第183話 二人の大公城散策




 大公城は驚くほど広い。それは外観から既にわかっていたことだが、案内が始まるとそれを実感することになる。


「まずは、レティシアの部屋に近いものからご紹介しますね」

「よろしくお願いします」

「少し離れていますが、こちらが私の部屋です。何かあれば遠慮無く訪ねてください。いつでもお待ちしていますから」

「ありがとうございます」


 レイノルト様との部屋の距離はほどよいもので、廊下の端と端のような感覚だった。近すぎないことで負担にならず、同じ階にある点で心強く感じられる。


「この階の目だった部分は私達の部屋しかありませんので、下がりましょう」

「わかりました。一階は調理場や食事場ですかね?」

「そうですね。他には応接室などの客を迎える為の部屋がほとんどです」

「レイノルト様の書斎はどちらに?」

「一階の奥にあるので、そちらにもご案内しますね」

「お願いします」


 階段を降りた先には、早速食事をする部屋が見えた。


「できればここで一緒に食事をしたいのですが、いかがでしょう」

「もちろんです。一緒に食べましょう」


 広々とした部屋を見ながら、思ったことをそのまま言葉にした。


「二人で食べるには、かなり広いですね」

「気になりますか?」

「いえ、今までレイノルト様がここで一人で食べているのを想像すると、何だか寂しく思えて」

「……!」

「でも……もう一人じゃありません。だからこれからは一緒に食べましょうね、レイノルト様」


 大公城に来てからというもの、その広さには驚いてばかりだった。だがそれと共に、レイノルト様が使用人を除けば一人で過ごしてきたことを考えるとと、彼の背景と重なって胸が少しずつ締め付けられていたのだった。


 その孤独を目の当たりにしながら、これからはそれを拭えるように自分が努力しようと胸に刻んでいた。


 今まで背中を押してきてもらったことも、支えてきてくれたことにも対する想いを、今度は自分が返す番だとおもって。


 レイノルト様の方を見て照れながら微笑むものの、恥ずかしくてすぐに目線を下にそらしてしまった。その瞬間、レイノルト様の声が降ってきたのがわかった。


「レティシア……失礼しますね」

「どうし……!」


 優しく名前を呼んだかと思えば、そっと引き寄せて抱き締められた。その動作に驚きながらも、静かに受け止めた。


「……もう、寂しくありません」

「寂しくさせませんから、頑張りますね」

「はい……傍にいてください」

「ふふっ」


 少しの間だけ暖かく包まれると想いは無事届いたのか、エスコートが再開した。書斎の場所を確認すると、城内から外へ出た。


「うちは一応騎士団があるのですが、そこのご紹介を」

「騎士団……!」

「エルノーチェ家にはありませんでしたよね」

「はい、なので少し緊張します。どのように接するのが正解なのでしょうか」

「考えすぎず、普通で構わないかと。レティシアは魅力あふれる人なので、気張らなくても充分ですから」

「そう言っていただけるのは嬉しいのですが……」


 結局、私がまともに会話をしたことがある騎士はモルトン卿のみで、その期間も短いものだった。


「騎士もただの人間ですから。何も考えずに接するのが良いかもしれませんね」

「確かに……何だか落ち着いてきた気がします」


 レイノルト様の言葉を受け、そう言われてみればモルトン卿も特段変わっている方でもなかったことを思い出した。変に気負っても仕方がないと思うと、前を向いた。


「あ……そうでした。レティシア、騎士団をご紹介するのに重ねて、護衛騎士もご紹介しますね」

「ありがとうございます」

「本当なら私が近くで守り続けたいのですが、残念ながら現実問題厳しいので」


 しょんぼりとするレイノルト様に向けて、安心材料になる話題を話す。


「少しだけ護身術を学んだので、安心してください」

「護身術?」

「はい。お兄様から護身術用の剣をいただいたので、出発まで扱い方を護衛騎士だった方に教わったんです」

「なるほど……」

「……私がレイノルト様を守れるほど強ければ良いのですが、その道のりは遠そうです」

「とても嬉しい申し出ですが、無理はしないでくださいね」

「お約束します」


 かえって心配させてしまう結果になってしまったものの、喜んでももらえたので良しとした。


「着きました。こちらが騎士団の訓練所で、奥が寄宿舎になります」

「凄く立派な寄宿舎ですね……!」

「そこそこな人数がいるもので。と言っても、全員が騎士ではないんですよ。中にはリトスの商会で働く者もいるので」

「なるほど、納得しました」


 大公城とは別で、独立した別棟とも言える建物の正体は寄宿舎であった。


「大公殿下!! お戻りになられましたか!」

「あぁ、さっき戻った。レティシア、紹介します。騎士団長のオリバーです。オリバー、彼女は私の婚約者だ」

「大公家騎士団、団長のオリバー・トルファンです。よろしくお願い致します、婚約者様」

「セシティスタ王国より参りました、レティシア・エルノーチェにございます。よろしくお願い致します、騎士団長様」

「私などにご丁寧にありがとうございます、呼び方はいかが致しましょうか」

「あ……できればお嬢様系統がよいです。もちろん名前でも」

「ではお嬢様と」

「はい」


 騎士団長との挨拶を終えると、護衛騎士の紹介を経て、大公城の案内は無事終了した。


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