第182話 新たな侍女




 自室に運ばれてきた荷物を一人で確認していると、ノック音が響いた。


「「失礼致します」」

「はい」


 扉の向こう側からは女性の声が聞こえ、扉が開かれると、そこには二人の侍女と思わしき人物が立っていた。


「本日付よりお嬢様の専属侍女となりました、シェイラと申します」

「エリンです、よろしくお願い致します!」


 二人が名乗り終わると今度は私が自己紹介をした。


「よろしくお願いします。セシティスタ王国より参りました、エルノーチェ公爵家四女のレティシアです」


 洗練されたカーテシーをしながら述べると、にこりと微笑んだ。


「わぁぁ……」

「……エリン」

「あ! すみませんっ」


 見るからにエリンと名乗った方の侍女は若く、今目にした少しのやり取りでシェイラと名乗った侍女の方が貫禄があった。


「お嬢様、我々はお嬢様に仕える身でございます。出来る限り楽に接していただければ幸いです」

「さ、幸いです!」


 歩み寄ろうとしてくれる二人に安心しながら、私も緊張を解いた。


「わかりました……その、初対面で聞くことではないかもしれないのですが、年齢はおいくつで?」

「二十二歳にございます」

「じゅ、十六歳です!」

「私は十八歳で、今年で十九歳となります」


 前世の名残なのか、身分よりも年齢の方が意識をしてしまう。公爵令嬢としての意識が足りないとも言えるが、歳上であれば丁寧に接しなくてはという感情が芽生えてしまうのだ。


「出来る限り、二人の負担にならないように接していけたらと思います。その、親しくなれたらなと思うので……よろしくお願いします」

「よろしくお願いします、お嬢様」

「よろしくお願いします!」


 接してみた印象は、シェイラは真面目で勤勉的な方が強かった。その上かなり有能な方で、荷解きの手の付け方を迷っていたら、あっという間に終わらせてしまった。

 エリンはとても緊張をしているが、一生懸命与えられた仕事をこなそうと動いており、とても頑張りやさんな印象を受けた。シェイラと比べてしまうとどうしても能力は劣るものの、侍女として十分な素質はあると感じた。


(専属侍女を二人もつけていただいて……後でレイノルト様にお礼を言わないと)


 二人と一緒に荷解きの後の片付けをしていると、再びノック音が響いた。


「レティシア、お時間大丈夫ですか?」

「はい、もちろんです」

「では城内を案内したいので、行きましょう」

「わかりました」


 微笑み合うと、レイノルト様は一旦扉を閉めて外で待機した。


「シェイラ、エリン、後のことをお願いしても」

「もちろんにございます」

「お任せください!」


 後片付けを押し付けるようなことに申し訳なさを感じながら、ありがとうとお礼を告げて急ぎ準備をした。

 化粧台で髪だけ整えると、すぐさま扉に向かった。


「お待たせしました、参りましょう」

「はい、行きましょうか」


 差し出された手に自分の手を乗せるのは、もはや日常と化していた。それでも毎回ここに手を置くには鼓動が鳴る。そう思って乗せようとした時、レイノルト様が手を下ろして口を開いた。


「あ……レティシア。もしよかったら、なのですが」

「はい……?」


 行き場を失った手をぎゅっと握りしめながら、レイノルト様の方を見つめた。


「こちらのエスコート方式でも構いませんか?」

「え……!」


 どういうことだろうと疑問符を浮かべようとした次の瞬間には、レイノルト様は腕を差し出していた。それはいつも以上に距離が縮まることを示していた。


「あ、あの」

「嫌でしたら元に戻します」


 濃すぎる情報の衝撃に脳内がパンクしかけ、言葉に上手く表せなくなった。どうしよう、と感じるものの重要なことを思い出したので、それで対応した。


(嫌じゃないです、恥ずかしいです! 凄く!!)

「恥ずかしい……それは、私と歩くのは恥ずかしいという?」

(どうしてそうなるんですか……!)


 深刻そうな表情で返された為、目を見開いて反応すれば、クスリと笑みをこぼされた。


「すみません、わかっています。……まだこちらは早かったですかね。行きましょうか」

「か、からかったんですか……!」

「まさか。レティシアの可愛らしい反応が見たかっただけです」


 さらりと言ってのけるあたりはさすがだが、私だけが鼓動の動きが早まってしまい、何だか不平等に感じた。むっと一瞬考えると、レイノルト様が上げた腕を下ろそうとした瞬間、肘のあたりめがけて手を伸ばした。


「!」

「……嫌ではありません。これで行きましょう」


 照れと恥ずかしさを最大限隠しながら、目線は反らして告げた。


「えぇ、行きましょうか」


 それでもやっぱり反応が気になって、目線を上げれば、ほんの一瞬驚いた表情から、これでもかと言うくらい発光した輝かしい笑顔を放っていた。


(……まぶしい)


 恐らく喜んでもらえたのだろうと思いながら、上機嫌のレイノルト様と共に城内散策を始めるのだった。


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