃であれば、お茶会の参加よりも他にするべきことがあるはずだから。


「そのせいで、今回の非礼を事前に防げなかった」

「え……いえ、これはシャーロット様に責任は」


 何故謝られているのかますますわからなくなった私は、疑問符を大量に浮かべながら、暗い表情をするシャーロット様に声をかけた。


 それでも彼女はふるふると首を横に振った。


「……レティシア嬢。私は公務のために出席しなかったんじゃない。騎士家出身の自分には、肌に合わなくて逃げたんだ。本当なら、社交界の中心になることを目指さなくてはいけなかったのに」

「……」

「そもそも、お茶会のあんなふざけた風習をレティシア嬢が来るまでに消しておくべきだったのに……不快にさせた原因の一旦は、私にもあるんだ」

(あぁ、もしかしてそう言うことか)

 

 仕方の無いこと、無関係なことではなく、シャーロット様の中で今回の一件は防げたかもしれない出来事だから謝罪の気持ちが生まれてるのだ。そう解釈すると、納得できた。


「それに……ここから先、社交界の面倒事がレティシア嬢が相手にすることになるだろう。私が無視をしたとばっちりが、レティシア嬢に行ってしまうのが本当に申し訳なくてだな……」


 目線が少し落ちて、本当に申し訳なさそうな表情はかえって私の胸を痛めた。


「どうかそこまで追い詰めないでください。シャーロット様の思いは伝わりました。その上で言いたいのは、私はそれで全く構わないということです」

「レティシア嬢……」

「適材適所という言葉があります。ただ私こそまだ、社交界の中心に立てるような人間ではありませんが、そうなれるよう努力をしたいと思っております。とばっちりだなんてとんでもない。私は成長できる場を残してくださったと捉えますよ?」

「レティシア嬢っ……!」


 シャーロット様は、感激したような眼差しへと変化した。


「なので、謝罪は受け取れません」


 間違いなく、シャーロット様は公務に専念するべきで、社交界とは密接にならなくていい部類の方。それに対して私は、自分のためにも、レイノルト様のためにも、社交界に身をおいて努力を重ねなくてはならない。


「……レティシア嬢は本当に強いな」

「まだまだです」

「謙遜も兼ね備えてるだなんて……レイノルトは本当に良い相手を見つけてきた」

「あ、ありがとうございます」


 突然そんなことを言われると照れてしまい、少しだけ顔がにやけてしまった。


「全く。こんなに可愛い私の義妹を蹴落とそうとするとは。……ご令嬢方の見る目を疑うよ」

「あはは……」

「そもそも、婚約披露会のレイノルトの姿を見れば、脈が無いのは明らかだろう」

「そう、なんですか?」


 腕を組んでため息をつくシャーロット様は、頷いて続きを話した。


「あぁ。今までどのご令嬢にも素っ気なく、決まった対応をしてこなかった男だぞ? それに加えて作られたような冷たい笑み。多少鈍くても絶対にわかる圧倒的な壁を作っていたんだ」

「レ、レイノルト様が……」

「想像つかないだろう。私からすれば、レティシア嬢と共にいる姿の方が驚きそのものなんだがな。……あれは間違いなく本当に愛しい者にしかできない表情と態度だ。それを目にしたのなら、諦める一択なのにな」


 改めて以前のレイノルト様の話を聞くが、やっぱりぱっと思い付けない。


「そもそも。婚約披露会と言ってるだろう。婚約と。……はぁ。恋は盲目と聞くが、どうかその酔いから目覚めてほしいものだな。取り返しのつく間に」

「……そうですね」


 その言葉は、貴族の令嬢である以前に民である彼女達を想っての言葉だった。


「……やはり諦めてもらうためには、私も努力をしないと」

「苦労をかけるな……」

「いえ。認めてもらうこと、彼女には敵わないと思ってもらうことは、絶対に必要ですから」


 力強く頷くと、その意思を汲んだシャーロット様は笑みを深めた。


「その勇姿、応援しなくてはな」

「ありがとうございます」

「私も何か力になりたいが……そうだな」

「……」


 ふむと顎に手を当てて何かを考えるシャーロット様。


「あまり過ぎたことをすると、立場上かえってレティシア嬢の迷惑になりかねないからな……」

「お気持ちだけで十分ですよ」


 応援してくれる、その言葉だけで私の胸は満たされていた。


「わかった。ではこうしよう」

「?」

「今度はレティシア嬢のお茶会に招待してくれ。必ず行く。もちろん、大々的で構わないからな?」

「ーー!!」


 それは、とてもありがたい申し出だった。隠し武器になる、そう言われたようなものだったから。


「ありがとうございます……!」

「これくらいしかできないのが歯がゆいがくらいだよ。……何かあったらすぐに訪ねてくれ。必ず力になるから」

「もったいないお言葉です。本当にありがとうございます」


 笑顔で話しに区切りがつくと、いよいよお茶とお菓子を堪能し始めるのだった。

 


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