第194話 国王夫妻の登場




 貴族達からの挨拶が完全に終了すると、それを告げるようにライオネル陛下とシャーロット妃殿下が登場した。


 会場内の貴族達が一斉に頭をさげる。私とレイノルト様も彼らと同時に礼をした。


 陛下達はにこりと微笑みながらこちらに向かってくる。

 

 以前見た時は、二人とも玉座に座っていたため、夫婦でも別々の存在として際立っていた。けど、ライオネル陛下にエスコートされたシャーロット妃殿下の姿は仲の良い夫婦そのものだった。


「すまない二人とも、遅くなった」

「申し訳ない」

「大丈夫です」

「構いませんよ兄上、義姉上。国務を放られる方が困りますからね。例えばセシティスタ王国に来た時みたいに」


 私が答えて一息開けると、レイノルト様は作り笑顔でさらりと本音を述べた。


「シャーロットは優秀だから問題ない」

「レイノルトに同意だな」

「シャ、シャーロット? まさか怒って」


 動揺するライオネル陛下を、一瞬だけだが初めて見た。といっても声色が変わりはせずに、確認を取るような言い方で目が揺れた程度だった。


「ないよ。信頼あっての行動だからな」

「そういうことだレイノルト」


 ふっと笑う妃殿下はとても素敵な表情で、とても余裕のある女性に見えた。 

 対して陛下は、不安に対する否定をされると自慢げにレイノルト様へと視線を戻すのだった。

 その様子は見慣れた光景なのか、レイノルト様も目を閉じて小さく笑っていた。

 

 


「……こほん。まずはとにかく祝いの言葉を贈らせてくれ。レイノルト、レティシア嬢、本当におめでとう。何度も言うが、うちのレイノルトを引き取ってくれて……レティシア嬢には頭が上がらないな」

「とんでもないです」

「レイノルトと幸せになってくれ」

「必ず」


 穏やかな表情で弟の事を想った祝福を述べていたと思えば、最後に表情がきりっとしたものに変化した。


「レイノルトを頼んだ。だが何かされたらすぐに王城に駆け込んでくれ。いつでも部屋を用意しておく」

「兄上、その必要はありません」

「そうか、残念だ」


 その様子を見ていると、レイノルト様とライオネル陛下の仲がよくわかった気がした。


「私からも祝辞を。本当におめでとう。そしてレティシア嬢。帝国に来てくれて、私の義妹になってくれてありがとう。早速なんだが今週以内に二人でお茶でもしないか?」

「あ、ありがとうございます。是非できればと」


 祝辞では終わらずに、突然のお誘いに驚きながらもありがたく受けとる。


「義姉上、気のせいでしょうか。私への祝福が無い気がするのですが」

「まさか。気のせいだ。レティシア嬢の方が愛らしく思ってるだけで」

「レティシアは私の婚約者です」

「知っているさ。だが私の義妹だろう?」

「いやシャーロット、私の義妹で」


 三人の会話となってしまうと、前回は静かに見つめていたが、さすがに入る努力をしようと感じた。


「み、皆様全員と仲良くできれば幸せです」


 内心は困惑気味だが、それを出さないようになるべく自然に近い笑みを浮かべて告げた。


「……」

「……」

「……」


 その反応は良くなかったのか、三人の視線だけ浴びて沈黙ができてしまった。しかし不安が生まれる間もなく、三人の会話は答えとして再開された。


「……レイノルト、こんなに良い婚約者を逃すなよ?」

「当然です、兄上」

(え? か、過大評価されている気が……)


 突然のライオネル陛下の高評価に躊躇いながら、目をぱちぱちとさせてしまう。


「レイノルト、もしレティシア嬢を泣かせたら……セシティスタ王国にいるレティシア嬢の姉君達に代わって、まずは私がお前に制裁を下すことをここに宣言するよ」

(!? ひ、妃殿下まで凄いことを言ってる……!)

「義姉上が私に剣を抜く機会は無いかと」

「ならいい」


 目のぱちぱちは、驚きの増加で開けたまま少し固まってしまった。


 ただ、シャーロット様のきりっとした眼差しはとてもかっこ良かった。


(……普通、その言葉を言われるのは私の方じゃないのかな)


 仮にも二人はレイノルト様側の親族なので、私の方に脅すに近い言葉はかけるはず。それが普通だと思っていたのだが、出会った日といい、今日といい、レイノルト様側の親族の皆様は本当に暖かい人ばかりであった。


「あぁ、そろそろダンスの時間が」


 会場内に楽団が入ってくるのを確認したライオネル陛下が呟いた。


「たまには兄上も踊られては?」

「そうするよ。シャーロット、我々はここらへんで終わりにしようか」

「そうだな。二人の時間を邪魔してはいけない」

「理解のある家族で何よりです」

「あ、ありがとうございました……!」


 ではまた、と帰り際に別れの言葉を残すと、二人は会場の中央へと戻っていった。


 楽団が入り始めたからか、心なしか会場内の雰囲気が賑やかなものに変わり始めた。


 それは、ダンスへの誘いが始まったことを示していた。


「……レティシア」

「はい」


 エスコートを静かに離すと、レイノルト様は向き合って改めて手を差し出した。


「私と踊っていただけますか?」

 

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