第185話 挨拶と新たな出会い




 翌日、予定通り私はレイノルト様と共に王城にいる国王陛下並びに王妃殿下訪ねていた。


「来たか。レイノルト、レティシア嬢」

「ご無沙汰しております、陛下」

「帝国へ戻ったことを、ここにご報告致します」

「あぁ。遅いぞ、来るのが」


 にこやかに釘を刺されるものの、少しも気にしていない様子を見ると、改めて兄弟なんだなと実感する。


「帰国に関してはリトスに報告を任せたはずですが……おかしいですね」

「本人が来るものだ、普通」

「寛大な兄上ならそこは許容なされると思ったのですが……思い違いだったようです」

「……レティシア嬢もこんな偏屈だと苦労するだろう」

「とても良くしていただいております」


 急に話が振られるものの、流れるように対応をする。服装が変われど、圧を感じないからか特段緊張することはなかった。


「ライオネル。久々に弟に会えたから喜ぶのはわかるが、私にも可愛らしい婚約者殿を紹介してくれないか?」

「あぁ、すまないシャーロット。彼女がレイノルトがようやく見つけてきた婚約者のレティシア嬢だ」

「セシティスタ王国エルノーチェ公爵家より参りました。四女レティシア・エルノーチェにございます、妃殿下」

「よろしく、レティシア嬢。私はシャーロット・フィルナリア。王妃だが、肩書きを気にせず接してほしい」

「よろしくお願いいたします」


 シャーロット・フィルナリア王妃殿下。彼女は元々騎士を目指していた女性だったが、ライオネル陛下と学友だったこともあり、陛下が望んだ女性として王妃となった。恋愛婚のようだが、シャーロット様は元々侯爵家のご出身なので、身分は充分だった。

 

 当時は女性人気の高いシャーロット様が王子妃に選ばれた時、同性からの反感は少なかったらしい。

 

 今日お目にかかれてその理由がわかる。ライオネル陛下に負けず劣らないカリスマ性は憧れを、物腰柔らかな口調と雰囲気は親しみやすさを与える女性だった。


「シャーロットはずっとレティシア嬢に会えるのを楽しみにしていたんだ」

「そうなのですか」

「恥ずかしながら私は妹がいなくてね。王妃という立場上、あまり特定のご令嬢と仲良くするわけにもいかない。けど義妹なら話は別だろう?」

「義妹は私からしたらじゃないのか?」

「細かいことは気にするな。関係ができるに越したことはない。だからレティシア嬢。何か困ったことがあれば私を訪ねてくれ。女性にしかわからないこともあるだろうから」

「お心遣いに感謝します」

「あぁ、いつでも待っているよ」


 嬉しそうに微笑む姿からは、疑う必要のない本心だということがわかった。


「陛下、妃殿下。セシティスタ王国より贈り物を持って参りました」

「わざわざすまないな」

「ありがとう、レティシア嬢」


 話に区切りがつくと、セシティスタ王国からの贈り物を渡して挨拶を終えた。





 そのままレイノルト様のご両親へと会いに向かった。

 先王と先王妃の隠居先は、王城からそう遠くないため、移動に時間はかからなかった。


 王城に負けず劣らず立派なお屋敷は、一目でご両親がいる場所だとわかった。


「大丈夫ですよ、そう緊張せずとも」

「……はいっ」


 先ほどの陛下、妃殿下とは異なり、今回はご両親へのご挨拶という重大な任務のような出来事に鼓動が早まる。


 お屋敷に近付くと、こちらが扉を開けるよりも先に、中から女性が姿を現した。


「あら。いらっしゃい」

「母上」

「お、お初にお目にかかります」

「まぁまぁ。とっても素敵なお嬢さんを捕まえてきたのね」

「自慢の婚約者です」

「ふふ。お父様も待っていますから、挨拶は中でね?」


 屋敷内の一室に案内されると、そこには先王と思われる男性が立って待っていた。


「来たかい、レイノルト」

「ただいま戻りました、父上」

「お初にお目にかかります……!」


 ご両親である二人が並ぶと威圧感など微塵も感じない、柔らかな雰囲気のご夫婦という印象を受けた。

 名を名乗り挨拶をすると、暖かく迎え入れてもらった。ご両親と向い合わせで席に座る。


「レイノルトにはもったいないくらいのお嬢さんだね」

「本当ですね」

「誰にも渡しませんよ」

「あらまぁ。あのレイノルトからそんな言葉がでるだなんて……よほど大切なのね」

「当然です」

「セシティスタ王国で、想像以上の宝物に出会ったみたいだね」

「そうですね。代わりはありません。唯一の宝石です」


 下手に口を挟めずに話を聞いていれば、胸がじんと暖まるような会話が続いた。


「レティシアさん、うちのレイノルトをよろしく頼むよ。こんなことを言うのもなんだが……どうか幸せにしてやってくれ」

「……お任せください」

「でも困ったことがあったらいつでもここに逃げて来てね。私もレティシアさんと二人でお話ししたいわ」

「是非ともよろしくお願いします」


 穏やかなお二方からは婚約を反対する素振りはどこにも見られず、むしろ最大限喜ぶ様子と共に迎えられた。


 先王妃と近日に二人のお茶会をする約束をすると、挨拶は無事に終了した。

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